第3話「嘘みたいな本当の話」

 朝起きると、今日は珍しく愛優が先に起きていた。普段は弁当を作る役目を持っていても、愛優よりも私の方が起きるのが早い。というのも、ただ私が早く目を覚ますだけなのだが。

「おはよう、芽衣」

 ……なんだろう、愛優がいつもより頬が緩い。気持ち悪いような、怪しいような。私は寝起きなのも相まって、人でも殺せそうな眼光を秘めているのだろう。殺せるだろうかと睨みつけてみる。

「いいの? そんなに睨んで。私は貴方を赤面させられるんだから」

 そう言って自信満々に愛優はスマホを出す。画面は、ボイスレコーダーの再生画面を写している。

『愛優……弁当ありがとう……愛だね……』

 その音声を聞いて咄嗟にスマホに手を伸ばす。暁美との話の勢いで柄にもなく愛優に感謝をしてしまったばかりに、こんな寝言を零すなんて。とにかく言い訳を考えなくてはと、思考を巡らせる。

「違う、それは川魚の方。鮎弁当だから」

 咄嗟にしてはまあまあな言い訳をつくが、どうだろう。初動が悪かったとしかいいようがない。スマホを奪おうとした時点で、弁解は不可能に等しかった。

「嘘みたいだよね〜。まさか芽衣が私に感謝なんて。今感謝してくれてもいいんだよ」

 今回ばかりは、私の負けだった。私は溜息をつきながら、ボソリと感謝を伝える。

「ありがとう、お弁当、美味しいよ」

 愛優がいつになくはしゃいでいるようだが、まあ、たまにはこういうのも、悪くは無いのかもしれない。

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