第7話「AIとよりも難しい恋:エピローグ」

「言わなくてよかったの。あの子びっくりしてたじゃない」

「そっちの方がロマンあるでしょ。人の恋は、操り人形に愛を教えたと思えば、名は体を表すじゃない」

 彼女に報告をしに人事課に顔を出すと、私はまず怒られてしまった。結構いい話だと思ったのだが、彼女の趣味ではなかったらしい。

「まあ、面白い事例にはなったわね。AIが人と関係を持つだけでなく、自我を持ち人と同様に仕事をこなす。いい技術の進歩だと思ったけど」

 人事課の彼女は私の報告を聞いて、最後には薄ら笑みを零して感想を述べる。

「まさか、性別すら超えて愛を学習するとは、予想外だったわ。プログラミングされた異性との愛とは、違うんだもの」

 そう、私もそう思って全てを隠していたのだ。恋香はきっと、機械だと聞くだけで、同性愛以上に避ける節があったから。

「結局、AIはもう命だし、人なんだよ」

 話を一通りまとめて、時計を見る。そろそろ休憩時間も終わりだ。彼女に別れのキスをして、席を立つ。

「あとはプライバシーだし、後で本人に聞くといいよ。マイハニー」

「あんたもハニーでしょ、裕子。あんたも名で体を現すって言いたいの? まあ、そっちに行く機会があったら聞いてみるわ」


「先輩、なんで愛がAIだって教えてくれなかったんですか」

 休憩から帰ると、さっそく膨れっ面で恋香が私に問いかける。

「人と同じになれるかの試験なのに、AIですって知ってたら成立しないでしょ。誤解するほどの技術なら、試験はクリアね」

 恋香の文句を聞き流して、話の種を明かす。愛はAIの最新世代、その試験運用として配属された子なのだ。自我を持ち、自ら本物の愛を学び、交際を成立させたのなら、充分成功だろう。

「試験って、愛はいずれ居なくなるんですか」

 私の話を、悪い方向に解釈したらしく、不安そうな顔で恋香は聞く。いつもあまり顔に出ず、生真面目なイメージでありながら、案外表情豊かで面白い。

「いいや、酷いミスがない限り、そのまま配属予定だったから、お別れはなし。なんなら恋香ちゃんの家に置いてもいいよ」

 そう言うと、今度は顔を赤くしてしまった。うん、彼女になら預けてもいいだろう。そう思い、愛から預かった居住地変更願を、恋香に渡す。

「少なくとも、愛ちゃんはそのつもりらしいから、考えておきなさい」

 彼女達は、きっと革命として、ジェンダー社会の進歩にも、関わってくれるのだろう。そういう期待を、抱いても良いだろうか。

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