No.20 悪役王女とご対面
「……なにこれ。」
授業が終わり、寮の部屋に戻る。扉を空けた瞬間にふわりと香る夏の香りに驚いた。なんだろうと思い、窓を閉めようとすると、テーブルに紙が置いてあった。
えーっと……なになに?
『満月が出る夜に女子寮裏の噴水広場に来たれ。』
なんぞこれ。
果たし状??
私そんな絡まれる事なんてしただろうか……。
「……ラブレターなの?」
「ちげーだろお転婆娘。考えろ。主に恋文なぞ来るか。まだ魅力の一欠片もない主に……ふぐっ……。いっ……つぅ……」
「私まだ成長期来てないから!!!」
「んぐっ……!地味にいってーな主……。」
唐突に失礼な事を話すスノアに腹に2発食らわせた所で。
まぁ満月が出る時に噴水広場に行けばいいんでしょ?
果たし状だかなんだか知らないけど、受けて立つわよ!
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
「ー来たわね。」
夜更け。満月の月明かりの下。
女子寮裏の噴水広場に私は行った。
ジャバジャバと噴水の流れる音が良く響く。
……私は、夜に映えるこの美しい金髪を、見たことがある。
「……こんばんは王女サマ。ご機嫌如何かしら?」
「……最悪ですわよ。こんな時間に呼び出して一体どういうつもりですの?……それに、セキュリティー万全、強力な結界が張ってあるこの学園内に忍び込めたのは単純に褒めてあげるわ。」
「あら、お褒め頂き感謝するわ王女サマ。……あぁそうそう私とした事が名乗って居なかったわね。私はシーナ・ドライド。この世界の
やはり。
……でも、ヒロインは高等部から登場する。
フィファナテと初等部の時に会っていたなんて設定は無かった筈。、……まさか。
ヒロインも転生者?……いやでも……。
元々ヒロインがこんな性格だということも有りうる。
……でも。この世界の主役……と言っていた。
いやでも……
「なにを考えてらっしゃるの?」
「へっ?いえ、なんでもありませんわ。」
「……まぁ良いわ。それで、呼び出した内容だけど。単刀直入に言うわ。レイゼルア様やベリル様に近付かないで?彼等は私の下僕なのよ。……あぁ後、ディアカルマ先生にもね。私あの人のこと普通に好きだから。まぁでも結婚相手としては王太子のレイゼルア様ね。一生遊んで暮らせるわ。」
……コイツ頭可笑しいだろ。
「あぁそれに、私には愛の女神の加護がついてるから、どれだけ王女サマが誑かしていても私の魅了の魔法でオトすから、無駄だからね。」
あぁ駄目だ。手が出てしまいそうになる。
早くどっか行けよコイツ。愛の女神の加護なんて授かってない癖に。
「まぁレイゼルアは顔としてはイマイチだけど、金があるからね。ぶっちゃけ金しか取り柄がない感じ?性格もなーって感じよねー」
ブチッ
私の中で何か薄い、蜘蛛の糸のような糸がブチリと切れた様な気がした。
「お前に何がわかる。私だってそりゃ出会って2、3年だよ。でも色々な事を知ってる。
お前は上辺だけの
キィィ、と私の手に水の弓が出てくる。
水の矢を放とうとした瞬間……
「だめ!やめるのフィア!!!」
ピタリと私の動きが止まり、水の矢が溶けて消える。
「……フィア。コイツはー……。」
「……っなによ!!!誰よあんた!……ははーん。分かったわ。どうせモブでしょ?モブが軽々しく私に話しかけないでよ。」
「……処分対象なの。殺すの。」
パチパチと黒い炎がフロウの手に宿る。
「……お前こそやめろお転婆娘。」
パシャリとスノアが白銀に輝いている水を、黒い炎にかける。
黒い炎はジュッと音を立てて消えた。
フロウは我に返った様だ。
……フロウもスノアも、私の為に集まってくれたのだろう。
「……ごめんなさいね。頭を冷やすのはこっちだわ。……でも、貴方の思い通りに事が進むとは思わないことね。」
「っ……。」
屈辱にまみれた顔をしている。小学二年生なのに酷い顔だこと。
「……さぁ、もう帰りなさいな。」
そう言い残すと、私は寮の部屋へと戻った。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
部屋に戻り少しすると、レイやベリル、リンヴェル、ユーリ等が集まってくれた。
皆にも心配をかけてしまったな……。
…………何故、男子禁制の女子寮に、男子が????
「フロウ。男をつまみ出しなさい。」
「了解なの。」
「……は?ちょ、ま!俺心配で来たんだけど!?」
「……え!?僕も!?僕はいいでしょ!?」
「……ごめんねフィア。心配で来ただけだから。」
何故リンヴェルだけこんなに落ち着いてるんだろう。むしろ、なんか嬉しそうな笑みを……。
ユーリもクスクス笑っている。
「……男子禁制なの。」
「……は?俺も?え、俺は妖精だし……は!?え、ちょ、主もなんか……」
「男子禁制なのー」
ニヤリと笑ってやる。スノアが絶望的な顔をしている。これ程面白い事はないな。
「心配してくれてありがとね!!」
運ばれる寸前の皆に言う。
皆は笑顔を返してくれた。
破滅なんてせず、ヒロインも来ず、ずっとこのまま暮らして行ければ良いのに。
そう思ったのは、そっと心に閉まっておいた。
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