第2話「よくあるやつ」

 空がすっかり暗くなってしまった頃に、ようやく私は帰路につけた。もっと早く帰って自由な時間があった大学生の頃が恋しい。時期が恋しいし、今頃私の住処に共に暮らす大学生も恋しい。暁美は今頃どうしてるだろう。夕飯は先に食べておいてと言ってあるし、大丈夫だろうが。

「ただいま、暁美。結構仕事長引いちゃって」

 玄関で荷物をおろしながら愚痴をこぼすと、暁美がエプロン姿で出迎えてくれる。ああ、迎えのいる事の、なんといい事か。そう思い、笑みを浮かべるが、それだけではなかった。

「おかえりなさい夜宵。お風呂にする? ご飯にする? それとも……わ、た、し?」

 暁美が何を言っているのか、私は一瞬わからなかった。そして、理解が追いつくと共に、頬の紅潮を感じる。

 どうして人を誘うのがこうも上手いのだろう。うっとりと見つめられては、本当に暁美を選びかねない。

「とりあえず、ご飯」

 削られながらも残った理性でそう答え、食卓へ向かう。

「うん、用意できてるよ。食べよっか」

 にしてもさすがだね、と暁美は感心しながら私の後ろで準備をする。なるほど、試されてたのか。そして、それで正解だったのか。

「じゃあ、暁美を選んだら、どうする気だったの?」

 料理を並べる彼女に、悪戯心と共に聞いてみる。するとたちまち赤くなり、ぶんぶんと顔を振って慌て始めた。私の嫁が可愛い。

「その、その時は、ベッドで、いっぱい私をあげたけど……」

 恥じらいながら言う彼女に、私の理性は蜘蛛糸1本ほどしか残らなかったのは、言うまでもない。

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