第5話「入れ替わるように」

 昨晩のあれは夢だったのだろうか。そう思う程には、朝のハルは素っ気なかった。

「おはようございます。明季さん」

 そういうハルの声は、本人はいつも通りを心がけているつもりなのだろうけど、どうしてもいつも以上の距離を感じる。

「ハル、昨日の――」

「昨日のことは忘れてください。いつもの冗談ですよ」

 私が何を言っても、冗談だったと言って昨日の事を一切受け付けない。いっその事なら違和感なく否定しきれていたら、私も忘れられたのに、あの時の顔と今うかべている顔があまりにも切なくて、私の頭から離れない。

 それに……私だって、ハルを嫌っている訳では無いのだ。確かに振り回されて今まで困惑させられっぱなしだったが、悪くないと思えてきたのだ。寧ろ、最近では貰われるのも満更では無いと思っていたのに。

「私、そんなつもりで昨日男の人の話をしたんじゃないよ。ただ、私を貰って恋愛できないのが悪い気がして……」

 ただ、それだけは分かって欲しくて、祈るように切に告げる。

「いいんですよ、無理しなくても。明季さんは昨日の方と一緒になればいいんです」

 貰ってあげる、それだけのつもりだったのだと、念を押すように言われる。

 まるで入れ替わりだ。私がハルを想うようになったと思えば、今度はハルが私を避けるようになってしまった。

 どうすれば、私達は結ばれるのだろう。

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