4話 エルフ(美女)の住処をつきとめる2

 魔道具で簡単に火はつけられる。火種は持ってきた薪を使った。かさばるので、薪はカード化してある。どんなアイテムでもカード化することは可能だが、封入と呼ばれる技術が必要で、大きさによってお金がかかった。

 ノエルはパンツとブラだけになり、屈んで火に両手を当てる。黒のパーカー、ショートパンツは石の上に広げて乾かした。

 エルフがこの辺りにいるってことは、住処がこの近くにあるはずだ。それを探すか。

 それにしても一瞬だけだが…でかかったな、胸。

「バン。きもい顔してる」

「うるせえ」

「これで五万は安い気がする。本当にいるかどうかも不明だったし」

「だから面白えんだよ。それに手間がかかるものじゃなきゃ、残らねえって」

「残飯処理…」

「お前がそれ言うなよ。俺の仲間だろ」

「一応ね。というか、どうせ美女ってところに惹かれたんでしょ?」

「…あれぇ? そんなこと書いてあったかな?」

「わざとらしい」

 ノエルはバカにしたように鼻を鳴らした。

 彼女が所属したのは三か月ほど前で、そのときバンは一人だった。過去に何人か所属してくれた人はいたが、高待遇のランクが高いギルドに行ってしまった。彼女もいつ辞めるのか、内心ひやひやしているところだ。「ちょっと話があるんですが」という言葉をメンバーから聞くのが怖い。ほらきた、そらきた、と思うとともに心が沈む。

 ノエルの過去は知らない。履歴書を見たが、詳細は書かれていなかった。というか、入ってくれるならよっぽど変な子じゃない限りウエルカムだ。でも、彼女はなんで俺のギルドを選択したんだろう? そこは気になるところだ。俺が知らないギルドの強みを知り、そこを売りに出せば人がもっと来るかもしれない。

 なんてことを考えていると、彼女の服は乾いた。出発の時間だ。

 湖の周りには人が二人ほど通れるほどの道がある。グルっと一周できるので、そこを周って確認していくことにした。すると、人ひとり通れるほどの穴があり、その先へと進む。階段のように上がり坂になっているところを歩いていった。

「おおっ」

 そこは花畑だった。昼間のように明るいのは、特殊な光を放つ花が周りに咲いているからだろう。階段が四方にあり、その先は泥で塗り固められたような家があり、閉じられたドアがあった。

「ここが、エルフの住処か」

「そのようね」

 こんな田舎を思わせるようなのどかな場所が、こんなダンジョン内にあるなんて意外だった。花畑に大の字になって寝転がりたいが、今は仕事中だ。そして、この場所を知らせることで、依頼は達成される。

 エルフたちに気づかれる前に、ここを離れるか。

「お前ら、ここでなにをしている?」

 どうやら遅かったようで、振り返ると三人のエルフたちがいた。みな耳が尖っており、手に細めの剣を持っている。

「バン」

 ノエルが声をかけてくる。この人数なら突破できなくもないが…奥に数人隠れているかもしれない。エルフは好戦的ではないと聞くし、大人しくしておいたほうがいいか。

 バンは顔を横に振り、ノエルに降参を促した。


 ガシャン。ガチャ。

 バンたちは牢屋のような場所に閉じ込められた。荷物はほとんど奪われたが、ノエルが隠し持っているナイフには気づかなかったようだ。辺りはまっくら。鉄格子に手をかけて揺らしてみるが、鍵がかけられたようで開きそうになかった。

「どうするの?」

 壁際で体操座りしているノエルは、不満げに言った。

「さすがに俺たちを食ったりしないだろう。ただ、この場所が知られた以上、解放してくれるかな」

「ここで一生をすごすなんて嫌よ」

「ほら、でも、ノエルさんなら、牢屋の上に飛び上がってあっちに抜けることできねえ?」

 牢屋の上の隙間を指さした。

「できるけど、今は様子見」

「なんだその余裕は」

「まだそのときではない。今は彼らがバタバタしているとき。寝静まってから動く」

「なるほど」

「リーダーとは違って、私は的確」

「お前を試したんだよ」

「うそ」

 奥のほうから階段を下る音がして、光とともに足音が近づいてきた。そのエルフは、片手にロウソクを持ち、片手におぼんを持っている。その上には二つの皿があった。ロウソクを地面に置き、皿を鉄格子の下の隙間からバンのほうへと持っていく。

「どうぞ」

「あ、君は」

 湖で見た女性エルフだ。近くで見るとその美しさにハッとする。背中まで伸びる緑の髪はいつも手入れしているのか、サラサラだ。整った顔立ち、透き通るような白い肌から二十代だろうか。エルフの民族衣装なのか、肌の露出面積がやたら大きく、胸元があらわになっていた。つい、その谷間に目がいってしまう。

「水浴びしていたエルフ」

 ノエルはバンの隣に並んだ。

「あのときは助けてもらい、ありがとうございます」

「ああ。いや、助けたのはそっちのやつだ」

「ありがとうございます」

 美女はペコリと頭を下げた。上体が下がることで、胸の見えちゃいけない部分がポロリしそうになっていた。

 み、見え…。

「ぐっ!」

「どうしました?」

「い、いえ…」

 バンの太ももを、ノエルは彼女から見えないようにつねていた。

「ここから出してくれる?」

「それはできません。少なくともまだ…」

「偉いやつがいるんだろ? そいつはなんて言ってるんだ?」

「まだ話し合い中ですが、魚人のこともあるので…」

「魚人?」

「はい。この近くに生息する魔物で、私を襲ったのも魚人です」

「大きな魚かなにかと思ったけど」

 ノエルはナイフで刺したときのことを思い出しながら言った。

「よくそんなところで水浴びしてたな」

「あ、はい。それについては本当に、すみません。つい…」

 彼女は申し訳なさそうに眉を八の字にした。

「その魚人がどうしたの?」

「あなたたちにこの場所が見つかったことで、その魚人にもバレたのでは…ということでそっちの問題を先に解決するみたいです」

「じゃあしばらくはここを出るのは、無理ってわけか」

「はい。すみません。…それにしても、よくこの場所がわかりましたね」

「いや普通に穴が開いてたぞ。入り口」

「え!? あ…閉じるの忘れてました…」

 バンとノエルはジッと彼女を見つめると、ペロッと舌を出した。

「言わないでくさだいね?」

 心に矢が刺さったかのように、心臓が大きく鼓動した。

 言いません。ていうか、可愛すぎだ。反則だろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る