第2話「出遅れているわけじゃない」

 ファーストキスの味なんて、全く考えられなかった。強いていえば、いや、強いて言う言葉も見つからない。

 それ程までに急に、私の頭は真っ白に掻き乱されたのだ。およそ10歳は離れているであろう姪の少女、ハルに。

「明季さんは、ずっと独り身だったんですよね。私のお母さんに、呆れられるくらいには」

 なんと馴れ馴れしい。とはいえ、その言葉に嘘や間違いは一つもない。私はずっと独り身だし、それでハルの母親、私の姉に呆れられていることもまた、事実だった。

「とはいえ、出遅れてるわけじゃないわよ。私まだ26だから! まだ手遅れじゃないから!」

 あまり強く言うと、余計に焦っている感が伝わってしまっただろうか。ハルは俯いて表情を見せず、クスクスと笑みだけをこぼす。

 何が、何がそんなに面白いのだろう。私だって、好きで一人でいる訳では無いし、ハルだって学校が近いってだけで押し付けられたのだ。私の何がそんなに面白いのか。

「ううん、手遅れじゃないよ、明季。私が明季を貰ってあげるから」

 そう言って、ふと上げた顔から覗かせる瞳は、私の心を乱暴に掴んで、釘付けにする。何故だろう。何故私は、10も歳下の少女に、こうも上手く扱われてしまうのか。そう思いながらも、私はその瞳に縛られることしか、出来なかった。

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