悪魔の葬列
石燕 鴎
「悪魔」の葬列
「やはり、あなたが犯人でしたか」
品のいい男は伏目がちに指をさす。六月の湿っぽい風に吹かれた男は笑う。その日は六月にしては晴れていて、それでいて湿っぽい風の吹く一日であった。
「そうです。わたしです。わたしが翁を継承する「悪魔」であります。」
そう、主を失った屋敷の前で、青い柳が揺れるよう男は身体をゆすった。さあっと生ぬるい風が吹く。品のいい男はポマードで整えた髪を触りながら言った。
「あなたのやったことは「悪魔」の所業ではない。欲に満ちた「ヒト」の所業だ」
「では、私達の罪を暴いたあなたはさながら「悪魔」ですね。これでわたしが捕まれば、一族の滅亡だ。恩義のある翁の遺したモノを否定するのだから」
「それが恩義に反する行為であっても、僕は罪を暴きます。それが僕の役割です。恩義ある一族に「悪魔」と罵られようと、僕は「悪魔」の一族の葬列をやり遂げます」
品の良い悪魔がじりじりとヒトと対立している。悪魔は囁く。
「さあ、縄につきなさい。」
ヒトは嘲るように笑う。
「あなたに私を捕まえられません。今からわたしは死ぬのですから」
もうすぐ七月だ。じりじりとさわやかでありながら蒸し暑い気候になってきた。私には出来ることもすべきことがない。刑事が私の肩に力を入れて立っている。二人の間には相変わらず湿っぽい風が吹いていた。この「悪魔」は恐ろしい。ヒトの為した犯罪行為、秘密にしておきたいことをまるはだかにして悪魔の一族を、「悪魔」が為した財を葬りさろうとしているのだ。私はなんだかそら恐ろしくなってきた。
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