第2話「幼馴染の特権」

「雪花、帰るよ」

 私はいつも帰る前に、雪花のいる囲碁・将棋部の部室へ顔を出す。私はバスケ部だが、この学校のバスケ部は同好会のような感じで、軽く練習とゲームをしたら解散という形をとっていた。雪花もまた、囲碁・将棋部には私を待つ間の遊び程度にしか取りくんでいないが、まあ、人それぞれだろう。

「お疲れ様。今日はどうだった?」

 そそくさと帰る準備をし、私にゲームの結果を尋ねる雪花。今手合わせをしていた少女は放っておいて良いのだろうかと見てみると、どうやら後輩らしく、お疲れ様でしたと雪花に挨拶をし、残った盤面を1人で進めていた。雪花や我等バスケ部とは違い、部活に熱心な子らしい。目が合うとその子は微笑み、どういう訳か私は少しゾッとした。防衛本能のような?

「夏海、あの後輩が気になるの?」

 しばらくボーッとしてると、雪花が私に問いかける。そうだ、私はゲーム結果を聞かれていたんだった。

「いや、別に。ゲームは今日も私が得点王」

 歩き始めながら、そう言ってドヤ顔で雪花に返す。私も部活ガチ勢ではないが、ゲームは全力でやるほうが楽しい。そうして得点王になった日には尚更だ。

「おお、さすが夏海。よしよし、おめでとう」

 帰り道を2人で歩いていると、雪花はいつもそう言って私を撫でる。勝っても負けても、なにかにかこつけて私を撫でようとするのだ。嬉しいには嬉しいが、少しもどかしい気持ちになる。

「雪花はさ、私を撫でたり、その、キスしたり? そういうの好きだよね」

 なんで、と問いかけると、雪花はうーんと少し考え始める。そんな、普段から考えずにそんなことをしていたのだろうか。

「色々理由はあるけど、一つ挙げるならそれが幼馴染の特権だからかな」

 なんだそれは、と思ったが、それだけ大事な関係に思われるのは嬉しかったので、よしとしよう。うん、幼馴染か、いいものだなと、しみじみ思いながら、私は雪花と帰路につく。

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