第2話 もう1人の彼。

いつも居るはずの場所に彼はもういない。


「『また明日ね!』って約束したのになあ。」

頭の中は、彼のことでいっぱいになる。


(どうしたんだろう…。)

さすがに心配になってきた。


私は同じアルバイト先のスタッフや、公園にいる人に話を聞いてみた。

「いつもあのベンチで花を見ている男性、知りませんか…?」



「いやあ、知らないねえ。」

「そんな人、居たあ?」

誰に聞いても、知らないと返答がくる。


彼と過ごした日々は夢だったのか…。

自分までも疑いはじめた。


それでも、あの日体感した気持ちは

夢なんかじゃない。

その意思を持って、私は彼を探した。



.



2週間経っても彼は見つからない。

私は彼がいつも座っていたベンチに座り

今までした話を思い出していた。


「バイトの愚痴とか、授業が嫌だとか

いいすぎたのかな…」

悲しくなってくる。


そんなとき、ふと彼の言葉を思い出した。


『四つ葉のクローバーのもう一つの意味を探してごらん。』



「そうだ…、四つ葉、見つけなくちゃ…。」

私は無我夢中に目の前の花壇を探す。


クローバーが見つかったからと言って、

フジさんに会えるわけでもないのに……


.



ない。ない…。

いくら探してもない。


辺りが暗くなってきた。

もう手元は見えない…


そう絶望していた時、僅かに光が見えた。


「なんだろう…。」


目を凝らしてよく見ると

小さいシロツメクサだった。


「まだ小さいや…。」

四つ葉ではないけど、ほんのり光っていた。


引き寄せられるように、手に取った。




シロツメクサの花言葉は「約束」



私はふと、『また明日』と交わしたことを思い出した。


半月だったけど、彼と話した内容や

笑った顔、意地悪な表情、

全てが脳裏に焼き付いて離れない…。


「フジさんに、会いたいなぁ…。」


頭で思っていたことが、思わず小さい声で漏れる。



そして、光るシロツメクサを持ってから、急な眠気が襲ってきた。


「な、んだ、これ。意識が…。」

その場で倒れ込んでしまい、美波は眠ったように目が覚めなくなった。





私は長い長い夢を見ていたのかもしれない。


最初から彼は

存在していないのかもしれない。


でも、とても幸せな夢。


ずっと目覚めなければよかったのに…



.



「うっ…」

急な頭痛に襲われ、私は目が覚めた。


「なに、ここ…!?」

辺りは一面、花畑。


何種類もの花達が敷き詰まっていた。

それこそ、なんの花かわからないものもあれば

よく知っているものもある。


でも、種類なんて考える暇もないくらいの絶景に、私は圧倒された。




「え、私死んだ…!?」

どこかもわからない場所、あきらかに現実ではない…。


それでも、彼を思い出すとような

心地のいい場所だった。


「はぁ〜、夢かあぁ〜…」

一気に力を抜き、そのまま寝転がり

目を閉じようとした、その時。


「……い……」


…………


「…おい……」


……………



「おい!!」

大きな声で、私は飛び起きた。


「は、はい! って……え…?」

目の前には人が立っていた。

大きい目で私を覗き込む。


「お前、こんな所で寝てんじゃねぇよ。

きったねぇな。」

うざそうに、そう言う彼を見て

私は言葉を失った。


「フ、フジさん…?」


私の目の前にいたのは、彼と同じ顔をした

男性だった。

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