No.32 悪役王女と内緒話

……ない。

ない。ないないない!!

秘密兵器がないっ!!!……もしかして…メリアかフロウが…?

いや、それはない。…あ、そういえば私、この前引き出しに入れといたんだった……

どうしよう!これじゃあ出れないじゃない!?

普通こういう展開ってあるもんでしょ!!

カッコつけちゃったじゃない!!!

私に厳しすぎないかなこの世界!!

ガクンと頭を垂れたその時、チリンと耳からぶら下がるサファイアのイヤリングが目に入った。

これに念じてリンヴェルとかが助けに来ないかしら……。

私はイヤリングを外して助けて!と念じてみた。当然なにも起こるはずがなく、「なんちゃって……」と頬をかいた。

それにしてもこのイヤリング…なーんか不思議な感じがするんだよね。

なんなんだろう。

私はイヤリングを明かりに翳してみた。

特に変なところはない、ね。

……って!イヤリング見てる場合じゃないわ!!

早くここから出る方法を探さないと…

あ、壁を登るとか!?ありがちな……。

登れないわ。うん。諦めよう。

でも他に思いつかないよ。

「……どうしよう……」

「鉄格子壊したら?」

「いや無理よ私の力じゃ……」


……ん?

私は声のした方向を見た。

……いけない。幻覚だわ。

だってこんな所にリンヴェルがいるはずないもの。

そう。幻覚幻覚……

「幻覚じゃないけど……。」

リンヴェルはいつの間にか私の目の前まで来ており、私の頬を優しく抓っている。

「なんでこんなとこにいるの!?」

私は幻覚ではないと悟った私は、リンヴェルの手を振り払い、そう尋ねた。

「なんで、って……僕もよくわかんないんだよ。気付いたらここにいて……」

「なんでよ!?見付かったら大変だよ!?」

「大丈夫でしょ。」

「大丈夫じゃないって!!早くどっかに隠れて―」

「もう見付かってるし……」

「……え?」

ぎぎ、と音のなる首を動かし、私は恐る恐る後ろを見た。

そこに立っていたのは見回りに来たであろうシヴェリアが立っていた。

「あ、あ、あ……逢い引きね!!!い、いけないのよそんな事したら!!!あんた達まだお子様じゃないっ!」

何か……凄く勘違いされている気がする。

「ひひひ姫様に、ほほほ報告しないとっ!!」

真っ赤な顔で逃げていったシヴェリア。

……まて。これすっごーく不味い状況では?

奥の方からもう声が聞こえる。

「シヴィどうしたの……。うちもう眠たいんやけど……?」

「あああの子供が!逢い引きを……っ!」

カツンカツンと、足音が近付いてくる。

ま、まずい。リンヴェルは眠たそうに突っ立っている。

隠れるにしてももう時間が―

「……ルディウス?」

終わった……

「ル、ルディウスやんな!?生きてたん!?どうしてここに……!」

焦ったようで凄く嬉しそうなロワンシェは、すぐに鉄格子を開けて中に入った。

「あぁルディウス……会いたかっ―」


パシンっ

リンヴェルの頬にロワンシェの手が触れようとした瞬間、大きな音が聞こえた。

リンヴェルが彼女の手を払ったのだ。

「触んないで。誰かと勘違いしてるんじゃない。僕はリンヴェル。ルディウスって名前じゃないから。」

「そんな筈はない!うちがルディウスを見間違える筈が―」

「……違うって言ってるの。いい加減にしてよ。それよりさぁ、早くここから出してよ。王女はどこだって大騒ぎしてるし。」

「そんな……っ、ルディウス…じゃ…ない…?じゃあルディウスは…」

ロワンシェは膝から崩れ落ち、目からは大粒の涙を零した。

静かな牢屋に響く彼女の泣き声。

…その沈黙を破るように、シヴェリアが口を開いた。

「……姫様。1度、お部屋に戻りましょ?」

彼女らしくない、落ち着いた声色だった。

親が子供をあやす様に優しいその声に、ロワンシェは泣きながらシヴェリアの手を取った。

「あんた達も着いてきなさい。」

一瞬立ち止まったかと想えば発せられるその言葉。

ロワンシェの事を知るいい機会かもしれない。

「わかった。行こうリンヴェル。」

「えっ…ちょ…」

リンヴェルは明らかに嫌そうな顔をしていたが無視しましょう。





+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

シヴェリアについて行くと、とある部屋に着いた。

彼女はそこに入り、いつの間にか寝てしまっていたロワンシェを中央にあるベッドに寝かせた。


「…ここは…?」

なんとも豪華な部屋だ。

家具はアンティーク調の物で揃えられており、そういうのが好きな人にとっては夢のような空間だろう。

「…ここは…姫様の部屋。こっちよ。着いてきて。」

おっと、見渡している場合ではない。

シヴェリアの元へ駆け寄ると、彼女は1つの古い写真を手に取った。

写真を覗き込んでみると、そこには見た目が変わらないロワンシェと…横に立ち、恥ずかしそうに微笑んでいるリンヴェルに瓜二つの少年がいた。

「…これがルディウス様。姫様の…ロワンシェ様の幼馴染の方。

そして…姫様の想い人でもあったわ」

ロワンシェの想い人…確かに、写真にうつるロワンシェは嬉しそうであった。

「ある日…ルディウス様は突如行方不明になった。

姫様はひどく悲しんで、朝から晩まで彼を探し続けた。

…でも、ルディウス様は見つからなかった。

姫様はまた次の日も彼を探そうとした。

でも、姫様はここに閉じ込められてしまった。

だから動ける私達が未だに探し回っているってワケ。」

「…じゃあ、どうして下には女の子達が監禁されているの?男の子を探すだけなら監禁なんてしなくていいはずよ。」

シヴェリアは下を向いて苦しそうな顔をした後、ぱっと顔を上げてこう言った。

「銀髪蒼眼の男…あんた達の世に言う忌み子と仲が良かった女達なの。あの子ら。


でも……何も情報を知らなくって。姫様は可笑しくなっていたから、監禁しておけって…」


「そ、そんなの……!」


「……そうするしかなかったのよ。姫様が落ち着くには…」


「じゃあなんで私がこうやって連れられたの?」

「……そのルディウス様と瓜二つな者と共に居たって噂が流れたから」


「それ、すっごい迷惑な話じゃない?…王女連れ去るなんて、困るのは国なんだ」

はぁ、とため息を零すリンヴェル。


確かに迷惑な話だ。


「…ルディウス様が亡くなっているということは…ロワンシェ様が1番分かっているわ。


愛する人を失った時の気持ち、私達には分からないの。だからこうするしか無かった」


いつものシヴェリアではなかった。


なんというか…空気が。



じぃっとルディウスの写真を見ていると、急にその写真が光だした。



「えっ!?えっ!?」


『こんにちわ』


「貴方ってまさか…」


『…ルディウス。時間が無いんだ。君、すこしだけ、体を貸して』


ルディウスと名乗った少年は、リンヴェルを指さしそう言った。


「僕?嫌だ」

「リンヴェル、すこしだけ貸してあげて」


「……フィアがそう言うなら」

「ありがとう」


『ごめんね』


す、とリンヴェルが目を閉じ、薄らといた霊の様なものはリンヴェルの中に吸い込まれていった



「……ロワンシェ」


寝ているロワンシェに彼は語りかける


「僕に囚われないで。僕は君が好きだったから……」


そっと、同じ髪色を撫でた


ルディウスは何かを決心したように、こちらへと目を向けた

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悪役王女は破滅したくないのでのんびり過ごすことにした~私に構わないでヒロインさんの所に行って下さい~ 桜乃春妃 @where

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