短編集 百合

02.木野ミナト×大井悠 せんぱい

　(2019/11/10 タイトル修正)

------------------------------------------------------------------------------------------------

「初めまして、大井さんだよね？」

　そう声を掛けられたあの日、名前も知らないその人に、ひと目で惹かれてしまった。

　どんな人なのかも知らないのに、優しげな笑みに、心奪われていたのだ。

　新人として入社した日から、実務の指導だけでなく、精神的なフォローをしてもらい、気が付けば一緒にいることが当たり前になっていた。

　仕事中のその人は、涼しげな雰囲気でいるのに、こちらが声を掛けると、ふ、と優しい顔つきに変わる、その瞬間にいつも、どきん、と胸が高鳴ってしまう。

　声を掛けられただけで堪らなく嬉しい（カナシクテツライ）、と思うあたり、私はどうかしているんだろう。

　だからせめて、この気持ちを悟られないように、後輩のままで。

　後輩で居させてほしいです、せんぱい（好きな人）。