第4話「ただ、チャンスを掴みたくて」
「ただいま、遅くなってごめんね」
謝りながら玄関で靴を脱いでいると、おかえり、とハルが出迎える。スマホを見ると時間は既に11時を回っており、遅くなるとは言っていたが少し悪い気がした。
「残業だったんですね。ご飯、明季さんの分もありますけどどうしますか」
ハルは私が仕事着を脱ぐのを見ながら、労わるように問いかける。そういう訳では無いのだが、言ったらハルは怒るだろうか。
「いや、食事に誘われちゃってね、だからご飯はもう大丈夫」
ふと、そう言った時のハルの表情が、一瞬だけ固まって見えた。何か、驚いたような、落胆したような。
「そうですか。男の人でしたか」
ハルはベッドのへりに座り、快活に問う。ああ、そうだ、ハルは私を貰うと言っていたんだった。もし私が今日ご飯を食べたあの人と繋がれば、ハルは普通の恋愛ができるんだろうか。
「うん、男の人。結構話も合ってね。仲良くできそう」
そう答え、私も今日はもう寝ようと寝巻きに着替えてベッドの方へ向かうとハルは立ち上がって、私の肩を掴む。
「そう、私が、同情で貰うと思ってたんだ」
瞬間、私は視界の動転の後にベッドに押し倒されていた。
「は、ハル、どうしたの」
私は出来事を上手く理解できず、抵抗することもままならない。ハルの顔を覗くと、悔しさというか、哀しさというか、負の感情がない混ぜになったように複雑な表情を浮かべていた。
「私は、こんなに明季が好きなのに」
その言葉に、私の心は真っ白にされた。
「ごめんなさい、明季さん。おやすみなさい」
何も言えないでいると、すぐに私の隣に横になり、眠ってしまうハルの姿に、私は余計に混乱してしまうのだった。
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