またあなたに会うために ~甘い蜜の誘惑~
空彩葉
第1話 初めの出会い
あれは私が、高校2年生の春のこと。
すっかり暖かくなり、爽やかな風が春を思わせる時期。
彼はいつも同じ公園の、同じ場所で花を見ていた。
鼻が高く、目はぱっちり二重。モデルのように整った顔立ちで、とても綺麗な黒髪。そしてどこか悲しそうな表情を浮かべている。
彼がいる公園は、私のアルバイト先のカフェの前。
半年前からずっと同じ場所にいる。正直かなり好みの顔、、、、、いやいや!!
そんなことより!
なんでいつも同じところにいるんだろう…。
.
—―午後6時
「お疲れ様でした〜」
今日のバイトが終わり、帰ろうとした時いつもは真っ直ぐ家へ帰るが、今日は何故かふと彼のことが気になった。
まだいるんだろうか、、、
少し確認するくらいならと思い、彼のいる公園へと向かう。
(い、居た…!)
いつもと同じ場所で、花壇の小さな花畑を見つめている。
この公園は、近所の小学校が毎年授業の一環として花壇に花を植えに来る。
チューリップ、かすみ草、スミレなど。花壇には春の時期に咲く花達が、咲き誇っている。
そんな花壇を見つめる彼の横顔は息が止まるほど綺麗で、儚い。
25歳くらいだろうか…。
白い肌に、近くで見るとより美しさが際立つ顔立ち。私は思わず見とれてしまっていた。
「あの、どうかしましたか…?」
彼と目線が合ってしまった。
やばい!!!見とれ過ぎた…!声をかけられてしまった…
「す、すみません…。」
変な人だと思われただろうなぁ。恥ずかし過ぎて、下を向くしかない。
ふふっ と笑みを浮かべ彼が口を開く。
「はじめまして。僕はフジ。君の名前は?」
「わ、私は
思わず声がでかくなってしまう。
「声、、大っきいね。」
目尻に笑いジワが入り、くしゃくしゃの笑顔で笑うフジさん。
更にどタイプの人だ……。私の顔がどんどん赤くなる…。恥ずかしい…。
はっと我に返り、話を続ける。
「な、何をされてたんですか?」
質問をすると、またいつもの切ない表情に戻り、花を見つめる。
「ここの花壇、とても綺麗でしょう。ここにいると、心が落ち着くんだ。」
「フジさんはお花が、お好きなんですね。」
「うん。美波ちゃんは、花好き?」
また優しい顔で私を見つめながら、質問を返してくれる。
息が止まるかと思うくらい、綺麗で。心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい心臓が高鳴る。
「あ、あんまり詳しくはないですが……す、好きです!」
また声が裏返り、大きくなる。
「そっかぁ、嬉しいなあ。…あ、そうだ美波ちゃん。この花壇、四つ葉のクローバーがあるらしいよ。近所の小学生達が話してたんだ。」
「懐かしいですね!四つ葉のクローバー。小学校の時よく探しました〜。なかなか見つからないんですけどねぇ。」
「難しいよね。でも見つけると幸運を運んでくれるんだよね。見てみたいなぁ。」
そう呟くフジさんの言葉に、食い気味で返事をした。
「わ、私!見つけたらフジさんへプレゼントしますね!!」
声の大きさや私の勢いに驚き、ただでさえ大きい目をまんまるにしてこっちを見る。
「はははっ!美波ちゃんって面白いね。」
(本当に恥ずかしい……。)
「美波ちゃんはさ、四つ葉のクローバーのもう一つの花言葉って知ってる?」
さっきの優しい笑顔とは裏腹に、今度は意地悪な表情でこっちを見る。
(ク、クローバーの意味…!?幸運じゃないの…?)
「う、ううん。『希望』? とか…?」
「ふふっ、ハズレ。」
またクシャクシャにして笑うフジさん。
「四つ葉のクローバーを見つけたら、もう一つの意味を探してごらん。」
そう言ってまた優しく私を見つめた。
(ハ、ハズレた…。なんだか恥ずかしい思いばかりしてる気が…。)
でも、フジさんと話す時間は本当に幸せな瞬間だった。
.
何気ない話を10分ほどして、私はフジさんとわかれ、帰宅した。
「ドサッ」
ボーとしながら、ベッドへダイブする。
(まだ心臓がドクドク言ってる…!)
あの幸せなひと時の余韻が抜けぬまま、私は布団に入った。
今日の出来事は夢なのか、現実なのか未だにフジさんと話せたことが
信じられないまま、私は眠りに落ちた。
.
次の日も、その次の日もフジさんはいつもの場所にいる。
なぜここにいるのか。
日頃何をしているのか。
何を聞いても、フジさんは上手くはぐらかす。疑問には思ったが、それでもバイト帰りにフジさんと話すひと時が私にとっては、幸せで仕方がなかった。
フジさんは、いつも私の話を嫌な顔せずに聞いてくれる。本当に優しいフジさん自身、花のように暖かい人だった。
.
フジさんと出会って半月が経った頃。いつもの場所に彼の姿は無かった。
(あれ、今日は居ないな…。)
何か用事があったのか。『まあ、明日はいるだろう。』と思い、残念な気持ちもありながら、家へ帰る。
そして次の日も、その次の日も
…彼は居ない。
もういつもの場所に姿を表すことはなかった。
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