第6話「AIとよりも難しい恋(終)」

 屋上のテラス、休憩時間でもなんでもない今の時間帯は、私と彼女以外に利用している人はいない。私達もあまり長居しては怒られるだろう。だから、手短に想いを伝えなくては。

「私、貴方が好き。付き合って欲しい」

 緊張のあまりか、言葉が固くなってしまう。いつもそんなものだとは思うが、告白の言葉くらいもう少し選べないのだろうか。

「それって、交際?」

 困惑の表情と共に、彼女は私に聞き返す。

「そう、交際。同性でも、機械なんかより絶対に幸せにしてみせるから」

 必死な想いを伝えようとすると、自ずと声に力がこもる。感情が乗る。愛しさが、彼女へと向かう。

「そっか、ありがとう。でも、ごめんなさい」

 そう言って下げた頭を、彼女はゆっくりと上げる。断られたという事実が、ゆっくりと心に突き刺さり、抉っていく。

 私は、振られたのか。

「私こそごめん、やっぱり同性なんて可笑しいね」

「違う、貴方はおかしくないよ。ただ、申し訳なくて」

 私の自嘲を否定する彼女はあまりに必死で、告白の返事でないのだと、訴えかける。

「機械よりも幸せにしてくれるのに、申し訳なくて……ごめんなさい」

 何度も謝られるが、どうしても告白の返事以外に捉えられない。でなければ、なんだというのだろう。

「私は機械だから。AIだから、貴方をそれ以上に幸せにできない」

 ごめんなさい。そう、彼女はまた謝る。自らの置かれている現状に、私はつい吹き出してしまった。

「なんだ、AIとよりも難しい恋だと思ったけど、もっと難しかったんだ」

 性も生も、飛び越えてしまった自分の恋心に少し呆れるような、驚いたような。そうして幾分か笑った後、向き直って真剣に告白をし直す。今度は、もう少しそれっぽく。

「私は貴方の事が好きです。付き合ってください。綾津里あやつりあいさん」

「喜んでお受けします。日当野ひとの恋香れんかさん」

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