えぴそーど、きゅう。ままがだいすきな、ようじょ。

 皆様、こんにちは。いかがお過ごしですか?


 この頃は夏の始まりを感じられるような日も増えてきましたね。緊急事態宣言は解除されましたが、結局自宅にいることの多い日々で、今日もベランダに置いたキャンプ用の椅子に座りながら空を眺めたり、プランターの野菜を眺めたり、その野菜の葉っぱを幼女がちぎるのを「お願いだからやめて」と懇願したりして過ごしています。

 ベランダで太陽の光にじりじり焼かれていたら、なんだか自分がどこか異国の地でバカンスを過ごしているような気分にもなってきます。ニースにでもいるみたい。もしも視界に、何本もの電線とスズメとカラスが映っていたとしても。私にはここはニースに思えた。ほんの一瞬だけ。……幸せな脳みそを持っているのかもしれません。


 さて、私は休日だからこんなにゆったりとしたスローライフを送っているのでしょうか? いいえ、違います。実は無職になったのです。

 無職。その話をしますか?

 いいえ、やめておきましょう。


 とにかくそういうわけで、私は毎日娘と過ごしています。娘は保育園に行かなくなってからすっかり甘えん坊さんになってしまって、朝起きると寝ぼけた顔で「ママー」と言いながら私の元へやって来て、大抵私はソファーに座っているので、娘もその隣によじ登って座り、私の腕をカリカリ軽く引っ掻き続けます。娘はなぜか私の腕を軽く引っ掻くことが多く、夜眠るときも、決まって私の腕をカリカリしながら眠りにつきます。なぜカリカリするのか。可愛いような気もするし、全然痛くないので別にかまいませんが、あまりにもずっとカリカリされると煩わしいので、できれば辞めてほしいです。自分がされたらどうなのかな?と思って試しに娘にカリカリしてみたら、くすぐったかったようで「ギャーーー!」と叫びながらゲラゲラ大笑いした揚げ句「やめて?」と真顔で言われました。自分はいつもやっていることなのに、まるで私が大人げないことをしたみたい……理不尽なものです。


 家に閉じこもって実家にも帰れずに生活していると、生活の中で関わる人間は家族だけになります。そうすると相手が二歳児といっても、私にとっての娘は自分の子供なだけでなく「ともだち」かのような部分も増えて来て、娘にとってもまた、他の場所で同年代の子と関わる機会もないので私の中に「ともだち」的な要素を見出す場面が増えた気がします。

 おさんぽするのも、お絵かきするのも、ブロックで遊ぶのも、ご飯を食べるのも、テレビを見るのも、いつも一緒の親子でありおともだち。

 子供と親がお友達のような関係になるのは良くないという説も見たことがあるような気がしますが、今はそうなってしまっています。私と娘の性格と、この環境のせいでしょうか。


「ままー、こっち」「ままー、いこう?」「ままー、かいて?」「ままー、きらきらしゅる?(きらきらぼしを歌おうの意味)」「ままー、なにかたべゆ?」「ままー、らっこ! らっこ!(抱っこしてくれの意味)」


 大抵は向こうからこちらへの要求ばかりですが、たまに違う時もあります。


「はい、きいろどうぞ」

 娘がそう言って、黄色い干し芋を一つ私に渡してくれました。娘は干し芋が大好物なのですが、分けてくれるというのです。

「いいの? あむあむ……おいしい~」

 私がそう言うと娘が「おいしい?」と言いながら嬉しそうに笑います。

「あ、まま、ぴんく」

 私の服を指さしながら娘が言います。

「ぴんく、かわいいね」

 そう言って褒めてくれます。

「あら本当? 似合うかしら。ありがとう」

 ちょっと気取って微笑んでみせちゃったりします。


 これらは私の普段の行動の真似で、おままごとのようなものなのでしょうが、自分が一方的になにかされるだけでなく相手にも何かしたい、相手が嬉しいことが、自分が干し芋を食べられることよりも嬉しい、という気持ちが確実に娘の中にあるような気がします。


 そして……話を結局、暗い暗い、無職の話に戻そうと思うのです。


 私は仕事をやめることになりました。職場はアットホームで、私のことも温かく受け入れてくれていて、本当はやめたくない職場でした。

 でも二話程前の話でも書きましたが、娘は肺炎で入院したばかりで、私はそのことを不安に思っていました。それでまあ、色々考えた挙句、会社を辞めることにしました。

 自分が仕事を辞めることで、一番仲が良くお世話になった同僚に迷惑がかかってしまいました。同僚はその事は気にしなくていいんだと言ってくれたけれど、それでも迷惑をかけたことが辛かったし、会社の人たちと和気あいあいと過ごしてきた時間や、苦労して仕事を覚えて来た事等を思い返すと、自分が考えていた以上に喪失感は大きく、会社に最後の挨拶を済ませた次の日、私は一日中泣いていました。

 どうしてか涙が止まらず、何故か、こんな辛い気持ちは誰も分かってくれないという思考に陥っていて、それで涙目のまま半日過ごした後、夫にワーっと叫んでから大泣きしてしまいました。


 そしたら娘が、心配そうな顔で「まま、どうしたの?」と言って、私の顔を見つめてきました。そして「だいじょうぶ?」と言って、ティッシュを一枚、私に差し出してくれました。

 私はもらったティッシュで涙をふいて、鼻をかんで、そしたらまた娘が「はい、どーじょ」と言ってティッシュを渡してくれました。それでまた私は鼻をかみました。

 夫も、私に色々話してくれました。私の味方だし、最大限私に対してできることはしたいと思っていると言ってくれました。


 そうしたら嘘のように暗かった気持ちが晴れていって、一晩寝て翌日になると、一体昨日は何をそんなに思いつめていたのか、わけがわからないと思うまでにメンタルが回復しました。


 娘は私が面倒をみる対象なだけでなく、いつの間にか頼りになる相棒になっていました。っていうか二歳児に慰められ、面倒をみられてしまいました……。


 もうちょっと、明るくて頼りになるお母さんに、なっていきたいよな~と思います。


 そしてもっと気楽に日々を過ごしていきたいよな~と思います。先の事は誰にもわからないし、なるようになるしかないし、その時その時で出来ることをやるしかないから。


 だからしばらくは、ベランダのニースを楽しもうと思います。


 それでは今日はこの辺で。皆様も、心身共にお大事にお過ごしください♪

 

 

 

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