第4話 奇抜なドレスと温泉ドッキリ
私は、相変わらず子供たちに勉強を教え、その
(なぜだ? ご飯も減らして、運動もしているのに)
(……筋肉をつけた方がいいのかな)
筋肉をつけると、代謝が上がりカロリーが消費されやすくなる。
さらに、体幹が
私は、
(筋肉といえば、プロテイン)
この世界にプロテインはないけれど、タンパク質をとるのにいい大豆や乳製品はある。肉や卵もとるようにすれば
「よし、頑張るぞ」
子供たちに足し算と引き算をさせつつ、水の入った
(いい子たちだな)
男の子の一人、ライアンは勉強が特によくできる。文字の読み書きもあっという間に全てマスターしてしまった。今は
私が子供たちと集まっていることは、すでに祖父やリュゼにも知れていた。本を貸し出しても特に文句は言われない。
「お
「よかった。じゃあ、今度はこれ」
「少し厚みがありますね、楽しめそうで
ライアンの目は、キラキラと
子供はそれほど好きではなかったけれど、接しているうちに勉強に
(子供といっても、私の前世の
今まで、ブリトニーに同年代の友人はいなかった。
同じ歳の
次々に
そんなこんなでずっと
勉強が終わった後は石?の研究なのだが、リュゼに
目が合うと、
「いい
「ああ、これは石?の匂いなの。よかったら一緒に作ってみる?」
「え、でも」
「いつも一人で研究しているから……助手がいてくれたら、助かるわ」
そう伝えると、マリアは腕まくりをしながら部屋の中に入ってきた。人手はいらないのだが、話し相手がいてくれた方が楽しく作業できる。
(やっぱり女の子だな、いい匂いに興味があるなんて)
マリアは、部屋の中に並ぶ、たくさんのハーブや精油に見とれているようだ。
「石?の作り方は
「わかりました! ここで見たことは
秘密といっても
マリアは、
風通しが良い場所に、リュゼが保管用の
(出来上がった石?は、マリアにもあげよう)
こうして交流を深めて印象が良くなったのか、マリアは将来伯爵家で働きたいと言ってくれた。彼女はまだ十一
(味方が増えることは嬉しいけれど、今のメイドたちの中でマリアが
彼女の母親は
(私の専属メイドはいないし、一応お祖父様にマリアのことを伝えておこう)
しかし、その行動が
祖父は「平民と仲良くなるよりも令嬢の友人を」と言ってきたのである。
「ち、
私は、
(他の令嬢と仲良くなるのは、まだハードルが高すぎるよ)
幼い頃の我儘がたたって、令嬢全員に敵視されているであろうことは簡単に想像できた。
(それに、
幼い頃に感じた
彼女たちが
直接何かを言われたわけではないが、
「ブリトニーの大好きなお
祖父は空気を読まずに、まだお茶会にこだわっていた。彼のこういう鈍い部分が、ブリトニーに遺伝したのかもしれない。
「結構です、私はダイエット中と言ったではないですか。お菓子は食べませんよ!」
思わず声を
「ブリトニーや、どうしてそこまで
「いいえ、健康のためです。デブは病気になりやすいので。そして、私自身が自分の体型を
「そんなに無理をしなくてもいいじゃないか。しかし、困ったのう。もう招待状は出してしまったし……」
彼の言葉を聞いて、思考が真っ白く
(お祖父様、知らない間になんということを……)
私は、頭を
(大変なことになってしまった。ハークス伯爵家でのお茶会
そもそも、招待に応じる令嬢なんているのだろうか。
(不安しかない)
私は、頭を抱えてその場にうずくまった。お茶会に関する心配事が、
(
気分をサッパリさせるため、とりあえず温泉へ向かった。昼間は誰も利用していないその場所は、四方を
水を引いてもらった際、
温泉の中で石?を使われたら大変なので、使用人向けに入浴方法の絵も書き、壁に
体を洗ってから温泉に入ると、ザアザア音を立てて湯が外に
ブリトニーの体積は、まだ減らない。
(どうしたものか……)
少し?せたあたりから、私の体重は増えたり減ったりを
(食事管理も運動も
温泉から上がって、
「ご、ごめん。ブリトニーが、中にいるとは思わなかった」
彼は慌てて
(
(なんという事故!)
普通の温泉ドッキリには多少のときめきがあるだろうが、そんなものは
(……どちらかというと、リュゼお兄様の方が
ドレスを着終えて外に出ると、待っていたリュゼに再び
「ごめん、きちんと
「こちらこそ、すみません。大変お見苦しいものを……」
リュゼは、ノーコメントを
今度からは入り口の扉に、「入浴中」の札をかけておこうと心に決める。
使用人たちは、時間帯で男女に分かれて入っているらしく、今のところ問題は起きていない。
「ところで、ブリトニー。君の作った、レモンを使った『コンディショナー』とやらは
私は
「レモンは割と強い木みたいなので、うちの領地でも問題なく育つかもしれませんね」
「
「……うーん、安く
私は、隣の領地を治める伯爵子息、元婚約者のリカルドを思い浮かべた。
(彼は協力してくれるかな?)
リカルドには、「何かあれば他にも
リカルドとの
レモンのコンディショナーに
とりあえず酸性──クエン酸の多い食べ物を使っている。ライムなどは
「ブリトニー。隣の領地から、レモンの木が届いたみたいだよ」
作業部屋でコンディショナーを作っていると、従兄のリュゼがやって来た。
大量のレモンの木は、
リカルドは、思ったよりも太っ腹だった。
「
「行きたいのは山々なのですが、お祖父様が急にお茶会の予定を入れてしまって……ちょうどかぶってしまうのです」
「そうなんだ、残念だね。ブリトニーは、そっちの方が大事だものね」
どうやら、「お茶会好き」だと誤解されているようだ。不本意なので、言い訳をしておく。
「……お祖父様が、私が使用人の子供たちとばかり仲良くするのを気にしていて。令嬢の友人も作った方がいいと言われたのです。他のご令嬢と仲良くできる自信なんて、ないんですけどね」
それに、たくさんの菓子が並ぶお茶会なんてデブのもとだ。本当は、とても断りたい……
(でも、すでに招待状を出してしまったお祖父様の顔を
気まずくなった私は、話題を変えてみた。
「そうだ、お兄様。私、シャンプーを作ってみたのですが」
「なんだい、それは?」
「
「なるほど。実は君の作った石?で頭を洗ってみたんだが、髪がきしんでうまく洗えなかったんだ。今度使ってみたいから、温泉に置いてくれるかい?」
「
空き時間に作ったシャンプーは、オイルと精油、蜂蜜を使ったものだ。
この世界の食べ物は、ほぼ前世と共通である。ただし、うちの領地で採れるものは限られている。
(
リュゼと別れた後、私は自室に戻り、お茶会の日に着るドレスを決めることにした。
しかし、クローゼットの中を
「しまった! ブリトニーの服の
クローゼットの中では、おぞましい造形のドレスがひしめき合っていた。
真っ赤な
ショッキングピンクのスカートに、緑色のレース……
ど派手な黄色のコートに、
(終わっている……)
今まで、よくこんなものを着て人前に出られたものだ。過去の自分を思い出した私は、ベッドにダイブして転がりながら
この自分の黒歴史を
(とはいえ、今から他のドレスを作ってもらう
言わずもがな、ブリトニーのドレスは特注品だ。一応伯爵令嬢であるし、この体型に合う
私は、目の前が真っ暗になった。
(こうなったら、自分でリメイクするしかないかも)
幸い、家庭教師に
(どうにもならない部分は、家庭教師の助けを借りるしかないな)
比較的マシな布地のドレスを選んだ私は、さっそくリメイクを開始した。不要な
(急がないと、時間がない)
選んだドレスの色は、秋の季節に合うモスグリーンだ。しかし、各所に真っ赤なリボンや派手な金色のレースがつけられており、ブリトニーが着ると、まるで異常に幹が太いクリスマスツリーのようになる。
(
チクチクと
「お嬢様、お茶会のドレスはどれを……ええと、何をしておられるのですか?」
「ドレスのリメイクです。お茶会で着られそうなものがなかったので」
「そうですか。ちなみに、どのように作り直すおつもりで?」
「リボンを全部外して、レースの色を落ち着いたものに替えるつもりなのですが」
幸い、そこまで複雑なリメイクではない。手伝ってくれるかなあと
「あらまあ、そんな
メイドが手に取ったのは、明るい黄緑色に水色と赤色のバラがちりばめられた、どこの仮装大会だと言いたくなるようなドレスだった。
「……それ、本気で言っています?」
「素敵じゃないですか。お嬢様にお似合いですよ」
私は、それを嫌味だと判断した。
(腹が立つなぁ。私のような白豚には、変てこなドレスがお似合いだとでも?)
かつてのブリトニーなら、彼女の言葉をそのまま受け取って喜んでいただろう。今までの私の行いは酷かったが、メイドの態度も酷い。
「わかりました。私は自分のセンスに自信がありませんので、リュゼお兄様にも相談してみましょう。あなたがこのドレスがいいと言っていたけれど、お兄様から見てどうかと」
(相手によって態度が変わりすぎでしょ!)
意地悪ブリトニーは、やっていることの割に権威はないのだ。
「もういいです、衣装係は別の人に頼みますから」
私は、メイドたちを部屋から追い出そうとして扉を開く。
すると、扉を開けた先にニコニコと
「お、お兄様……?」
「ブリトニー、君にお客様が来ているのだけれど……お取り込み中だったかな?」
メイドの顔色がさらに悪化している。
絶対に聞かれていた……! リュゼの威を借る白豚発言も聞かれていたに違いない。最悪だ!
「い、いいえ、特には」
「ふぅん? このドレスの趣味は、
リュゼは天使の
(これは……退職
メイドに交じって、私もブルブル
「君たちは、祖母の持っていた装飾品をいくつかくすねて売っていたみたいだし、もともと暇を出そうかと思っていたんだ」
なんと、メイドたちは祖母の遺品を
「売った先から足がついたんだよ。他にも数人のメイドが関わっていたみたいだから、彼女たちも
「あ、あの、お兄様……」
「彼女たちの言動は、目に余るよね」
「一度に何人もクビにして、代わりの使用人は集まるでしょうか?」
「
「さすが、仕事が速いデスネ……」
リュゼを頼って
連れて行かれた客室には、
「お待たせいたしました。ええと、本日はなんのご用でしょうか? リカルド様」
「ああ。今日は、お前に言いたいことがあって来た。お前との取引はそろそろ終わりだ。うちはハークス伯爵家に多額の
「……ご、ごもっとも」
とはいえ、お隣さんに助けてもらいたいことは、まだまだある。関係は切りたくない。
でも、「ここで、取引を打ち切りたい」と言うリカルドの気持ちもわかる。
「では、今後は
私は、恐る恐る話を切り出した。
「具体的に、何と何との交換だ? そもそも、お前は領主の間で交換できるような物を持っているのか?」
「ええと、あはは……」
あるにはある。けれど、リカルドがそれを
悩んでいると、
「今日のお前は
「……温泉で、しっかり体を洗った後だからかと」
なんだか上から目線だが、評価されたのは嬉しい。それに、温泉の話題が出たので、この後の話を
「あの、私の
「協力内容によるが、その発明品には興味があるな」
「石?というものなのですが……」
そう答えると、リカルドが目の色を変えた。
「それは、今、王都で
「えっ……?」
石?が王都で流行しているなんて初耳だ。
(いつの間にか、
「そういえば……お前、少し?せたか? 前に会った時よりも、少し顔が小さくなったようだが」
「……そ、そうですか? 体重は少し落ちました」
「何かあったのか?」
「ダイエットをしています。食事内容を変えたり、運動をしたり……」
リカルドは、「そうか」と
(一体なんだ?)
しばらくすると、彼は話を打ち切り、「リュゼと話がある」と言って部屋を出て行った。二人で遠乗りに出かけるようだ。
(……うん、やっぱり私も乗馬ができるようになりたいな)
後で体重を
ここにきて、再びダイエットの効果が現れ始めた。元の体重から、十キロ減。
(まだ、デブの域を出ないけれど。あと三十キロ、頑張ろう!)
私は気合いを入れ直し、再びダイエットに
ブリトニーの体重、七十キロ
転生先が少女漫画の白豚令嬢だった 桜 あげは/ビーズログ文庫 @bslog
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