No.21 悪役王女と風邪


「……レイ。どうして、貴方が、ここに、いるの。」

「許可もらったから大丈夫だよ。お前、風邪引いてるって聞いたし。ほら、頭の布変えてやるよ。」

そう、私はあの1件の後、風邪を引いている事が発覚し、今日は1日休んでいたのだ。

レイは私のおでこに乗せてある布を取り、

横に置いてある桶の水にちゃぷんと入れ、ぎゅーっと絞って私のおでこに乗せた。ひんやりしていて気持ちがいい。

ギシ、と私が寝ているベッドに座る。本来ならここで怒る所だが、大分熱が高いみたいでその気力もない。

「大丈夫かよ?ちょっと熱測るか。」

そう言うとレイは額に乗せてある布を取り、私に顔を近付けておでこをくっ付けた。

ヤバい。いい匂いがする。いい匂いだなー。なんと言うか……さっぱりした……レモンみたいな香り。

……まてよ。顔近くね?推しの顔が、近くね?顔がいい……!

平常心。平常心。こういう時ってどうするんだっけ。そうそう、あれだ。掌に人って書いて飲み込むんだ。

無理。手上がらん。深呼吸……は無理。

なんだかんだで落ち着いてきた。

ぱっとレイの顔が離れる。絶対私今顔赤いだろ。まぁ、熱と誤解してくれれば……。

「……す、すまん。」

顔が真っ赤なレイが言う。いや可愛い……。いや駄目だ。この世界で、惚れたら負けなのよ。

「……なにしてるんですか。兄上、フィア。」

じとーっとリンヴェルが見ている。

なんだこの目は……。

「リンヴェル!貴方も、勿論許可は取ったわよね?」

「勿論だよフィア。」

にこ、と優しい笑みになる。

今度はレイが変な目で見て来るのだが……。

「……そう、フィアに贈り物が……。これ。」

リンヴェルが鞄からゴソゴソと何かを取り出す。

私に見せてきたものは……。

リンヴェルの瞳の色の様な、綺麗な深い青の宝石が入ったイヤリングだ。

「綺麗ね。ありがとう、リンヴェル!」

「実は、僕とお揃いなんだ。」

そう言うリンヴェルは、私の瞳の色の様な濃い桃色のイヤリングを見せた。

「素敵ね!私のこれ、毎日付けちゃうかも。」

「……そうしてもらわないと困る。何処にいるか分からないし……。」

「え?なんか言った?」

「何でもないよ。あぁそう兄上。同級生の方が呼んでいましたよ。早く行って差し上げては?」

「……そうかリンヴェル。ありがとう。じゃあフィア、安静にな。」

しゅんとなりながら部屋を出ていく。

「……さ、寝なよフィア。風邪だし、安静に。寝るまで見といてあげるから……。」

「眠気なんてどっかに行っちゃった……。」

「寝るの。さ、手握って上げるから……。」

ぎゅ、と手を握ってくれたリンヴェルの手は、冷たくてとても気持ちが良かった。

なんだか急に眠気が襲ってくる。

「おやすみ、フィア」

私は眠りに落ちた。





+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+


「……僕の、愛するフィア。誰にも奪わせない。」

きっと無意識にフィアが、僕の手を顔に付けてすりすりしている。フィアの肌はすべすべで、こちらも気持ちが良かった。

僕は、フィアの薔薇色の頬にキスをする。

世界一愛する人。

すぅすぅと寝息を立てて寝ている。

寝顔も凄く綺麗で、可愛かった。

するりと抜けるふわふわした赤い髪にも、僕はキスをした。

熟睡しているであろうフィアは、全く気付かない。

これ以上、長居をしてはいけない。

そう感じた。

人も来るし、なにより想い人の寝顔を見ていると何かと思うところがある。

幼い子供とはいえ、婚約者でもない男と居るのは、これ以上は駄目だろう。

「おやすみ、愛しのフィア。」

くるりと背を向け、扉を開ける。

耳にぶら下がる濃い桃色のイヤリングが、キラリと光る。

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