第41話「リベリオン 2」

 鼠色のフードの下にはキャンバスのような白肌と強い生気を放つ血脈、高い鼻筋に透き通る赤い瞳の特徴的な青年であった。顔の骨格から覗かせる鎖骨までの線の細さから脆弱な印象を受ける者の、依然放つオーラからは曲者の予感がビンビンする。

 青年は一息にローブまで脱ぎ捨てると、その下に纏った鉄の鎧と腰から下げた剣がぶつかり、重厚な金属音を打ち鳴らす。物騒な出で立ちも何のその、青年は黒髪と頭を左右に振り身なりを繕ってはにかむ。


「オレの名はライムン・ヴォイドだ。リベリオンの隊長と指揮と訓練の総監督と、白夜王の側近を務めている。よろしく」


 ライムンと名乗った青年はえらく多い肩書を一息で捲し立てると、友好の意を込めた右手を差し出した。

 誰がその手を取るのか、とマリー・道周・リュージーンの3人は顔を見合わせたが、ここは正面にいるマリーが代表する流れになる。

 マリーは鉄の手甲を嵌めた手に慄きながらも握手を返し、一思いに握り締める。


「マリー・ホーキンスです。よろしく」

「どうぞよろしく、お嬢さん」


 ガチガチに装備を纏ったライムンは、意外にも優しい握手を返した。マリーはライムンの力強くも、敵対の意志の欠片も感じさせない返事に驚いた。

 そしてマリーの自己紹介を皮切りに、他2人も自己紹介で答える。


「俺はミチチカ、姓はあるが、誰も呼んじゃいないから割愛するよ」

「俺はリュージーンだ。見ての通りのリザードマン、寒さには滅法弱いから戦力に数えてくれるなよ吸血鬼殿」

「ほほう、慧眼だなリュージーン殿」


 ライムンはリュージーンの意地悪なしたり顔にも臆面なく爽やかに賛辞を返す。

 リュージーンの発言は事実であり、ライムンはリベリオンに籍を置く2人の吸血鬼の1人だ。セーネや夜王と同じく、病的なまでに白い地肌と怪しく光る赤色の眼、そして一切の濁りのない黒髪が特徴的な「吸血鬼」である。

 ではなぜ、ラムレイはリュージーンの推理に賛辞を贈ったのか。その答えは至極単純明快である。


 フロンティア大陸には、「人間ヒューマン」や「魔族」、竜人や獣人などの「亜人族」、そして幻獣といった種々多様な種族が共生している。

 その中で「同じような見た目」であっても「異なる種族」というものは存在する。

 一例を挙げるのなら、「エルフ」とソフィのような「ハーフエルフ」だ。前者は常人離れした身体能力と血筋を由来とする魔法の適性を持つ。対する後者は身体能力においても魔法の適性においても、エルフの限界には遠く及ばない。

 かつてのリュージーンがソフィを「エルフ」だと勘違いし畏怖したのは、それだけ「エルフ」という種族が総じて高性能であるからだ。

 このように、「種族」一つで戦う前から雌雄が決するケースは少なくない。

 そして「吸血鬼」という種族は、生まれながらにして大きなハンデを背負っている。そう、「日光」だ。そのハンデを見抜かれると見抜かれないでは雲泥の差だ。


 だからライムンは正体を隠すローブに身を包み、フードで尊顔を覆ったのだ。

 「顔」という情報を与えたとはいえ、リュージーンはライムンの種族を看破した。つまりリュージーンはライムンに対して情報的優位を手に入れたわけだが、同時にアドバンテージを譲っていた場面でもある。


「しかし、自ら寒さに弱い事実を漏らすとは戴けないな。オレが敵側だったらどうしていた?」


 ライムンはリュージーンが見せた隙を的確に指摘した。その表情は先ほどまでリュージーンが浮かべていたものと遜色ないしたり顔である。

 ライムンが一本取ったような雰囲気だが、リュージーンは強がりのように口角を吊り上げる。


「なぁに、自分より強い相手に弱みを晒しておくと庇護下に入れるだろう。それに油断した八の背中程刺しやすいものはないからな」

「クソだ、クソ蜥蜴だ。腹黒すぎる……」

「隣に座っていてゾッとしたよ。さすがリュージーン汚い」


 持論を展開したリュージーンに、道周とマリーが罵詈雑言を浴びせる。リュージーンは隣からの辛辣な言葉に罰が悪そうに頭を掻いてそっぽを向く。

 やいのやいのと賑々しいやり取りをセーネは微笑ましく見つめる。ライムンが道周たちと打ち解けられたのを確認すると、本題を切り出した。


「さて、作戦会議をしようか」


 セーネの濃やかな声には静謐な重みがあった。全員は心を入れ替え、集中して机に向かった。

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