第4話 誘惑

「華の都」では、様々な花の精たちが暮らしているそう…


「フジさん」と千紘くんは『フジ』の花

実里くんは『ヒマワリ』らしい。


そして千紘くんと実里くんは幼馴染だそう…


「美波ちゃんはさぁ~、どうしてこんなところに居たの?」

実里くんが目を真ん丸にして質問する。


「私…。あ!そうだ!クローバー!」

私は無意識に握っていた両手を、パッと開いた。

「な、ない…。」


光輝いていたクローバーは、いつしか消えてしまっていた。


「へぇ~。クローバー持ってたの。四つ葉?三つ葉~?」

にやりと笑って、近づいてくる実里くん。


(ち、近い…!)


暖かい風が吹き、フワッと実里くんから甘い香りがする。

花の蜜のような甘い、甘い香り。


あまりに心地の良い風と、甘い香りに

意識が飛びそうになる…


「美波ちゃん?どうしたの?」

黄色い瞳を真ん丸にして、心配顔で覗き込む実里くん。


「う…ううん。なんでもないよ…。」

甘い蜜の香りに魅了され、意識が遠のいていく…



******



「う…ん。」

目が覚めたら、小さな小屋の中にいた。

木のいい香りがして、室内にもお花が活けてある。


小鳥のさえずりと、少し薬草の香り。

まるで御伽噺おとぎばなしの世界のようだった。


私は、気が付くとフカフカのマシュマロのようなベッドに

横になっていた。



「…あっ!美波ちゃん、起きたよ! ちいちゃ~ん!」


ここ、どこだろう…。

実里くんの声が聞こえる…。

まだ視界がぼやける。


「目が覚めたか、大丈夫か?」

ベッドの端にそっと座り、私のひたいに千紘くんのひたいが合わさる。


(ち………近い!!!)

顔が赤くなっていくのが分かるほど…熱い。


「だ…!大丈夫だから!」

パッと千紘くんを遠ざけた。ここの人たちは距離が近すぎる…!


「美波ちゃん覚えてる??倒れちゃったんだよ~!」

にこにこしながら話す実里くん。


話が理解できない…。何で気を失っちゃったんだろう。


「実里も何やってんだ。人間だろ、こいつ。

そんなに近づいてやるな。次は死ぬぞ。」


「ごめん、ごめ~ん! だって、面白くってさぁ~」



「ど、どういうこと?」

そう問いかけると、

真剣な顔で、千紘くんは私を見た。

長いまつ毛に薄紫の瞳。吸い込まれてしまいそうだ。


「俺たちは人間じゃない。花から生まれたんだ。

この『華の都』には沢山の花達が暮らしている。

さっきお前が気を失ったのは、【花気かき】にやられたんだ。

俺たちは、生まれつき【花気】を持っている、そしてそれを使って人間を食うんだ。」


「え…っ。食べる…?」


「まあ、食うと言っても、噛みちぎったりじゃない。精気をもらうんだ。」


『華の都』の花達は人間の世界に来ては、精気を食べていく。

それが、花達が生きるための条件でもあり、楽しみでもあった。


花気は色気のようなものなんだそう。

花達は人間に触れさえすれば、精気を吸えるのだ。



近づき、魅了し、そして次第に精気を吸い尽くす。



その反動で、人間は気を失うそうだ。


「え…。じゃ、じゃあ実里くんに精気吸われたってこと!?」

キッと実里くんをにらんだ。


「ごめんって~!だって美波ちゃん、可愛かったから

からかってみたかったんだ~♪」

八重歯を見せて、ふにゃっと笑う実里くん。


か、かわいい…。


そんな顔されたら、怒るにも怒れなくなってしまう…。


「まぁ、いいわ。じゃあ、さっき千紘くんがおでこくっつけたのも

吸ってたの?」


「いいや。俺たちは自分たちの意思で吸えるんだ。お前の精気は吸ってない。

それに、俺はもっと色気のあるやつしか吸わない…。」

ニヤリと意地悪な顔で笑って、私を見下ろす。


(はあぁぁぁぁぁぁぁーー!!??)

何をいいだすんだ、この男は!!


「サイッテー…」

本当に最低な男だ。一番嫌いなタイプ…。



「そういえば美波ちゃんはさ、秋ちゃん追いかけて来たんでしょ~?」


「え?秋ちゃん?」


「うん!『フジさん』でしょ?ちぃいちゃんの双子の兄!

千秋ちあきっていうんだよ~!」


千秋さんって言うんだ……あの人。素敵な名前。



「美波ちゃん、秋ちゃん見つかるまで、ここに居ていいからね!」


「え…?…ここ……?」


「うん!この小屋だよ!ここはね、ちいちゃんのお家だよ!

可愛いでしょう?」


「…え。いやいやっ!大丈夫だよ!すぐに出ていくから…!」

こいつと一緒にだけは居たくない…!その一心でベッドを飛び起きる。


「あっ!美波ちゃん急に立っちゃあ、まだ危ないよ!」

その声のいう通り、私の足元がふらつく。



ふらつく私を支えるかのように、千紘が抱き寄せた。

私は悔しくも彼の腕にしがみつく…。


千紘くんの甘い香りが、脳を刺激する。眩暈めまいがする。


千紘くんに、飲み込まれていく……。



「まぁ、行く当てもないんだろ? いいよ。ここに居ても。」

ニヤリと笑い私を見る千紘くん。



私はそんな彼を見て、ただ従うしかなかった。



こうして、危険な『華の都』での

私の天敵「千紘」との生活が始まった。






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またあなたに会うために ~甘い蜜の誘惑~ 空彩葉 @solairoha

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