2話 かまってちゃんのローザ
ここ、魔法大国ジャパニの首都バニマにあるオリジンの街は、壁に囲まれた大きな都市だ。魔法カード発祥の地と言われ、南門近くには冒険者ギルドを管理する管理ギルドがあり、宿屋があり、飲食ができる店が立ち並ぶ。
魔法カードの専門ショップも複数乱立し、魔道具によって人々の生活は支えられていた。中央の広場では休日に催しものが開かれ、多くの住民が住宅街に住んでいる。
管理ギルドの中に入ると、すぐ近くに掲示板がある。そこでバンは高額報酬の依頼を眺めていた。いつもなら新規の依頼だけを見ていくのだが、今日は違う。一枚の依頼が書かれた紙に目が止まった。報酬十万ゴールド。しかし、必要最低ランクの項目を見るとCと書かれていた。
「Cランク以上か。無理だな」
ギルドはGから始まり、バンが所属するフリーはEランク。さすがにこの額になると、そのぐらいはないとダメなんだろうな。それに依頼内容は村の畑を荒らしている魔物の退治か。いかにもしんどそうで面白みにかける。こんな依頼、どこぞの有名ギルド様が片付けてくれるだろ。
入り口のドアが開いた。どこかの冒険者ギルドのメンバーだろう、ぞろぞろと人が入ってくる。
「あら? あらあらあら」
声でなんとなく振り向かなくてもわかった。むかつく女の登場だ。かつんかつんとやたら響く音で近づいてきた。
金髪巻き髪ロングの女性で、身長は平均より高く、出るとこは出て、しまるとこはしまっているナイスバディの持ち主…なのだが、こいつは好かん。口を一生開かないのなら、ありなのかもしれない。動きやすそうな軽装に身を包み、若い女性冒険者に多く見られるスカートを着ている。シルクの白い服を大きな胸が主張するように押し出していた。
「こ~んなところに、残飯処理係のリーダがいますわ」
「お前か。ローザ」
バンには魔法学校を中退した過去を持つ。そのとき彼女と学校で、非公式のバトルを繰り広げたことがあった。バンが平民、ローザが貴族出身。元来、平民と貴族は仲が悪く、その例にもれず初対面のときからお互い敵視していた。
ちなみに残飯処理係なんて呼ぶのはこいつぐらいだ。俺が誰も手をつけないような残りものの依頼を受けていることから、それが残飯を処理していることに例えて言っている。まあ、たんなる悪口だ。
「まだくたばってなかったのか」
「まあ! レディに向かってなんて口の聞き方! 野蛮。そんなことだから卒業できなかったんですわ」
「人の心をちょくちょく抉ってきやがるやつに、野蛮なんて言われたかねえな」
「なんだ騒がしいな」
三十路ほどのおじさんが前に出てきた。茶髪で、短く剃ったヒゲが似合うナイスガイ。身長は平均的なバンより少し高く、すらっとしている。
「ローザ。この人がフリーのバンさんか?」
「フリー? バン? 残飯処理係ですわ」
相手するだけ無駄だ。無視しようかな。
「君のことはローザから聞いてるよ」
「ああ…。どうせ悪口でしょう?」
「はは…。魔法が使えないのにギルドを務めているのは立派だと感心している」
「無能ですからね。このバンという男は。平民にも劣る無能ですわ! おーほっほっほっほっほ!」
ローザは口元に手をあて、笑った。
思い出した。初対面でもこんな気持ち悪い笑い方してたんだよ、こいつは。
「なあ、あんたリーダーなんだろ。こいつ、いっつもこうなのか? 大変だな」
「いや。君がいるときだけだよ。いつもとはだいぶ違うかな」
「なんだ。ここで発散してるだけか」
「ほっほ…」
ローザの顔から笑いがなくなり、真っ赤に染まっていく。
「リ、リーダー!」
「言い合うやつがいなくて、寂しかったんだな」
「ぐっ! ぐぐぐ…。」
彼女の体を小刻みに震えている。「がんばれ」と肩に優しく手を置くと、バシッと手を払われた。
「覚えてなさいっ!」
つかつかつか…ドカンっと乱暴にドアを閉めて出ていった。
学校でも見たな。こんな光景。
「ローザは君のこと、気に入っているようだね」
「変なこと言わないでください」
はっきり言って迷惑だ。こんな口ゲンカ、ノエル一人で十分だっての。ちなみに彼女は今、アパートで寝ている。基本夜型の彼女は今、爆睡中である。従業員(メンバー)のために、寝ている間に仕事を探している社長(リーダー)の俺。まさにリーダーの鏡だな。まあ、それが仕事っちゃあ仕事なんだが。
ローザが所属するギルド「スターライト」のリーダーはバンに「じゃあ」と軽く別れを告げると、受付のほうに歩いていった。Aランクギルドなので、専属契約している客が複数いてもおかしくない。会社でいう取引先と同じ意味で、そこから質のよい依頼を掲示板に貼られる前に受けることが可能になる。
今、ブームになっているのはダンジョン探索。まだ未開の地となっている場所が多いダンジョンからお宝を持ち帰ってくるというものだ。だから、ランクの高いギルドは最近、早朝にダンジョンに潜り、夕方に出てくるというのが一日の流れになっている。これまでバンは、ダンジョン探索は数えるほどしかやってない。それも魔物が少ない浅層部のみだ。
あんなじめじめした薄暗いところに毎日入って、魔物と戦って…。有名ギルド様は大変だねえ。
再び、掲示板を眺める作業に戻る。ふと、依頼内容に目が止まった。
苦手のダンジョン探索。しかし、報酬が五万ゴールドと高め。しかも条件もFランク以上。こんなゆるゆるで高待遇の依頼が残っているということは、たいていなにかしらの困難な理由がある。内容の詳細を確認すると、それが見て取れた。
いるかもしれないエルフ(美女)、その住処をつきとめること。
エルフというのは耳の尖がった、魔法カードなしで魔法を使うことが得意な人種だ。昔は街や村などで普通に生活していたというが、今、見かけることはない。ダンジョンに生き残りの祖先がいるということか。
面白そうだな、受けてみるか。それに…美女というのが男としては気になる。どれほどの美しさなのか、俺が調査しなくてはならんだろう。
バンは報酬より内容が気に入り、その依頼書を受付に出した。
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