No.23 悪役王女のドタバタ夏休み~宝石の花編~《前編》


テストの日から1週間程経ち、我が学園は夏休みを迎えた。

夏休みに入ってから私は、国に帰っていたのだが。


「シャリテもカインも、ハイハイの練習頑張ってるわね……。なんて可愛らしいんだろうなぁ……」

「そうだな!やっぱし赤ん坊ってあーゆー努力してる所が1番可愛いよなー!」

「……フィアにあんまり似てないね。」

「私に似てなくて可愛いわよね……。」

「そういう事じゃなくて……。」

そう。リンヴェル、レイまでもが着いてきていた。

傍迷惑にも程がある。

「フィファナテちゃ〜ん!お菓子持ってきたけど食べな〜い?……コホン。レイゼルア様もリンヴェル様も召し上がって下さいな。」

照れくさそうに笑うお母様。

「「お気遣い、感謝します。」」

リンヴェルとレイが揃ってお礼を言う。

なんだか可愛く思えてきた。

少しお話していると、突然扉が開く。

騎士が血相を変えて入ってきたのだ。

「……なんですか無礼者。ノック位しなさい。」

お母様の冷たい表情に、慌てて入ってきた騎士はビクともしない。

「…姫様、王妃様……花が、宝石の花が咲きました!!」

「花が……!?今度は何処に咲いたのです!?」

「みっ、南の山の方です!」

「南の山……前は王宮に咲いたからいいものの……。」

お母様が頭を抱える。

宝石の花……摘んだら呪われるあの……。

「宝石の花って、あの……?」

「……呪われる花。」

リンヴェルもレイも考え事をしている。

「お母様、その宝石の花、見てみたいです。南の山へ連れていってください。」

「……あ、俺……私も行きたいです。」

「……僕も、お願いします。」

「フィファナテちゃん達が言うなら……仕方ないわね……。馬車の用意をしてちょうだい。」








+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+



「……これが、宝石の花……。」

「綺麗だな。」

「……」

馬車に揺られ1時間程立った場所にある南の山。その山の頂上の花畑に一輪咲いたらしい。

実際の宝石の花を見てみると、とても綺麗なバラの花だった。硝子細工の様に繊細で、日の光を浴びて輝いている。

思わず取りたくなる様な、そんな花だ。


……ゲームでも、出てきたよね。この花。

確かとあるエンドで、「私に相応しい」ってフィファナテが宝石の花を摘み、フィファナテが化け物になったり災害級の雷雨になったんだよね。

まぁそのフィファナテはヒロインに倒されたんだけど。

「そろそろ帰りましょうね、フィファナテちゃん。日が暮れてしまうわ。」

「そうですね。見せてくれてありがとうございました。」

「私達からも、貴重なものを見せて頂き、感謝致します。」

リンヴェルとレイも続けてお礼をする。

私がぺこりと礼をすると、お母様は微笑んだ。

かつてセンテュリオの華と呼ばれた人。気高く美しい、エレメージェライツ国王王妃。ディアンヌ・ディア・センテュリオ―




+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

夜、11時頃

事件は起きた。


私はいつもの様にベッドで寝ていた。

外から聞こえる雷の音、雨の音で目覚めてしまった。

私は窓に近寄り、外を見る。嫌な予感しかしない。

「……なに、これ。」

酷く強い風の音。窓がガタガタと揺れている。

雷の音が鳴り響いている。


「……フロウ、スノア。」

パチンと指を鳴らす。

ゆらりと現れる桃色の髪をした少女と白の髪をした青年。

「「お呼びですか。」」

2人が跪く。

この景色を察しての事だろう。いつもより深刻な表情だ。

「……主、これは、きっと……」

「宝石の花を誰かが摘んだ。」

スノアが口を紡ぐ。

フロウは俯いて黙っている。

「……何者かの特定を。私は少し、オベリスクと話をします。」

「「了解しました」」

フロウとスノアが、シュン、と瞬く間に消える。

リンヴェルやレイは無事だろうか。

……きっと大丈夫だな。

さぁ。もしもの為にとオベリスクに貰ったこの鍵。

この鍵は、人間界と神の世界を繋ぐ鍵。

空中に向かって鍵を開けるように横にする。

すると、暖かい光が私を包み、目を開けると白の階段があった。

コツコツと上がっていく。歩く時の音がよく響く。

終わりが見えてきた頃、1人の女の子が見えた。

「……貴方は……」

「フィファナテと申します!!」

「……通りなさい。」

金の門を少女は開けた。

その門を潜り、私は前を見る。

「……貴方は……フィファナテちゃんね!?」

「えっ、あの、はい。」

「私は愛の女神、フェリスシアナです!貴方に加護与えてあげたでしょ?なんで加護を与えたのかって言うとね!フィファナテちゃんがもんのすごーく可愛かったからなの!

この長い睫毛に、ふわふわのこの髪……桜色の唇に薔薇色の頬……。全てが愛しいじゃない!?人間の世界ではこれを眼福!って言うのよね!ん〜!可愛い!可愛いわ!」

早口でペラペラと話す薄い桃色の髪の女の人……愛の女神、フェリスシアナ。

さっきから抱き着いてくるんですが。

たわわなその果実私に押し付けないで下さい。

悲しくなるし息苦しい。

「やめんかフェリスシアナ。そやつは儂に用があるんじゃろう?国の事で。」

救世主!!ナイスオベリスク!

ぶう、とフェリスシアナが私を離す。

たわわな果実を持ち合わせていらっしゃるわフェリスシアナ……。あ、……オベリスク……あー……うん……

おっと、そうじゃない。


「…何見とる。言っとくが儂は成長期がまだ先なだけじゃからな!!

……ゴホン……そうそう。宝石の花を抜いた愚か者がおるそうじゃな。」

いつにも増して恐ろしい表情のオベリスク。

少し間を置き、また口を開く。

「宝石の花は、我ら神や、精霊達からの贈り物。それを摘むなど言語道断じゃ。

……全ては、唯一神と話せるお前次第じゃぞ。フィファナテ。」

「……」

どうすれば良いのか分からない。

ゲームではこんな展開が無かったから。

ゲームでは、私が死ねば良いだけだったから。

「……フィファナテ。誰も死なずにこの嵐を沈める方法はある。白百合の塔へ5年間軟禁しなさい。摘んだ者を。即刻死刑でも可笑しくはない。監禁で許してやる。……これが創造神がお前達人間にやれる、唯一の慈悲だ。」

悲しげにオベリスクが話す。


神が作ったとされる白百合の塔は、大罪人を入れ、軟禁する塔だ。毎日毎日、神に懺悔し許しを乞う。

花一輪摘んだだけで。と言われるかもしれないが、それ程重要な事なのだ。


誰も死なないのであれば。そうするしかないのかもしれない。

「わかったわ。今フロウとスノアに犯人を探させてる。」

「……精霊達には儂から言っておく。早くするんじゃぞ。」

オベリスクが私に背を向ける。

チラリと見えたオベリスクの顔は、凄く真剣な表情だった。

気づくといつの間にか私の周りは輝いていて、

暖かい光が私を包む。

ハッと目を開けると自室で、リンヴェルとレイが私を心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る