4. 税金

「最近、消費税が変わったじゃない~?」

「おっ、時事ネタ」


 昼下がり。唐突に話を振ってくる同居人の小野寺オノデラ

 時事ネタとは言ったけれど、盛り上がりとしては微妙に波が去りつつあるよね。本当にタイムリーなのは台風とかその辺り。

 でも、いいんだ。私たちはニュース番組をやっているわけじゃないから。


「ていうか、今話題になったところで~、数年後にはまた上がったり下がったりしそうだよね~、消費税」

「下がりはしない」

「断言。夢は持とうよ~……」

「うーん。もうちょっと大きな夢を持ちたい……。で、消費税がなんだって?」


 脱線しきる前に、話を戻す。

 脱線こそが本線みたいな書き物だけどね。


「あ、そうそう。消費税が上がってイヤだな~って」

「感想が月並みすぎてほとんど満月だよ。もう少し捻れないものか」

「数%でも増えたなぁ~って、実感するものだね~。イヤーンまいっちんぐだね~」

「無理に捻らなくてもいいよ……。正直、個人的には消費税よりその他もろもろの税の方が重いと思うけれど」

「その他……もろもろ……」

「……あっ、そうか小野寺。あんた幽霊だから……消費税くらいしか馴染みがないのか」


 と、言ってから気付く。

 ちょっと待て。消費税も幽霊に馴染みがあるものなのか?

 消費税とは、物品を売買しない限り関係してくるものではない。そんな生者の営みに、死者である幽霊がいかにして絡んでくるのか。

 そういえば前回も、足を払ったとか冗談に使ってたな……。


「小野寺……あんたもしかして、買い物するの?」

「さっき行ってきたよ~。それで、高いな~って」

「えっ……足、無いのに? 外に出て闊歩しちゃうの?」

「よく行くよ~。長めのスカートだったりすれば、意外と気付かれないみたい」

「確かに他人の足元なんて、なかなか見るもんじゃないしね……。や、でも、あんた、スイーッて平行移動気味に動くじゃん……トコトコしないじゃん」

「武術の達人さんとか~、そんな感じに思われるんじゃないかな~?」

「この地域の人間、認識力大丈夫かよ……。その、土地――この部屋に縛られたりしてないの?」

「けっこー自由に動けるよ~。ってか、今更じゃない?」

「やっべぇ……消耗品のストックがいつの間にやら補充されてたりして不思議に思ってたんだけど、もしかして小野寺が買ってきてくれてるとか……、そーゆーギミックだったのか……? 親切な部屋だなあって思ってた……」

「コユメちゃんの認識力の方がヤバいんじゃ……」


 幽霊に引かれてしまった。

 いや、これはもう本当に、私がご都合主義に捉えすぎていました。ホテルの清掃サービスとかと混同していたのかな。お気楽すぎる……じゃないじゃない。危ない。どう考えても、小野寺の方がご都合幽霊すぎるんじゃなかろうか!

 ……ま、同居人としては便利だからいいや。

 いつもありがとう。


「うん。まあ……消費税の話だっけね」

「そうそう。また脱線してたね~。なんで消費税なんかあるのかな~。迷惑~」

「迷惑て。国がお金集めるためでしょ」

「国ってやつ許せない~。クニオもクニコも許せない~!」

「個人名じゃねぇから。どちらかっていうと集団だから」

「そっか~……クニって名前の人にお金が集まるんだったら、まだわかりやすいのにね~。そしたらみんな、名前にクニってつけるのに。ヤオビクニとか~」

「そりゃまあ長生きしそうな子だね。え~……私、教育番組でもないんだけどな」


 小野寺はたまに、なんで&どうしての面倒くさい子になる。

 放っておくと機嫌が悪くなって、これまた余計に面倒くさいので、相手をすることにした。頭をがりがりと掻いてから、正面に座る。

 よっこいせっと……などと言っちゃうとオバサン判定受ける世界もあるけれど、絶対子供の頃から言ってる奴もいるだろ。行動に言語が伴ってるだけなんだと思う。物を浮かせるときに「ウィンガーディアム・レビオーサ」って言っちゃうのと一緒だね。

 さておき。


「すんごくテキトーに説明するけど、税ってのは簡単にいえば家賃だよ。特定のエリアで生きてる限り支払うもんだね」

「さっき国は人じゃないって言ってたけれど、その家賃はだれが受け取るの~?」

「大家というか管理人というか。具体的には公務員だね」

「やっぱり人じゃないか~」

「そーなんだけど。管理人だって家賃全部を懐に入れとらんよ。受け取った上で、住宅の整備とかに回すんだね。定期的に掃除したり、害虫駆除したり、庭を手入れしたり、古くなった設備取り換えたり。もちろん、本人の生活費も含む。ここでは『管理人=クニ』って呼んでるけど、要はクニって、国家という住宅を管理する総合システムの代名詞なわけよ」

「う~ん。何でそんなことに……」

「クニ自体が、人が集まってできたもんだから。そーゆーシステムが在ったらみんな楽だっていうんで作られたんだよ」


 この話、はたしてオチるのかな?

 税金にもいろいろな種類や形態があるとか、難しい話を続けたくないんだけど。そういうの求められてないと思うし……。

 などとちょっと思い悩んでいると、パンと小野寺が手を合わせた。


「……わかった!」

「おう。唐突な理解」

「つまり、たくさん施設を利用する人は、たくさん利用料払ってね~ってこと!」

「お、おう。しかも正しい理解」

「税金が上がるってことは、施設の利用料が上がるってことだから~、管理体制が上手くいってなかったか、導入しないといけないサービスが増えたんだ!」

「急に冴えてどうした!?」

「アイスを買っておいたから食べるの~」

「そして急激な方向転換。クールだね」


 カーブが鋭角すぎて振り落とされるわ。

 小野寺の場合、食欲が緊迫すると思考力が増す……のかな。


「あ、そうだ。アイスは良いけど、買い物のお金ってどうしてんの?」

「え? コユメちゃんのお財布から勝手に抜いてるよ~」

「やっべぇ……それにすら気付いてなかった私やっべぇ……しかもそのお金でアイス食われてる……」

相救あいすくわれてるんだね~」

「上手いこと言うなよ」

「ユーレー税です~」

「私の側が払うのかよ」


 税を払うというのは、生者の特権なのかもしれないな……。とか。

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