10. 桁違い
私は両方とも梁だと思っていたよ。
世の中には知らないことがいっぱいあるね。
ていうか、言葉の意味から話に入るのがクセになっちゃってない?
「あんまり~、入り口が難しい話ばかりだと~、読んでくれてる人が疲れちゃうよ?」
「知らないことがいっぱいありそうな子が登場したね」
「いきなり失礼~!」
同居人の
こちらも負けじと、両の手を開いて向けて「どうどう」と宥めてみせた。
「ごめんね。まあ、桁の話をしたかったのよ」
「なんでまた~?」
「この何か書いてみようという試みも、記念すべき十回目に到達したから」
「お~……桁が増えてる! おめでとう~」
「ありがとう」
大したことではない。
客観的には本当に大したことじゃない。
けれどシリーズ初めに述べたように、続けるというのは案外大変なことだからね。こまめに褒めて煽てて自分を乗せていきたいな、と思うわけ。お神輿みたいに、担いで奉っていきたいくらい。
「まあ、“桁違い”って言葉もよく使われるじゃない? 桁を繰り上げるというのは、それなりに偉業なんじゃないかな」
「自分で言っちゃうと~、あんまり偉く見えない~」
「それはそうなんだけど……ほら、言葉の意味的に」
「確かに~、桁が違うと大きく違う気がするよね~」
「小売店でも、1,000円を頑張って980円にしたりするよね」
「桁違いにすっごく安く感じる~!」
いや、そこまでではないだろ。大丈夫か。騙されているぞ。20円の差だよ。
人の感覚というのは、案外騙されやすいものだ。
「でも桁違いと称する場合は、そんな小手先の違いではなくて、1,000から10,000や100,000みたいな、圧倒的な違いをイメージしてるんだろうね」
「そうだね~。百人力とか一騎当千とか~、桁が二つも三つも変わってるもの」
「冷静に考えると、とんでもないよね……。例えば、一組30人弱のクラスが一学年につき三つあるとしても、小学校ひとつには生徒が500人くらいしかいないから。一騎当千の小学生は、単身で学校二つ分の生徒を相手にできる」
「『一騎当千の小学生であるボクが異世界に転生して国を獲ってみた』……」
「なんで転生させた」
一人で国盗りするような小学生はイヤだよ。精々スクールカーストを登り詰めるくらいで満足しておけよ。可愛げがマイナスの域に到達している……。
話を現実に戻して思い起こしてみれば、学年でトップを取るのでさえ相当大変なわけだし。それにしたって、順位で一位を取っているだけであって、地力が十倍や百倍なわけでもない。数字を書き換えるのは簡単なだけに麻痺しがちだけど、多くの物事は競争相手の2倍に到達するだけでも、物凄いことだ。
ましてや桁が変わるとなれば。
「あ、そうだ。桁違いといえば好きなジョークがあるんだよね」
「へ~。どんなの?」
「『世の中には10種類の人間がいる。二進法を理解する人間と、理解しない人間だ』っての。口頭だから詰まらないから、わざわざメモに書いて見せてるけど」
「……ん。で、後の8種類は~?」
「あんた、本当に欲しいリアクションをくれるね……」
「え~?」
「普段私たちが使っている十進法は、10まで数えると桁が一つ上がるよね。二進法は、2まで数えると桁が上がるの。だから、二進法で10っていったら、2のことを指すんだよ」
「……あ。あ~! 最初の10種類っての、二進法のでは2種類いるって意味か~」
「そう。それが分かるのは、二進法を理解する人間の方ってこと」
この、一瞬「ん?」と首を傾げてから、一歩立ち戻って内容を理解するあたりの小さなアハ体験が、このジョークの上手い点。ただ、口頭で伝えるとジョークにならないのが残念な点。
「性格悪いね~、コユメちゃんっぽいね~」
「何その感想。確かにちょーっと、人を小ばかにしてる雰囲気はあるけどさ」
「ま~、ジョークって大体人を小ばかにして楽しむものだよね~」
「いじけないでよ」
「コユメちゃんは~、桁の絡んだジョークで笑ってればいいんだよ~」
「……ケタケタって?」
「そう!」
小野寺は得意の駄洒落で切り返したつもりらしかった。
うまいこと言ってやったって顔してんじゃないのよ。
「でも改めて~、10回も続いたのは喜ばしいことだよね~」
「ほんとにね。お陰様だよ」
「この調子で続いたらいいと思うけど~、桁の話はもうしちゃったね」
「そういえばそうね。次に桁が上がる100回目には、何の話題にするべきかな……」
……などと妄想の繰り上がり計算をすることを、「捕らぬ狸の皮算用」という。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます