第4話 ゴブリンの長

 拍子抜けするほどあっさりと草原を渡り、森の奥へと進む。森をしばらく進むと洞窟もすぐに見つかった。

 近くにあった切り株はあまり新しくないところを見ると、この近くに人間があまり足を運ぶことはなさそうだ。

 俺は力一杯、切り株を引っこ抜くと、余分な根をナイフで切り落とした。ユノアザの袋と一緒にそれも抱えると洞窟に足を踏み入れた。

 洞窟の入り口で、思い切り叫ぶ。

『おらーっ!ゴブリンども、出てこい。長でもいいぞ!出てこないなら蒸し焼きにしてやるっ!』

 洞窟の外に戻り、近くの切り株に腰を下ろすと、再びユノアザをパクつく。

 ちなみにゴブリンというのは、それほど強くない小鬼のモンスターだ。成人男性の腰ぐらいの身長で、鋭い牙と爪を持っている。ある程度の知能があり、それほど巧みではないが武器も使うことができる。戦闘力があまり高くないため、集団で襲われなければ普通の村人でも撃退できる。ただ、基本的に群れで暮らしているので、ゴブリンの巣に入り込むとやっかいだ。連携で襲ってこられたら、普通の人間ならば命を落とす危険性もある。

 しばらくすると、洞窟から窮屈そうに俺の倍ほどの背丈がありそうなモンスターが姿を現した。ゴブリンの中でも特に力が強い大型のホフゴブリンという種類のモンスターだ。

 どうやら、ここのゴブリンたちは俺に従うつもりはないらしい。ゴブリンの中でも力自慢のホフゴブリンをけしかけて、俺を追い払おうというつもりらしい。

 俺は切り株から立ち上がると、その側に二つの袋と先ほど引っこ抜いた切り株を置いた。

『俺に従うつもりはないらしいな』

 俺は獣使いビーストテイマーの経験があるおかげで、ゴブリンやモンスターとも普通に意志疎通ができる。

『突然やってきて、どこの誰かも分からない奴にどうして従える?』

 それもそうだ。しかし、俺もこの再転生ループから抜け出すために引くわけにはいかない。

『悪いこと言わねえ。怪我しないうちに帰んな』

 ホフゴブリンとはいえ、やはりある程度の知能はある。いきなり攻撃されることは予想していたが、まさか、帰宅を促されるとは思わなかった。

『俺の目的のために、人手がいるんだ。一族全員蒸し焼きにされたいか?』

 俺は片手を上げると、その数メートル上空に超巨大な炎の玉を出現させた。炎の玉はホフゴブリンの数倍の大きさだ。これをこのまま落とせば、ホフゴブリンはおろか、洞窟内に生息するモンスターも一網打尽だろう。

『分かりもうした。我が一族はお主に従いましょう。それをお収めください』

 洞窟の前に立っていたホフゴブリンの背後から、年老いたゴブリンが現れた。

 俺は上げていた右手を握りしめると、それに同調するように炎の玉は小さくなっていき、最後にはふっと消えてしまった。

『あんたが、ここの長か?』

 俺は年老いたゴブリンに向けて、声を掛けた。

『さようです。して、あなた様はいったい何故我が一族を?』

 ゴブリンの長は、何故我が一族を蒸し焼きにしようと言うのだ?とまでは言わなかった。

『ある目的のためだ。詳しくは中で話そう』

 俺は、ユノアザの袋二つと切り株を持って洞窟へと向かった。

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