第9話 反撃
エリーに指示を出し、配置につかせた。
こんなことにわたしを使うなんてと文句を言われたが、彼女からなんとか了承を得ることができた。
(エリーには感謝しないとな)
彼女がいなければ、この状況を突破する案を出すことはさらに難しいものとなっていただろう。
エリーは配置につけたようで、遠くから手を振って準備完了の合図を送ってくる。
俺は頷き手を振り返した。
作戦開始だ。
俺は身を隠していた木の上から勢いよく飛び降りる。着地と同時に草木を踏みしめた大きな音が鳴り、奴らは俺に気付いて一斉に視線を向ける。
素早く腰に挿していたダガーナイフを構え、着地で折りたたんだ足を一気に伸ばして駆け出した。まずは最も近くにいた男との距離を詰める。
応戦しようとそいつが武器を構えようとした瞬間、何かが弾けるような音と共に、頭上から目の覚めるような光が降り注いだ。
上空では大きな光球が弾けていた。その最大の特徴とも言える
エリーにお願いして、最初に彼女に奇襲された時と同じような状況を作ってもらったのだ。
エリーには心の中で感謝を述べておく。
ここからは俺の仕事だ。
奴らはみんな、そちらに意識を取られていた。
その隙に付け込んで正面にいた男に肉薄し、ナイフを握った手と反対の手でそいつの
鈍い音と共にそいつは意識を失い、糸の切れた操り人形のように崩れさった。それを見た残りの二人は慌てて体勢を整えようとする。
させまいとすぐさま俺は持っていたダガーナイフを二人目の男に全力で投げつけた。
剣を構えようとしていたその男はナイフが
男の太ももにナイフが深く刺さる。ぐぁ、という
ナイフの刃には即効性の麻痺薬が塗ってある。痛みを感じる間もなく奴は動けなくなるだろう。
その男が倒れていくのを横目で確認して、最後に残った男に集中する。
三人とも近接戦闘に熟達している様子は見られなかったが、二人倒すのに時間をかけ過ぎたようだ。
俺から一番距離があった男は既に体勢を立て直しており、まさに矢を
(やっぱり三人は厳しいか!)
なんとか矢が放たれる前に勝負を付けなければならない。
一度あれが放たれてしまうと、防ぐ手段を持たない俺は回避に徹するしか選択肢がない。あの霊力を編み込んだ矢の威力は、一撃でも食らってしまうと間違いなく致命傷になる。
間に合わせてはいけないと、腰に挿しているもう一本のダガーナイフを取り出し、体勢を低く保ったまま投擲する。
少しでもいいから弓を引くことから奴の意識をそらしたかった。そのナイフを追いかけるようにして、その男との距離を詰めていく。
しかし、奴も俺の意図を理解しているのか、距離が遠くて勢いが足りないナイフを軽くステップを踏んで回避し、弓を引き絞った。
(くそっ……これはまずい!)
わずかな可能性にかけて回避の体勢を取る。タイミングが合わなければ即死もあり得る。
手のひらにじっとりと滲む汗を握りしめて、そのときに備えた。
直後、矢が放たれる。
苛烈に空気を切る音が届き、悟った。
(――
即死だけは避けようと腕で頭を抑えた瞬間、大木が一瞬で裂けたかのような壮絶な音と共に矢が二つに割れ、俺の耳の側を通り過ぎていった。
背後に折れた高威力の矢のかけらが四散し、地面や木々をえぐる音を背中に感じながら、最後の男に掴みかかりナイフを首元へ突き立てる。
「首を飛ばされたくなければ動くんじゃねぇぞ」
奴にそう告げ、後ろへ回り込み組み伏せた。
「ひぃ、助けてくれ!さっきの光球といい変な力が使えるなんて聞いてないぞ!」
こっちは二人いるからな、と心の中で呟いた。
最後に矢が二つに割れてそれていったのも、きっとエリーが遠くから何かをしてくれたのだろう。
姿は見えなかったが、やれやれと半目でこちらを見ながら首を振っているエリーの様子が安易に想像できてしまった。
(おっと……)
思わず緩んでしまいそうになった気を引き締めなおしてから男に語り掛ける。
「まったく、人を殺そうとしていた奴が命乞いをするな」
「俺たちは頼まれただけなんだ、信じてくれ!」
青ざめた顔で命乞いをしてくる男を見て、俺はため息をついた。
このまま縛り上げて次の町で憲兵へと突き出す準備を整えても良かったが、その前に奴らには聞くことがある。
「さて、じゃあ誰に頼まれたか、武器の入手経路はどうやったか、他にも質問は山のようにあるんだ。全部正直に答えて貰うぞ」
俺はそう言って、襲ってきた奴ら全員をしっかりと縄で縛り上げた。
今のところ意識があるのはひとりだけだが、後で残りの二人からもゆっくりと話を聞く必要がある。
とりあえず意識の無い男二人に簡単な手当てを施してから、俺は泣きそうになっている男を問い詰めていった。
(やれやれ、長くなりそうだ)
今日予約していた宿の時間には間に合わないだろうなぁと思い、野宿に思いを馳せてため息をついたのだった。
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