虚偽事典

深川夏眠

虚偽事典


 忘れ物のトランクを、持ち主を確認するために開けてみた。幸い、財布や鍵などは身に着けていたのか、中身は金目かねめのもの以外。バイブルサイズのシステム手帳にヒントがありそうだと思ったが、開くと、それは事典の体裁。

「なんだこりゃ」


                * * *


【印象】 in-zou


 授業中、先生の話を聞いていなかった×君が指名され、黒板に書かれた熟語を読みなさいと言われた。


 印象


「……い、いんぞう」

 笑い出す生徒たち、しかし、先生は真顔で、

「なるほど。では、どういう意味ですか?」

ですっ!」



                  *



【スクリームあんみつ】 scream an-mitsu

 scream‐あんみつ:

 意味①「スプーンを差し込むと断末魔の叫びを上げるあんみつ」

   ②「クリームあんみつに酢を掛けたもの」


                  *


大越冬だいえっとう】 diet

 真冬の雪山を重装備で踏破。しかし、手違いがあり、持参した食糧が途中で底を突いてしまった。それでも気力を振り絞って目標を達成。全行程を終えて下山し、無事、帰還。

 思いがけず体重が激減してスリムになっていた。


                  *


【つじつまがあわない】 Mrs.Tsuji refuses to meet her husband.

 辻‐妻が会わない:

 意味「辻氏の奥さんが面会を拒むこと」



                  *


【der Sandmann】

「サンドマンって知ってる?」

「サンドイッチマン?」

「違う、砂男すなおとこ

「ああ、砂を撒いて目を擦らせて人を眠りに導く妖精だか妖怪だか」

「心臓が三つあって、二つまでは潰されても蘇生して仕返しに来るって」

「わかった、ダジャレだな。仏の顔も



                  *


【デキャンタ節】 decanter‐ぶし

 ワイン愛好家に好まれるパロディ歌謡。

 〽 デキャンタ、デキャンタで半年暮らす~――と歌われる。


                  *


【望郷ドーム】 ぼうきょう‐dome

 意味:

  半円形の屋根を持つ建物の一種。

  天井に故郷での幼少期の記憶を投影し、入室者を郷愁に駆り立て落涙させる。


                  *


【鰐嫁】 wani-yome

 ワニの姿をしたあによめ

 何か手伝ったりプレゼントをあげたりすると「どうも」と礼を言う。


 ※出典:和三わさん盆子ぼんこ鰐嫁わによめ


 > 私の頭がおかしくなったのでなければ、

 > 彼女は最早エプロンをまとった直立する鰐である。

 > ヒトの顔ではないので表情を正確に読み取ることはできない。

 > 見た目はアリゲーターと化しても最初は人語を解していた鰐嫁だったが、

 > 遂に会話が覚束なくなってきた。

 > 水を恋しがって風呂場に籠もり、シャワーを浴び続けている。



                    ◆初出:note(2014~2015年)退会済

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虚偽事典 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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