第40話「リベリオン 1」

 白夜王が率いる革命組織「リベリオン」は非戦闘員を含めると総勢5000人を超える大組織である。

 構成比は白夜王を含む2名の吸血鬼の血族と、約500人の人間ヒューマンと約4500人の魔族で成り立つ。大きな割合を占める「魔族」とは鬼族やゴブリン、人狼ワーウルフ人虎ワータイガーなど、20程の種族が存在する。


 もとい吸血鬼も「魔族」にカテゴライズされるし、魔族の総種類は100を超えるのだが、それはまた別の機会に……。


 ともあれ、かつての白夜王に賛同し、現在の夜王の執政に憤懣を溜め込んだ者たちが「リベリオン」を支えている。

 そんな大規模の構成員は普段はエルドレイクの都市で生活を営み、またイクシラの各地で暮らしている。夜王がイクシラの領主の座を取って代わってから200年、夜王が推し進める搾取と圧伏の日々を過ごしてきた。

故に大将たる白夜王がいる本拠地の居館の人手は少ない。身の回りの世話といざという時の警護を兼ねたスーパーメイド、そして諜報活動を担うハーフエルフの2人のみを側近としている。意味もなく閑古鳥が鳴いているわけでは決してない。

 今かまだかと燻ってきた住民の火種は、もう幾何の時が経てばその勢いを燃え上がらせるだろう。


 そのときまであと三日――――。






 道周とリュージーンがエルドレイクから敗走してから、丸10日が経過した。

 その間、道周はソフィとシャーロットを相手に稽古を繰り返し、戦闘の「勘」を取り戻すことに時間を費やしていた。


「うん、ミチチカの動きは見違えるほどよくなりました。さすが私と弟子ソフィの鬼の稽古です」

「ですです。剣の振りも格別に速くなりましたし、何より鋭くなったと感じます! もう私やシャーロットでは相手になりませんね」

「雪場の動き方が板に付いただけだよ。それに正面衝突だけが戦いの全てじゃないだろう? ソフィの本分は魔法を併用した攪乱と奇襲だろ」


 雑談を交わしながら、午後の稽古を終えた3人が居館へ戻る。

 道周の火照った身体からは湯気が立ち昇り、背中までびっしょりと汗で濡れていた。

 対するシャーロットは白と黒のコントラストが映えるゴスロリのメイド服であるにも関わらず、湯気どころか汗の一筋も見当たらない。多少息を激しく肩を上下させるものの、涼しげな顔で歩を進める。


(すげえな鬼族……)


 道周は関心の眼差しで平然としているシャーロットの顔を見上げる。

 シャーロットは道周の好奇の視線には気付かず、そのメリハリのある顔で前を見据えていた。


 そして足は自然と広間へと向かい、木製の扉をシャーロットが引いて2人に入室を勧めた。

 薄明りが灯された廊下から広間へ入室すると、視界は煌々と燃ゆるロウソクの光が満ちた。天井に吊られたシャンデリアのロウソクは豪勢にも全てが火が灯り、暖かな空間を演出している。

 そんなシャンデリアの下、見慣れた長机の上座にセーネが鎮座している。純白の肌はいつにも増して明々な血脈が通り、黒髪は艶々と肩まで垂れている。

 扉から向かってセーネの右手には鼠色のローブを着込み、フードを目深に被る推定男がいる。男は道周に目線をやることもせず、耳を澄ませて気配を探っているようだった。

 道周は伸ばされた背筋から育ちの良さと気品を感じつつも、屋内でフードを被るマナーが癪に障ったのか眉をひそめた。

 そして男の対面、向かってセーネの左側に座るマリーは道周の入室を確認すると、待ち侘びていたように表情を晴らした。自慢のブロンドヘアーを優美に靡かせ、道周を腰を浮かせて隣へ手招きする。

 マリーの右隣の椅子は空席であった。その空席を挟むように座っていたリュージーンは苦い顔をしている。常に何かしらの錯誤を感じさせる釣り目は、目の前の謎の男が放つ圧を受けて面白いほどに吊り上がっていた。

 よほど気まずい空気で対面していたのだろう、2人が道周たちに向けた視線には「HELP」のサインが滲んでいた。

 そう。この3人は目的もなくぶらついき、この広間に辿り着いたわけではない。

 最後のシャーロットが両手で扉を閉じると一礼し、それを合図にセーネが口を開いた。


「急がせて済まない。すぐに済ませるから、座ってくれないか?」

「はい」

「おう」

「では、私は粗コでも淹れて来ましょう」


(シャーロットは気に入っているんだね……)


 マリーはキッチンへ消えていくシャーロットを見送った。

 道周はマリーが用意した空席に座った。

 そしてソフィはその対面、つまりはローブの男の隣の席に着く。

 全員の着席を確認し、セーネは「さて」から始めて本題を切り出した。横手を打って差し出された手は、謎のローブの男に向けられている。


「さて、急ぎ話を済ませてしまおう。前々から言っていた、作戦についてと、頼れる仲間の紹介だ」


 セーネに名乗りを促され、男はようやくフードを捲り上げた。

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