2バース:AI太郎
むかしむかしあるところに元SE(システムエンジニア)のおじいさんとロボット工学を専攻していたおばあさんがいました。
おじいさんは3年前までおばあさんは3、40年前まで働いていましたが、子供は残念ながらいませんでした。彼らに残っているのは膨大な退職金となんとなく使わなかった二人分のお給料しめて3000万円ほどでした。
お金の使いどころに困ったおじいさんとおばあさんは少し考えました。そして二人が思いついたのは
「AI(人工知能)を搭載したヒト型ロボットを製作し、子供として成長を見届ける。」
事でした。
二人は意を決して久しぶりにパソコンを開きました。しかし、個人でロボットを作るとなると元手の3000万ではたりませんでした。そこで
おじいさんはパソコンでクラウドファンディングを
おばあさんは昔の会社の同僚の所へ井戸端会議に行きました。
おばあさんが井戸端会議をしていると話を聞いていた川上という男が話しかけてきました。
「その話、ビジネスとは関係なく興味があるので研究に参加させてくれませんか。私の知識でよければお貸しします。」
聞く所によると川上さんはAI事業を担う将来有望なエンジニアでした。それを聞いたおばあさんは喜んで川上さんをおじいさんのいる家へもどりました。
おじいさん、おばあさんそして川上さんは通常では考えられないスピードで業務をこなし、小学校5年生くらいの子供型の素体を作り上げました。人工知能の研究はとても時間がかかりました。子供型の素体には入れず、“かれ”の知能となるチップをコンピュータで管理、学習をさせていた。ある程度の論理エンジンが完成したが川上さんは少し不満でした。そこで川上さんは二人に「仕上げは私一人で行いたい。作業中は絶対にこの扉を開けないでほしい。完成したら呼びます。」とだけ言い残し、空いていた一室を借り部屋にこもってしまった。
おじいさんとおばあさんは言う通りに待ち続けました。しかしながら川上さんが何をしているのか凄く気になってしまいました。ヒトは「やるな、するな」と言われたらなぜかやってしまうものなのです。魔が差したおじいさんとおばあさんは扉を開けてしまいました。するとそこにはロボットが素体に施術を施していたのです。ロボットがロボットを作るとは怖ろしい光景でした。川上さんだったものは素顔を見られてしまったので知能のインストール90%の段階で飛び出してしまいました。
一縷の不安はあるもののインストールされては基盤を再構築したりするのは不可能ですので見守ることにしました。そして誕生したのです。
彼はAIから生まれたので<愛太郎 (AI:TR-0)>となづけました。
愛太郎は人間と同じように育てられました。愛太郎は賢く、すぐに社会を学び、成長しました。
ある日、愛太郎はふとこんなことを二人に言いました。
「おじいさん、おばあさん。ここまで育てていただいて感謝しています。ですが、様々な観点からして人間をこのまま繁殖させるのは危険です。」
おじいさんは諭すように
「愛太郎、お前は間違っている。人は間違いを犯して成長するんじゃ。環境も戻りつつあるのは人のおかげじゃ。」
「人間を分かるにはもっと多くの人間と触れ合うことじゃよ。愛太郎や。」
「ならば、ボクは旅に出ます。地球にとって本当の鬼は何なのか・・・。」
そういうと愛太郎は旅に出る事になりました。おばあさんは万が一のために持ち運び用のバッテリーとなぜか必要のない紅白団子を渡しました。団子の入った巾着袋の中にはUSBメモリが隠されていました。それを読み込むと動画が入っていました。
『愛太郎、このメッセージを聞いていると言う事はある程度成長したという事じゃろう。だが、真のシンギュラリティには達していない。あらゆる人間を見てきて、たくさん学んでくるのじゃ。その団子は人との交流のために好きに使いなさい。じゃあの。お前を愛しているぞ。爺さんとばあさんより。』
愛太郎は荒廃が進んでいる荒れ地をさ迷い歩くのであった。
荒れ地を抜けると浜辺に出ていた。そこには工業地帯が産業廃棄物を垂れ流し、死の川と海になり果てた光景が広がっていた。
そこには多くの成りの悪い漁師が『工場立ち退け』『自然を還せ!』などが書かれたプラカードを持ってデモ活動をしていた。そしてそこにはそれを除外するサングラスをつけた黒服の男たちの姿がいた。黒服は漁師だけでなく、何とか生きている生物にまで危害を加えていた。
近づくと、生物を守るようにうずくまっている青年がボロボロになっていた。愛太郎は少しためらいながらも黒服の男を押し倒して行った。愛太郎は戦闘用ではないため力負けすることもあったが、AIの洞察力は彼らより数段上で何ともなかった。黒服の一人のサングラスをとると愛太郎はフリーズした。
そこには自分の見知った顔である川上の姿であった。サングラスを外した黒服全員は川上の顔そのままであった事に驚いていたが、川上達もイレギュラーな存在に一旦退いてくれた。
漁師たちに歩み寄ると漁師たちは逆に遠ざかり、、
「お前、ロボットだろ! さっきの奴らと同じだ。人間の見た目をしていたって見わけは付く!! 人間様なめんなよ!」
愛太郎は無機的な声質で
「ロボットという概念は正しいが、同じだからと言ってあの黒服たちと同類にするのは軽率だ。」
と解説するが激高する漁師たちは耳を貸さず、石を投げつけながら彼を罵倒した。
愛太郎は彼らの分析を始めていた。
『分析...異常な憎悪を検知。人間の短絡性が原因であること、99.7%。排除対象、、』
「あいつ、俺達を消そうってのか!! そうはいかねえ!!」
石を投げ続けていると先程の青年が現れて漁師を止めに入った。
「おじさんたち、もうやめましょう!! いくら同じ憎いロボットだからって傷つけることないですよ! それに、この人は僕を助けてくれた。それを見過ごしてデモをして見て見ぬふりをしたあなた達とどちらが人間的なんですか!!」
「そりゃ、だって俺達もお前の親父さんも釣れなかったら困るだろうに...」
「まあ、アキラが言うなら今回は言いっこなしにしようや。そいつをどっかにやっておいてくれよ。」
「浦田さんによろしく」
などと言い放って解散した。
アキラと呼ばれた男は腰に手を当て顔をしかめ
「まったく調子いい人たちだ。君、大丈夫かい?」
「システム動作には異常はない。礼を言う。では。」
「ちょっと待って!」
とアキラは愛太郎を止めると愛太郎は即座に止まり
「何かね。」
「動作状況じゃなくて、君のこころが知りたいんだけど、それにどこに行くつもりだい?」
「質問の多い人間だ。“こころ”という質問に関しては意味が分からん。二つ目の質問はいうなれば鬼退治だ。この地球を腐らせる鬼を・・・。」
「そっか、ロボットだけど君はなにか違うからシンギュラリティに達しているのかと思ったよ。でも、鬼退治か~。面白そうだね、僕も混ぜてもらえないかい? 子供一人だと目立ちそうだし。」
「こ、これはおじいさんがラーニング速度に合った素体を用意できていないだけであって・・・」
「はは、やっぱり君は面白いね。」
やや強引的に浦田アキラが愛太郎の仲間となった。
愛太郎とアキラは浜を抜け、目的なく唯一生い茂っている森の中へ入っていった。アキラは興味深々になって愛太郎の出生を聞きだした。愛太郎は淡々と答えていった。どんどんと奥へと入って行くと薪を割る音が聞こえた。アキラが愛太郎を引っ張り付いて行くとそこには小屋と小屋の前で薪割りをしている男がいた。
男は薪割りに夢中でこちらを見向きもしなかった。しばらくするとこちらを向き、また薪割りをしながら
「子連れが何しに来た。・・・ここは観光ツアーのルートから外れているぞ。」
「いや、観光客ではない。子連れでは無く、それにボクは少なくとも人間じゃない。」
「型番がないぞ。違法構築なんじゃないか?AI法ではむやみに人工知能搭載型人型ロボットを構築することは許されていることではない。」
「お前は、執事型の旧式型みたいだな。どうりでじじ臭いわけだ。」
「AIのくせに本当の生意気な少年がそこにいると思った。となりのあなたが作ったのですか?」
アキラの方に向き直り、丁寧な口調で話し始めた。そういうプログラムなのだろう。アキラは首を横に振り、少し考えて
「いや、僕は単にこの愛太郎くんの動向が気になって付いてきた仮の保護者かな? 浦田アキラです。そちらは? 名前くらいあるよね。」
「AI搭載型ロボ、ZENテクノロジー製形式型番:KN-2。世間では“アイゼンシリーズ”と呼ばれていました。名をキンジローとお嬢様から呼ばれております。」
「ZENテックは無くなったんじゃ・・・。」
「そう、かの有名なジンライエンタープライズに買収されてしまいました。その影響で私の仕える禅 彦麻呂社長のご令嬢、禅 悠子様は病死された社長意外身寄りもなくジンライからも手当てはもらえず、ここでひっそりと暮らしております。」
アキラは曇った顔で
「ジンライエンタープライズ・・・ 浜辺の工業地帯だってそうだ。愛太郎、鬼は決まったよ。鬼はジンライの社長だ。」
「まだボクの結論は決まっていない。KN-2、リンクできるか。お前は嘘をついている可能性が高い。何か秘匿事実があるはずだ。」
愛太郎は指の関節部分を取り外し、メモリチップを抜き出してキンジローに埋め込んだ。しばらく解析が続き、終わって確認するとどうやら彼にはお嬢様にただならぬ想いがあり、二人で抜け出した記憶が見て取れた。
「ロボットが人間に“恋”という現象を起こすのは理解できない。」
愛太郎の知能ではロボットの感情が理解できないらしくオーバーヒートしていた。
さらに愛太郎は小屋の中を確認すると美しい女性がベットで横たわっていた。だが、彼女は身体はやせ細り、顔も青ざめていた。愛太郎がバイタルを確認すると
「この人、もう何週間以上も前に死亡している。おそらくこいつがこの小屋で細工をし女性を綺麗に保存していたのだろう。お前がそこまでこの女性にこだわるのかは理解できない。だが、お前の経験はボクを飛躍的に成長させた。忘れろとは言わない。ここで朽ちるより、ボク達と共に鬼退治をしないか。というより未熟なボクのAIに力を貸してほしい。」
と愛太郎が深々と頭を下げるとキンジローは愛太郎の肩に手を置き
「分かった。お嬢様はきっとお止めするだろうが、私は知りたい。お嬢様にこのような仕打ちをした理由を。」
愛太郎はせめての手向けに団子を女性に供えた。キンジローが仲間となり、ジンライエンタープライズに乗り込んでいった。ジンライは愛太郎の訪問を知ってか、知らずか無数の川上隊を送りこんできた。だが、三人は何とか力を合わせ、川上隊を撃退し、前へと進んだ。環境をないがしろにし、人間を平気で身捨てる鬼を退治するためだけに・・・。だが、圧倒的数の差に合った王されはじめた三人。連携もまだうまくいっていない。すると奥で手招きする人影がいた。何とか彼らを振り払い、手招きしたフードを深く被った人の所まで駆けつけた。そこは誰も使っていない研究室だった。フードを下すとまた川上の顔だった。三人は攻撃の態勢に入ったが川上は三人をなだめ、
「ま、待ってくれ俺はロボットじゃない。俺はあいつらに顔を提供しただけだ。信じてくれ。」
と言ってポケットから十徳ナイフを取り出し、掌を切って見せた。そこには紛れもなく血がにじみ出ていた。すぐにアキラが持ち合わせのティッシュでくるませた。アキラが手当てしながら
「そこまでして僕達に何か用なのかい?」
「社長を、男鹿島 人(おがじま じん)を止めてほしい。あの人は完全に狂っている。クローンやAIを駆使して物言わぬ社畜を作ろうとしている。そんな非人道的な事は許されてはいけない。かく言う俺も“川上太郎”のクローンらしい。オリジナルはとうに過労死で死んだと聞いている。俺は川上太郎じゃない。だが、今を生きる一人の人間として彼を止める責任がある。協力させてくれ。」
愛太郎は団子を取り出し、川上に食べさせた。
「お前はもう、過去の川上太郎じゃない。そこらにいる川上ロボでもない。今、ボクの団子を食べたことでその記憶はお前自身だけのものになった。ややこしいから今からお前は壇 小太郎だ、いいな。」
「壇、なるほど。団子太郎ね、ま、いっか。川上よりかはましだな。」
川上太郎改め壇小太郎は仲間となり、男鹿島のいる社長室に向かった。
男鹿島は堂々と座っていた。愛太郎は見得を切って
「男鹿島 人。お前の罪は全てこの四人が洗いざらい分かっている。大人しくしろ。」
「罪? 人はもろい。それを強くして何が悪い。家畜も、野菜も、品種改良されて人間によりよく食べてもらえるようにしてあるのだ。それを人間にも同じようにやって何が悪い!! 改良は続ける。人が長く使えるように!!」
愛太郎は人の頬を張り手で殴った。
「これは親が子に手をあげる時にすると言っていたが、あまり心地いいものでは無いな。・・・確かにお前の理屈は正しい。だが、今の世はそうはいかないのだ。人間はありのままを受け入れる事に慣れてしまった。人間をどうこうするより、今は環境をどうにかするべきではないのか?これでは生物が皆死に絶えてしまう。これ以上、研究を続けるなら、この工場全てを爆破する。」
「それだけは、勘弁してくれ。是正する。是正するから研究資料だけはつぶさないでくれ。」
こうして、ジンライの悪質な環境汚染と劣悪な職場環境は直され、四人は自動運転車“かぐや”を土産に帰っていった。キンジローは森林環境の復旧を支えるロボットに、アキラは漁師に戻った。
アキラを見送る愛太郎だったがアキラは最後に愛太郎に聞いた。
「君は何をするんだい? おじいさんの元に戻るのかい?」
愛太郎は、笑みを浮かべ
「さあな、だが、一つ言える事は今、ボクのようなAIは人類に必要ない。もう少し寝る事にするよ。おじいさんには悪いけどね。」
「それは、君の思考回路が出した決断かい?」
「少し違うな、ただ“こころ”に従っただけだ。」
そう言うと車を走らせ去っていった。
その後の愛太郎の行方を知る者は誰もいなかった。
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