3バース:コトバガリ

 うるさい…。本当に世界は言葉であふれかえってる。どこかで誰かの悪口や陰口を言ってるやつもいれば褒めちぎるように愛の言葉を思い続ける人もいる。誰かが誰かの言葉の狂気に殺される前に俺が狩り取る。それが今の俺の仕事だ。


「今日も...どすぐろい呪言霊アクダーマがうろついてんな。」


バイクを止めた後、静かに歩いていく。黒いオーラが近づいてきた。俺は背中から愛刀である零幻刀をとりだし、ゆらゆらとうごめくその黒いオーラに狙いを定めて人を切る。切ると言ってもこの刀は人には見えないし、ケガもしない。ただ、人がささやく呪言霊アクダーマは言霊の一種だが、人がコントロールできないほどの呪い、妬み、辛み、憎悪、執着心を植え付け、浸食していく悪霊。それを俺は今、切った。浸食は浅かったのか、今回は人たちで済んだ。ほっと一息をついて刀を収めた。


「うわあああああ!? えっ? 切られて...ない。 何をしたんですか?」


!? 俺の刀は誰にも見えないはずだった。だが、俺は初めて出会ってしまったんだ。


刀が僕の体をすり抜けた。そして、いままで何に怒っていたのか、苛ついていたのかわからないまま気が晴れたようになった。ふと、振り向き、刀を収めた彼に聞いてしまった。もしかしたら僕は知ってはいけないことに足を踏み入れてしまったのかもしれない。


これがあいつ/あの人との初めての出会いだった。


「おまえ、刀が... 」


「ちょっと! そんな目立つ刀ふりm、 う、うわあ何するんですかあ!?」


俺はとっさになって悲鳴をあげそうになったこいつを抱き上げて人通りの多い街道を走り去った。その時点でだいぶ変な奴だが周りから変な目で見られてしまうのもやりにくい。とにかく、走りに走った。そして人通りのいないところでそいつを下ろした。


「はあ、はああ...ここらでいいか。 おい! 今いっぱい質問したいところだが、まずは一言言っておくがこの刀の事や俺のことは誰にも言うんじゃねえぞ!」


「うあああ! ごごごごごごごごめんなさい! そんなつもりはなくて、見えてないってことも分からなかったんです!」


「周り観たらわかるだろ!? ていうかなんで見えてんだ?」


「昔から霊感が強かった? とかですかね」


俺はその言葉に妙に腑に落ちた。だが、霊感が強くても見えないようにしてるとか聞いた気がするが…まあいいか。とりあえずはこいつに念押しをしておいたし、ここは、さっさと帰るか。


「じゃあ、俺が言ったこと忘れんなよ。じゃあな」


「あ! 待って」


「んだよ」


「ありがとうございます! あのお礼がしたいんですけど」


「男と茶を飲む趣味はない 帰る」


「そうじゃなくて 名前! 僕、福原 隆馬です。 あなたの名前を教えてくれませんか」


「気持ち悪いな どうだっていいだろ。それに俺が何をしたのか分かってんか?」


「本当はよくわかってません。ですが、きっと僕の中にいたもやもやを何とかしてくれたんでしょ? だから僕は友達に嫌な言葉を掛けずにすんだ。僕、友達もできなくて、学校で」


「ああ、ああ! もう、そういう自分語りは他所でやってくれ。俺はもうほんとに忙しいから帰るからな!?」


「あ、はい」


どうしてこうも熱く語ってしまったんだろう。彼は僕にとってはたから見ればただの通りすがりだったというのに言わなくていいこともしゃべってしまう。彼は行ってしまった。その後ろ姿はとても寂しかった。


「...ここ、どこだろ あっ! 早く学校行かなきゃ!」



変な男をおいて俺はただ一人、街を歩き続ける。聞こえる、聞こえる。人の悪意が、善意が。見えてしまう見えてしまう。人の良心が、見え透いた嘘が...


『気持ち悪いんだよ! このマヌケが』

『死ねばいいのに こんなやつ』

『ブス』


「だいぶいるな」


人の声を頼りにたどり着いた先は学校だった。その学校には校舎をも飲み込むほどの黒いオーラが先ほどよりはっきりと見える。


「行くか」


俺が校舎に入ろうとすると守衛の人が止めに入る。俺は茶色いコートの裏ポケットから小汚い巾着袋を取り出し、その中をまさぐった。粉を取り出し、口元をふさいで振りまく。そうすると守衛は眠りにつき、俺はゆっくりと床に寝転ばせた。


「あいつにもこれかければよかったな。 パニクってたぜ」


急いで黒い霧が濃くなっているところを探していくと3階の教室にそれはいた。この学校の生徒3人が一つの呪言霊に取りつかれていた。悪意が成長し、それはもう怪物の姿になっていた。一人の生徒の机を囲んでいたずらでは済まされない卑劣な言葉が積み重ねられていた。


「まずは三人からあいつを離さないと!」


「うわあああ! バケモノ!?」


嫌な予感がした。声の正体を調べるため恐る恐る振り向くとやはりそこには先ほど救った少年がいた。


「おま! ついてきたのか!?」


「い、いやここ僕の学校ですけど!? それよりあれなんですか!? 僕の机をどうしようと?」


あれあいつの机かよ!?それは置いておいて、今日はなんて面倒くさい日なんだ。


「とりあえずお前は外に逃げろ!この学校の外だぞ! いいな」


そういうと彼は目の前の同級生の後ろにいる異形のバケモノと戦いに行った。僕は何もできない。だから、一目散に逃げよう。階段を下りて玄関を開け...閉まってたっけ? いや開かない!! どうしようもない。これまでも逃げてきた。人間関係からも学校からも...これでいいのか? 嫌だ! 僕はあの人を、クラスメートを助ける!


「ううぉーーーーー!!」


「な、なんだ!?」


怪物化した呪言霊のきりはなしに戸惑っていているとまたあいつが性懲りもなく首を突っ込んできた。何もできないくせに...あいつは同じクラスの奴に呼びかけた。


「みんな! 僕のことをだめでドジな奴だと思っているんだろうけど、君たちに心を折られるほど弱くはない! いつだって僕が話を聞くから! 僕に直接文句を言え!!」


呪言霊は少し三人への憑依が弱まった。今なら切り外せそうだ。三人の背後から怪物につながっていた紐を零幻刀でぶった切ると少し喚き散らしながら別のどこかへと行ってしまった。


「上出来だ、素人の割には」


そういった後、俺は鬼の後を追っていく。あいつへの最大の誉め言葉だったような気がする。誰かを褒めるなんてしたことないが


「案外気持ちのいいもんだ!」


追っていた怪物に追いつきつつ、一太刀浴びせることができた。そして刀を構えなおし、大きな怪物の頭を刃先を向けて俺は言葉を唱えた。


「鎮まりたまえ鎮まりたまえ...清き言霊よ、悪しきにとらわれず、我の言葉を聞け。悪! 散!」


怪物の動きは止まり、俺は奴の頭を一瞬で貫いた。怪物は白い霊体オーブとなって空に散っていった。俺はそれを見送った後、学校を後にした。


「待ってください!」


「さっきの確か、、」


「福原です」


「そう、それ。 さっきは、助かった。 またどこかで会うかもな。だが、俺のことは」


「秘密、ですよね。言っても誰も信じないでしょうけど」


「まあ、なにかあったら俺に依頼しな もちろん頂くもんは頂くけどな あばよ」


「『言葉狩りのシン』?変な名刺... シンさん、ありがとうございました。」


彼は言葉狩りのシン。言葉が暴走したとき、彼は再び現れる。

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マルチバース 小鳥 遊(ことり ゆう) @youarekotori

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