第4話「お泊まりです①」

 結局、雪花の両親も私の泊まりを快く承諾してくださったのもあり、一度着替えを取りに家に戻ってからすぐに雪花の家へと向かう。秋空は六時を過ぎると既に暗く、夜の訪れの早さが季節の移ろいを告げる。

「改めてお邪魔します」

 そうしてまた挨拶をすると、キッチンで夕食を作っている雪花の母がどうぞごゆっくりと、気さくに返す。

「夏海、荷物は置いてちょっと外に出ない?」

 二階の雪花の部屋に荷物を置きに行こうとしたら、雪花がパーカー姿で階段を下りてきた。外に出るって、別に星やら何やらが出ている訳でもないのに、なぜ寒い思いをするのだろうか。

「まあ、分かった」

 特段断る必要も無いので、思案も程々に荷物を置いて雪花の後を追う。

「寒っ。雪花、外で何すんの」

 ついさっきまで自転車を漕いでいた外が、今はより寒くなったように感じる。少し歩いた先にいる雪花は、私の方へと振り向いて私を見つめる。街灯のおかげでうっすらと見える顔は、いつもより、真面目そうに見える。

「何かするわけじゃないんだけど、ちょっとね」

 いまいち雪花の意図がわからず、首を傾げて周囲を見回す。何かイタズラでもする気だろうか。しかし、暫く待っても何も起こらない。

「雪花、ちょっとって、何もないんだけど……っ!」

 無音に耐えられず目を逸らしながら口を開くと、駆け足の音と共に、前方から大きな質量を感じる。それと、小さくひんやりとした、唇の感触を、首筋に。

「ほらほら早く戻らないと、もうご飯だよ!」

 首を撫でながら、一体何だったのだろうと考えるが、何かが変わる訳もなく、それはキスで、雪花の唇なのだ。

「全く、それが幼馴染の好きなの?」

 薄ら笑いと共にこぼす言葉は、玄関まで駆けていく彼女には届けない。届けたら、今の距離感が保てなくなりそうで、届けられなかった。

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