第42話「革命の種火」

「――――で、肝心の作戦を聞かせてもらおう。このリュージーン様が採点してやろう」


 セーネの司会進行を遮ってリュージーンは鼻を鳴らす。凝りもせずに上から目線の発言を道周に諫められ、自重して椅子に身体を預けた。

 ソフィが大きな咳払いで気分を改め、セーネに続きを促した。


「セーネ、あの蜥蜴は放っておいて続けてください」

「う、うん。

 今回の作戦の肝は「如何に夜王と戦わないか」ということにある。しかし夜王の権能「常夜の結界」は夜王の掌中も同然、結界を超えると察知されしまう。よって奇襲は不可能、正面衝突を敢行する。

 近衛兵や夜王に吸血され鬼化した「百鬼夜行」をリベリオンの兵士たちに抑えてもらい、僕とミチチカで夜王を倒す!」


 語るにつれ熱を帯びたセーネは語尾とともに拳を固めた。冷静なライムンとソフィがセーネの熱弁に補足を加える。


「各地から招集した兵士の陽動も三手に別れる。決戦のエルドレイク内で時間差を作り、各所で一斉蜂起して相手の戦力を分散させる」

「都市の内偵と私の調べによると、夜王の従える近衛兵は吸血鬼約300名、鬼化された「百鬼夜行」は100ほどです。こちらの戦力は800名超、敵の戦力は400名程度ですので、ゲリラ戦を仕掛けて戦力の分散を狙うのは十分に可能です」

「……と、いうことだ。だが肝心の領主たる夜王に出張られては前線は崩壊する。何より夜王愚兄の討伐が最終目標だ。邪魔の入らない確実な環境で決戦に望みたい」


 呼吸を合わせた3人の説明を聞き入る。道周は作戦に異を唱えるでもなくムゥと唸った。マリーは不安そうなシワを眉間に深く刻んでいる。

 この場で何か難癖をつけるのであれば、やはりリュージーンであった。いつもの侮るような声音は息を潜め、策士としての寡黙なトーンで問い掛ける。


「肝心の夜王は確実に勝てるのか? セーネは権能があるから五分の前提としても、ミチチカは手も足も出ずに瞬殺されている」

「瞬殺はされてない。あれは夜王の力がよくわからなかったから遅れをとっただけ。権能のネタが割れれば戦えるわい」


 リュージーンの質問に道周が物言いをする。聞き逃せない侮りに憤懣を漏らしながらも、視線で回答をセーネに譲る。

 道周の疑義を含んだ視線を受け、セーネは毅然とした態度で答える。


「もちろんだとも。苦戦はするだろうが勝てない道理はない」

「その解答で満足はできないな。リベリオンは溜めに溜め込んだ戦力で臨むわけだ。失敗は許されないんだぞ」

「リュージーンの懸念も一理ある。だからこそ声を大にして言おう。僕たちは勝つ」


 セーネの眼は炎のような煌きで答えた。強靭な意志の返答を受け、リュージーンはそれ以上の追及はしなかった。口を真一文字に結んで腕を組み、背もたれに沈み込んで瞑目した。


「他に質問はないかな?」


 セーネは道周とマリーを交互に見回して問い掛ける。2人は何も言わずに首肯して納得の意を示した。


「では作戦会議はこれにて終了だ。稽古後の時間をもらってしまったね。お疲れ様」


 セーネは柏手を打って会議を締めた。

 と、同時にキッチンからシャーロットが姿を現した。手に持ったトレーにはコーヒーが並々注がれたカップが7個乗せられている。折角用意したコーヒーだが、タイミング悪く会議がお開きになったのだ。


「あ……」


 シャーロットの侘しい呟きが広間に木霊した。その物憂げな嘆息は誰の耳にも確実に届いた。


「……コーヒー、貰おうっか」


 シュールな笑いを堪えるマリーが提案した。一同は微笑ましく同意し、もうしばらく長机を囲むこととなる。

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