第34話「目覚めて白」
「--------……っぅう。……くっ!」
昏々と眠っていた道周が目を覚ます。眠っている頭は節々の痛みで否応なしに覚醒する。
「痛たたた……」
身体を気遣って当てた手元には治療の痕がある。巻かれた包帯と薬剤の匂いが鼻を刺す。
身体を起こした道周に、傍らから沈着な声が掛けられる。
「やぁ、ようやく目覚めたかい」
「……誰だ?」
道周は真っ当な質問をする。
椅子に腰掛ける推定美少女は、道周の訝しげな視線を受けても涼やかに微笑む。
すると道周は謎の美少女の隣に見慣れた顔を確認した。
「って、マリーじゃないか」
「やっほーミッチー。げんきー?」
「マリーは何してるんだよ。隣の「顔面宝塚」は誰だよ」
「がっ、顔面「宝塚」……、とは?」
突然アダ名を付けられたセーネは困惑した。訳の分からぬ単語にたじろいだ姿も画になる。
マリーは狼狽えるセーネに眼福を得ながら鼻高々に紹介をする。
勢いよく椅子から立ち上がり、両手を広げてセーネを仰ぐ。
「こっちの「リアルベル薔薇」はセーネ。
何とこのセーネ、美少年ではなく」
「女の子だろ」
「ぐぬぬ……」
サプライズを潰されたマリーは歯を食い縛る。「ならば」と意気込み、取って置きのサプライズを放つことにした。
「じゃあ!
このセーネ、何と! あのびゃ」
「白夜王だろ。夜王の義兄妹。似てる似てる」
「……ぐぅ」
マリーは堪らずぐうの音を溢した。
「って言うかミッチーは何ですかそんなに知ってるの!? 夜王って誰よ、どこのオンナだ!」
サプライズの悉くを看破されたマリーはおこだ。回り回って道周にキレる。逆ギレである。
「女じゃないって。マリーは俺の彼女か」
「今日晩ごはんいるの? いらないの?」
「嫁か」
「サッシに埃が残っていてよ」
「姑か。もういいよ」
道周は久しぶりのマリー節を懐かしく思い、「やっぱめんどくさいや」と投げやりになる。
2人のコントを見せ付けられているセーネはあんぐりと開いた口が塞がらない。
「相変わらず意味不明な乗りだな」
不機嫌が道周の向かいから投げ掛けられた。
「いたのか、気が付かなかったナー」
道周は白々しく溜め息で返す。
マリーは未だ拭えぬ不信感からか、その言葉は刺々しい。
「誰だオメーはリュージーン」
「名前知ってんじゃねえか。俺だよ俺、リュージーンだよ。
俺もミチチカも、そこの白夜王とやらに助けられたんだぞ」
ようやく真面目な本題に立ち返る。蚊帳の外で眺めているだけしかできなかったセーネは我に返り、平静な口調を装って出番に鼻を鳴らす。
「なに、僕は君たちを連れ出しただけさ。
ここは僕たち「リベリオン」のアジトだ。エルドレイクから離れた深雪と樹林の中にある。安心してくれていいよ」
「リベ……?」
聞いたことのないフレーズにマリーが首を傾げた。
セーネはマリーの疑問符を一旦スルーする。辺りを見回して、人差し指を艶目く唇に当てて囁く。
「ここは傷病人のための医務室だ。真面目な話は場所を変えたいのだが、構わないかい?」
「そうだな……。身体の調子も悪くない。異世界でもTPOは弁えないといけないな」
「俺はもう少し寝ておく。これはあばら骨が折れてるな。もしかしたら内臓にも傷が残ってるかも知れねえ」
同意した道周は負傷を感じさせない軽やかさでベッドから降りた。
一方、リュージーンは傷と痛みを訴え、ベッドにすがり付こうと語句を並べる。
「リュージーンはさして重症ではないとも。精々骨に亀裂が走っているかいないかの怪我だったと聞いているが?」
「うっ……」
リュージーンの仮病を、セーネは他意なく真相で暴く。
気まずい顔で言い訳を考えるリュージーンの首根っこを道周が鷲掴みにした。
「ほら、行くぞ」
「断る! 俺は他の領域の厄介事に首を突っ込むつもりはねえ! 離せ!」
「喧しい」
道周がリュージーンの脇腹を小突いた。加えられた力は小さくとも、負傷と相まって鋭敏な痺れが全身を駆け巡る。
リュージーンは沈黙した。
「さぁ、着いてきてくれたまえ」
セーネの後に続き、3人は大広間へと移動する。
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