~僕の美少女的で平和な一日~ ②
シガム。
こっちの世界の言葉に当てはめるなら『魔法』。
よくマンガか小説なんかに出てくる魔法っていうのを、僕は使える。一般的ではないらしく、一応は秘密にしておいた。
魔法を使うのは簡単だ。まず、体内の魔力を発動体へと流す。発動体は、魔法使いであれば杖が一般的だけど、この世界では不自然になる。だから、僕はスカートのポケットからシャーペンを取り出した。
このシャーペンがこっちの世界での僕の杖だ。前の世界では剣を発動体にしていた。棒状の物だったらなんでもいいのかって思われるかもしれないけど、条件はある。自然の物であるか、もしくは金属か。
誕生日に買ってもらった、ちょっと値段の高いシャーペン。正式名称はシャープペンシル。ちょっぴり重たいのが難点だけどすごく書きやすい。そしてなにより、金属で作られているから日常的に少女が持っていても怪しまれない。
そんなシャーペンに魔力を込めて魔法を発動させた。
「イエメン・ハレエ」
呪文と共に効果が発動する。これは、いわゆる周囲の敵を探る魔法だ。いくら平和な世界だと言っても、危険な人間は危険なわけで。手放しで学校へ行けるほど僕は傲慢ではない。むしろ臆病なくらいだ。魔王を倒した人間がなに言ってんだ、って笑われるかもしれないけどね。
魔法の効果はすぐに頭の中に表れる。イメージとして脳内に浮かび上がる感じ。およそどの方角にどれくらいの『敵』がいるか。感覚的に知覚できた。
「今日も問題なし」
いつも通りの結果だった。
すこし離れた場所にひとり。いわゆる通学路に位置する場所に、ひとり。反応がある。もちろん人間だ。すでに確認している。犬や野生動物ではない。確実に人間がひとり、『敵』として反応していた。
この世界にモンスターはいない。本当に平和な世界だ。変わりに魔法という概念がなくて驚いたけど。
だから敵を探る魔法で、いったいなにがヒットしているのか。初めはすごく驚いたけれど、確認してみたらどうということはない。単純に人間の敵は『人間』だった、というだけ。前の世界でも盗賊や夜盗、殺人鬼などにこの魔法は反応していた。あまり深く考えずに使っていた魔法だけど、こっちに来てからより確信したと言える。
イエメン・ハレエ。
この魔法は、自分に害意を及ぼす思考の持ち主、に反応しているんだ。
「……ふぅ」
一定量の魔力を消費した疲れが全身を襲う。短い距離を走ったぐらいかな。まだ僕の体は子どもなので、魔力量が少ない。もうちょっと大人になれば、大きな魔法も使えるかもしれない。無茶をすれば連発できなくもないけど、そんなことをする必要はないと思い知ったあとでもあるので。この国の平和を享受しようと思う。
それはともかくとして、いつまでも玄関にいては怪しまれるので集合場所に急ごう。集団登校っていう児童が集まって学校に行く行動だ。
「おはよう」
「あ、おはようマイちゃん」
集合場所についたら挨拶をする。これさえやっておけば、まぁ人間関係は円滑にいくものだ。もっとも、子どもたちの関係は理屈では言い表せない部分もあるので。気をつけないと仲間ハズレになってしまう。適度な距離を保たなくていけない。むずかしいけどね。
そのあたりは、どうにも僕の顔がなんとか防いでくれているらしいので感謝するしかない。なにせ、美人や可愛い、というのはこの国では結構な効果を発揮していた。いわゆるテレビに映っている芸能人という職業は、その容姿を売り物にしている人もいるので、僕の顔でお金を稼ぐこともできるだろう。
でも、女優は無理かな~。あんな風に人前で演技ができるとは思えない。なんか恥ずかしいし。小学五年生の女の子を演じるので精一杯だ。
モデルも同じく恥ずかしい。やっぱり人に見られるんじゃなくて、つつましく静かに生きていくほうがいいかなぁ。
選択肢のひとつと考えておく、みたいな感じかな。
「まぁ、やらないけど」
「ん? マイちゃんなにか言った?」
年下の女の子が聞いてきたけど、なんでもないよ、と笑っておいた。さてさて、全員がそろったようなので登校が開始される。ここからは僕も気合いを入れなくてはならない。
なにせ、登校中に敵がいるのだから。
いったいヤツが何者なのか。僕はいまいち、その正体をつかめていない。魔法に反応しているのだが、本当に敵なのかどうか。確かめる術が今のところ無かった。
昨日のテレビの話やお気に入りの漫画の話をしながら歩いていくと、そこに到着する。いわゆる戦場だ。この世界で言うところの交差点ではあるが、そこにはほぼ毎朝、敵が待ち構えている。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
にこにこと笑うおじさん。
それが、僕の敵だった。
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