9. 呟き
意味としては、小声でボソボソ独り言を唱えること。要は一人でこっそり喋ること。同じ小声でも聞き手がいると、「
あるいは、単純に呟いてる奴は根暗な奴だ、とか。
「あたしはあれが好き~……『
「確かに
「あっ、失礼~! そして~地味にカンジで
「自分で振ったのに……」
「そんなコユメちゃんに~、チョコチップクッキーを半分あげる。『あっ、私の方が小さい~』とか言われないように~、きちんとナイフで分けてきました~」
「気遣いにピントずれを感じる……」
貰うけど。好きだから嬉しいけど。
やっぱりこの手のは、1枚が手の平よりも大きくなくっちゃね。
蛇足話。「囀る」の右側はごちゃごちゃしてて何だかわかりづらいけど、転がる様子を表した言葉だそうだ。玉がずっと転がるように囀り続ける……とか。小野寺も暇な時は転がっている印象があるし、やはりぴったりかもしれない。
「呟くでも囀るでも良いのだけれど、そんな感じで短文を書き連ねるタイプのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)があるよね。私も利用しているけれど」
「みんなご存知の、青い小鳥さんですか~」
「そう、それ。眺めていると、改めてそこに投稿する意義について考えるよね」
「ソーシャルっていうくらいだから~、みんな~社交的交流を求めているんじゃないの~?」
「案外そうでもないみたいよ」
某青い小鳥さんは、正確には広告用のサービスらしいけれどもね。誰でも気軽に、全国へ向けた広告を打てる時代である。
とはいえ、利用者のほとんどは自らの行いを「広告」とは考えていないだろう。大半はログの残る「呟き」でしかなくって、交流すら求めていない――ように見えるし、思えるし、実際そういう意図を説明した内容の投稿もたまに見かける。
では、なぜそれをわざわざ人の目につくところに置くのか。
「呟くだけなら~、人目に隠れてやった方が怒られなくていいもんね~」
「うん。ログを残したいのなら、手帳なりパソコンのエディタソフトなりに書けばいい」
「やっぱり~、本心では人と交流したいんじゃないの~?」
「本心と呼べるほど確固たるものじゃないだろうけど、それはそうかもね。拾ってくれる人がいたら、拾ってほしい……みたいなことを、うっすら心のどこかに抱いている」
まあ、広告でもなく拾ってほしいわけでもなく、紛れも曇りも一切ない精神で「記録を残すのに便利だから使っている」人も、ゼロではないのだろうけれども。遭遇確率としては、無視しても良いくらいのものだろう。大半の人は、自らの発言に反応してもらいたいし、そうでなくとも認識くらいはしてもらいたいものだ。
人の見える場所にわざわざ言葉を残すのが、存在証明でなくて何だというのか。
なんて言っても、今日は深く人間の心理について語る気はない。
「言語は意思疎通するためのものだからね。独り言や呟きも、その一種だと思うのよ」
「誰と~、疎通するの?」
「自分と。思考を整理するともいうかな。ほら、考え事が口に出ちゃう人、いるじゃない?」
「いるいる~。コユメちゃんもよく出てる~」
「うん……。聞かれていると思うと恥ずかしいのだけど」
声が大きい方ではないと思うけれども。
同居人相手に聞くなというのも、無理な話である。
「言語が人類に与えた
「なんか~、お話が難しくなってきたよ」
「えっと……。考えるってことは、順番や組み合わせを色々試してみて、整理して、つながりや関係を見付けることだと思うのね」
「ふんふん~」
飽き始めていた小野寺の前に、そこら辺にあったペンと、メモパッドと、消しゴムを順に並べてみせる。
「例えば、こうやって物を並べて示されたら……意味わかる?」
「ペンで~、紙に何か書けるよ~って。消しゴムは、それを消せるよ~って。そんな感じ?」
「そうそう。まあ、このペンはボールペンだから消せないけど、細かなことは脇にヨイショで、何となく伝わるよね。じゃあ、これらがないときに同じ内容を伝えたいとしたら?」
「え~? なんか代わりのモノ使う~」
「そう。そこで、“コトバ”という代用品に落とし込む」
「ああ~、なるほど~。“ペン”って言葉があれば~、実際にペンが無くても、ペンを思い浮かべることができるできる~」
ぽん、と手を打つ動作をする小野寺。それから、色々な言葉を呟き始めた。
ペン、紙、消しゴム、ガム、キャンディ、チョコ、クッキー、大福、どら焼き、お茶……って、おい。きっと一つ一つ丁寧に思い浮かべているのだろう。楽しそうだけど……ブレないよね、あんた。
「まあ、考える時も多くの人が“コトバ”という代用品を頭の中で使う。だから独り言も時折漏れる。ってことね」
「はっ、漏れてた~?」
「ダダ漏れだよ」
「そっか~。ボトルみたいだね~」
「え、何が? 言葉が?」
「うん~。お話を聞いてて思ったの。いろんな形のボトルがあって~、“まんじゅう”って形のボトルに、おまんじゅうのイメージを入れてるんだよ」
「うん? ……ああ、そっか。そのボトルは開けられないけど、他の人も『まんじゅうボトル』ってことはわかるのね」
「そうだよ~。だから、意思疎通は出来るけど~、あたしとコユメちゃんが思ってる『おまんじゅう』が同じものかは、保証がないんだ~」
「はあ、成る程ね」
ちょっと感心してしまった。
入ってるモノやイメージが同一でなくても、ハコがあれば意思疎通できる、と。日本語の筆と、英語のPenは厳密には別物だけど、『書くものボトル』には入れられるから、翻訳で対応させられることもある……と。
なかなか含蓄のある喩えじゃない?
「それにしても、食べたいの? おまんじゅう」
「いや~、わたくし小野寺は、まんじゅうが怖いのです~」
そんな風におどけながら、お茶を淹れに行く小野寺だった。
まったく、落語オチは前回もう使ったっての。
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