託宣①
アーリアの村(マリーに村の名前を聞いた)を、マリアの支配から解放した波瀾万丈!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「マリーも我々も、無事にこうしていられるのは、ハラン殿のおかげですな!」
「いや、それほどでも…ははは…」
あれから2日は経つが、ずっとこんな感じだ。
村人たちの意識が戻ってから、マリーは皆に事情を説明してくれた。
【
カオス教団と名乗る組織に利用されそうになったこと。
そして、僕らがそれを退けたこと。
「さあ、もう1杯!」
杯が空いた瞬間を逃さず、村長が僕の杯に飲み物を注いだ。
「もう十分お礼はしていただきましたから…」
「そうおっしゃらず。それに明日は、この村の祭りなのです」
「アーリアの祭り?」
「ええ、町から司祭さまもいらっしゃるのですよ。
―――【託宣】の儀式も行われるのです」
「マリー!」
「おかえりなさい、ハランさん」
僕は村長邸から、マリーの家へ帰ってきた。
「村長さんの歓迎は、大変だったでしょう?」
「ああ、なかなか帰してくれなくて…って、出かけるのかい?」
見るに、マリーは旅の装いだ。
「ええ、村の無事も確認できたことですし、当初の目的通り、わたしを【騎士】に任命してくださった領主さまの下に向かおうかと」
「明日の祭り、見ていかないのかい」
僕が訪ねると、
「そうですよ!ハランさんからも、もっと言ってやってください。そんなに急ぐ必要があるのかと―――」
だけど、マリーの意思は固いようだ。
「わたし、このあいだの戦いで思ったんです。もっと早く、強くなりたい、って。だから、1日でも早く行きたいんです」
溢れるほどのやる気だ。
「行かせてやってはどうかね」
「マリーはもう十分、私たちのために戦ってくれたさ。彼と共にね」
そう言って、僕にも目を向ける。
「そんな私たちが、
ケビンさんの意見にハンナさんも渋々同意し、僕らはマリーを村の門まで送ることになった。
その途中、不意にマリーが足を止める。
「―――あのあたりでしたね」
マリーの視線の先にあるのは、マリアと戦った村はずれの小屋だ。
「すごい【
「あれは、君のもともと持っていた強さだよ。マリーはもっと強くなれる。僕が保証するよ」
「―――ハランさん」
僕とマリーの目が合う。
「でも、あのときのハランさん、すごく慌てていたわよねー。
マリー!生きててよかった!って!」
「ハンナさん!だからそれは忘れてくださいって―――!」
「ふふ、おかしかったね。【
あれから、ことあるごとにこのネタで茶化される。
(どうせ僕はアニメの見過ぎさ…)
村の門に着いた。
「道中、気をつけてね」
「体にも気をつけるんだよ」
「うん、お父さんもお母さんも、元気でね」
マリーは両親との挨拶を済ませた。僕も寂しさはあるが、応援したいという気持ちもある。
「野盗には、くれぐれも気をつけて」
「次は返り討ちにしますよ」
「はは、その意気だ」
「じゃあ、行きますね」
マリーが別れを告げ歩き出す。
その背中が小さくなった頃、僕は手を振り、大きな声でエールを送った。
「マリー!がんばれよー!」
マリーも手を振り替えしてくれた。
なにかを言っているようだったが、声は届かず聞こえなかった。
〜〜〜〜〜〜一方その頃〜〜〜〜〜〜
アーリアの村から歩いて半日分ほど距離の離れた場所に、ひとつの集団の姿があった。
そのうち、一際大きな天幕の中―――
「司祭様、【託宣】の準備は、滞りなく進んでおります」
「結構、下がってよい」
男は一礼し、天幕から退出する。
司祭と呼ばれた男もまた、それを追うように立ち上がり、出入り口に人の姿がないかを確認した。
「【託宣】は予定通り行いますよ。それが司教様からの指示ですから」
司祭は天幕に戻り、もう1人の男に声をかけた。
「好きにしろ。だが、その後は余の好きにさせてもらう」
「変わったお人だ。わざわざ自分で出向いて、自分のものを壊すなんて」
「1度他人のものになったものなど、余には不要というだけのこと。
お前も、余に不要となるならば―――」
男はそう言い放ち、傍らの刀に手を伸ばした。
「承知していますよ。やれやれ、本当に噂通り恐ろしいお人だ。【刀の領主】様は…」
【刀の領主】と呼ばれた男は再び椅子にかける。
その双眸は、抜き身の刀のように鈍く光っていた―――
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■用語説明
①アーリアの村
-マリーが生まれ育った村
-辺境の
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