2. 迷い
いきなり方針に迷ってるんだけど。
いやいやマジでマジで。
どんな風にこのコーナー続けて行ったらいい?
日記ってみんな何書くの?
今日はお米を食べました。夜にはパンも食べました。とか、そんなのでいいの?
などと思う私であった。
終わっちゃったよ。
ここから始めるんだけどさ。
ちょっと困ったから同居人の
「ねえ。ってことで日記を始めたんだよ、私は」
「え~。それ、前回も聞いたよ~?」
「前回はハードルの話だっただろ。いや、シードルだっけ? どっちでも良いよ。フランス語のシードルが語源になってサイダーって言葉が出来たとか、そういうトリビアは今話してないんだよ」
「あたしも訊いてない~」
「いやあ、何でも書いていいって言われると逆に書けないっていうアレに陥りそうでさ」
「あ~。ご飯何にする? なんでもいい~。みたいな~」
「そうそう」
……そうなのか?
立ち止まってよく考えてみよう。
迷ったときにウロウロすると、本格的にどうしようもなくなるもんだからね。おかしいと思ったら、立ち止まったり振り返ったりするのも大切だ。前回は「はじめてみよう!」とか前向きで勢い十分な内容だったのに対して、早くも「立ち止まってみよう!」とか言ってる私だけど。
落ち着きがないなあ。
「うーん。選択肢はなくはないんだよ。思い付くものはある。でも、決定打に欠けるのさ。今もだし、ご飯を考える時にもね」
「なるほど~。だから『じゃあ中華にしようか』って返したら、『今はそういう気分じゃない』とか言うんだね~。迷惑~」
「お。常日頃の不満を挟み込んできたね。やるね!」
「やるね! じゃないよ~。選択肢があるなら、先に出してくれればいいのに~」
「それもそうだ」
しかし面倒くさいのだ。
ていうか、選択肢が「なくはない」のであって、「ある」というほどポジティブで明確な話でもないことが多い。いろいろ思い浮かびはするけれど、形を成すほどしっかりしていなくて、ボヤボヤしているからこそ迷うのだ。
惑うのだ。
魔導士なのだ。
「つまり、指摘されてはじめて『それじゃない』ことがわかる」
「迷惑~」
「普段どれだけ迷惑感じてるの……?」
「うんと、すっごく~」
「え……、ごめん」
「ううん~。それ以上にすっごく心が広いから~、あたしは~」
「そ、そうかい……」
反応に困りますがな。
困ったので、話を戻す。
「意識するまで、感覚が生じないっていうかな。やり取り自体は無駄じゃないんだよ、きっと」
「何にする~? なんでもいい~。じゃあコレは~? それは違う~……って?」
「そうそう。対話して初めて輪郭を成してくる。人間の思考っていうのは不便なものだね」
「コユメちゃんだけがそうなんじゃないの~?」
「いや~。結構あると思うよ。あるあるだと思うよ」
「そうかな~?」
「そうなのですよ」
そこで私は膝を叩く。
そうなのだ。だからこそカウンセラーという職業がある。
「カウンセラー? お悩み相談~?」
「っていうと、何だかカウンセラー側が一方的に問いに答えてそうだけど、実際は違う。心理的な分野に関しての話だけどね。彼らの仕事は、主に『話を聴くこと』と『内容をまとめること』なんだよ」
「へ~、解決しないんだ~?」
「解決は患者が勝手にする――って考え方だね。だからカウンセラーは『思考に対する助産師』にも例えられるよ。むしろ変にアドバイスなんかしちゃうと、相手の考え方をゆがめてしまう恐れがあるともされる」
「ふ~ん。鏡みたいなもんだね~」
「そうかも。人間は社会的な生物だからね。話す相手がいるってことで、やっとこ思考が整理される節もあるんだと思うよ」
実際、小野寺との対話が現在進行してるしね。かのシャーロックホームズも相棒ワトスンとの対話なしには、その推理力の半分も発揮できない事だろう。知らんけど。
嗚呼、居てくれて良かった同居人。
こいつ家事が趣味みたいなもんだしな……便利アイテムかよ。
「なんか~、失礼なこと思われた気がする~」
「思ってない思ってない」
「迷惑~」
「それ気に入ったの……?」
気に入られちゃうと、こっちに心労がかさむ口癖なんだけど。
いや、それだけ迷惑かけてんのかもしれないけど。
「まあ、いいや~。つまり、今夜食べたいものに関しても~、毎回カウンセリングしないといけないわけ~?」
「そうしてもらうと助かる人たちもいる、ってこと。私がそうとは限らない」
「そこで格好つける意味が解らないよ~。じゃあ、今夜は何食べたいの~?」
「うーん、中華は嫌だな」
「ほら、も~」
小野寺は腰に手を当てて、怒っているポーズをする。
全然怖くないんだけどね。
「結局さあ~、何を書くかの方は決まったの~?」
「お陰様で、決まったし……もう書けたようなものだよ」
「ふ~ん。結論は~?」
「……。迷いの中にも『よい』がある、とか」
「迷惑~」
お後はよくもないようで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます