7. 予定

 今回で、とりあえず一週間は続いたことになるのかな。

 前々前世が三日坊主だった私としては、三日で終わらなくて良かったよ。いやホント、自分で驚いている。この調子で連綿と続いてゆくと、なおさら良いよね。他の誰に望まれてるかは知らないけれど、少なくとも私はそう望むのだ。現時点においては。

 何を隠そう、予定が埋まっている……というのが、どうにも私は苦手でね。

 コユメちゃんは計画的に動けない体質なのである。

 成人した社会人である手前、なかなかそうは言ってられない局面が多いけれど。


「具体的に~、なんで予定が苦手なの?」


 コーヒーをふーふーしながら、小野寺オノデラが尋ねてくる。

 このコーヒーは私が淹れたもの。

 たまにはね。


「うーむ。なんだろうね。昔から、まず計画表を描く時点で嫌悪感がゾワゾワとしていたよね。背筋がムズムズするんだよ」

「幽霊より苦手だね~」

「そうだね。間違いないね」


 吹くのをやめて、コーヒーにミルクを注ぎ始めた小野寺を横目に、私は考える。

 指折りしながらリストアップ。


「何だか、先を決められる感じがするのがイヤなのと……その通りに動かなきゃいけないっていう束縛感みたいなものが、とても窮屈に思えるのかな。あとは、やらなきゃいけないことが多いなあ、実際にできることは少ないなあと、改めて認識されるところとか」

「計画したほうが~、結果的にできること多くない?」

「そうなんだけどね。なんかこう、事前にやることの量をあまり認識したくない。漫然と目の前のことを処理していきたい……」

「怠惰~」

「そりゃあ怠惰さ。人間様だもん」

「開き直りの規模が大きい~」


 人間は根本的に怠惰である。というのが私の持論。

 ラクしたいからこそ、人は工夫を凝らし結託し、文化を構築してきたのよ。

 ただまあ……、その論に則るのなら、計画をきちんと立てた方がやっぱり結果的にラクできるはずなんだよな。同時に即物的というか、目の前のことに囚われやすいんだね、きっと。


「計画の段階で、既に実行の面倒くささを感じちゃって萎えるんだよなー」

「あ~、なるほど~。コユメちゃん、その辺り厳密に考えちゃいそうだもんね~」

「ん、厳密に考えるものじゃないんかい」

「あたしは全然~。テキトーに組むよ~。他人事のように計画を立てるよ~」

「それ、やるのは自分だよ?」

「未来の自分はデキるヤツだって~、信じてる」


 むん。と、小野寺は力こぶを作るようにして見せる。全然コブにはなってない。

 悔しいけれど、確かに私よりは計画や予定を立てるのが得意そうだ。


「実際、やるときになって後悔したりしないの?」

「ん~……。出来そうになかったら、予定変更しちゃう~。あとは、『誰だこの計画を作った奴は!』って怒る~」

「怒っても仕方ないでしょ。過去の自分だし」

「過去の自分は~、見通しが甘い! けしからん~」

「人格が時系列で内部分裂してる上に、相互矛盾しないのね……」


 便利な考え方だ。

 それこそが、こいつのいう「テキトー」さなのであり、計画や予定を立てるコツのようなものなのかもしれない。

 ちょい余談。「コツをつかむ」のコツはコツだと以前は思っていたのだけれど、雅楽ががくしょうという楽器にあるコツという部分をおさえることから来ているとも聞く。由来論争になると落としどころは難しいだろうけど、全然異なる筋でもそれぞれ納得できるという、この奇妙な同居が好き。

 なんであれ、ワラよりはコツをつかむ自分でありたい。


「ま、そんな感じで良いのかもね。仕事の現場でも、計画立てる人と実行する人は異なる場合が多いわけだし……。予定が埋まってれば埋まってるで、私もそれに倣うこと自体はそんなに不満じゃないし」

「そ~そ~」

「予定はキッチリ、実行はカッチリってのに生き甲斐感じる人もいそうだけど。少なくとも私はそのタイプじゃないようだ」

「あたしはむしろ、ワクワクを増やすんだ! くらいの気持ちで、予定入れちゃう~」

「ポジティブだなー」


 その前向き具合には敵わんわ。

 予定というモノを枷と捉えるか、楽しみと捉えるかの違いにもありそうだ。

 楽しむことはラクすることなのかもしれない。


「そもそも、計画自体はある程度安定してないと成り立たないものだよね。明日をも知れない身だったら、予定も何もない……あんまり生物的な考え方ではないのかも」

「かもかも~。計画や予定を立てられるってことは~、安定を手にしたっていうことなのかもね~」

「そんな風に考えてみれば、予定を立てること自体が余裕の表れなわけで。ワクワクを増やすというのも間違ってないな。小野寺は賢いな」

「ふふ~。もっと~、褒めるのです~」

「調子乗るからやめとく」

「うへ~」


 調子に乗り過ぎた小野寺はうざい。

 ていうか、調子に乗ってる奴がうざくないわけないんだけど。

 ちょい余談、再び。うざいという言葉は、かつては方言だったり若者言葉だったはずだけど……。今では誰しも普通に使ってるよな。鬱陶うっとうしい、が由来だろうか。「鬱陶しい」って、漢字そのものが鬱陶しさを体現している印象を受ける。名は体を表すというか、一貫性があって良きかな

 ちなみに今回余談を意図的に挟んでいるのは、予定を崩してみてるゆえ

 なんてね。


「とりあえず、『やらなきゃ』って考え方ではなくて『続けばいいな』くらいのつもりでやってみようか。この企画も」

「良いと思うよ~。あたしも、今日はブラックコーヒーに挑戦するつもりだったけど~、ミルク入れてるしチョコも一緒に食べてるし~」

「いつの間にチョコまで揃えてるのさ。私にもよこせ」

「全部食べないでよね~」


 などと、もうしばらくこの企画も欲張って続けてみよう。

 コンセプトは、だらだら。

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