第4話 奇抜なドレスと温泉ドッキリ



 おくもどって、三ヶ月が経過した。

 私は、相変わらず子供たちに勉強を教え、そのかたわらで美容研究をしている。

 せつ?けん効果でたいしゆうはマシになり、レモン効果でかみもサラサラになった。最近では、ニキビも少なくなってきている。だが、体重は七十五キロから一向に減らない……

(なぜだ? ご飯も減らして、運動もしているのに)

 なぞである。うでしりもぷよぷよである。

(……筋肉をつけた方がいいのかな)

 筋肉をつけると、代謝が上がりカロリーが消費されやすくなる。

 さらに、体幹がきたえられて姿勢が良くなり、老化防止にも?つながる特典があると前世のテレビで言っていた。いいことづくしだ。

 私は、つうの運動に筋トレを多めに加えることにした。

(筋肉といえば、プロテイン)

 この世界にプロテインはないけれど、タンパク質をとるのにいい大豆や乳製品はある。肉や卵もとるようにすればなお良い。

「よし、頑張るぞ」

 子供たちに足し算と引き算をさせつつ、水の入ったつつをダンベル代わりに上げ下げする。

 かれらは私のこうにツッコミを入れることなく、もくもくと勉強を続けていた。

(いい子たちだな)

 男の子の一人、ライアンは勉強が特によくできる。文字の読み書きもあっという間に全てマスターしてしまった。今ははくしやくの図書室から、私が幼いころ読んでいた絵本などを持ってきて彼に貸している。

 私が子供たちと集まっていることは、すでに祖父やリュゼにも知れていた。本を貸し出しても特に文句は言われない。

「おじようさま、この間貸していただいた本はおもしろかったです。ありがとうございます」

「よかった。じゃあ、今度はこれ」

「少し厚みがありますね、楽しめそうでうれしいです」

 ライアンの目は、キラキラとかがやいていた。

 子供はそれほど好きではなかったけれど、接しているうちに勉強にさそった二人、ライアンとマリアはとてもわいいと思うようになった。

(子供といっても、私の前世のねんれいから見た感覚で、今のブリトニーとはあまりとしはなれていないけれど……)

 今まで、ブリトニーに同年代の友人はいなかった。

 同じ歳のれいじようと仲良くする機会も少ないし、もし機会があってもきよを置かれてしまうのだ。おそらく、しろぶたわがままに付き合いきれなくなったのだと思われる……

 次々にこうかいすることが出てきて、私はげんなりした気持ちになった。

 そんなこんなでずっとどくだったので、子供たちといつしよに過ごせるのは気晴らしになる。

 勉強が終わった後は石?の研究なのだが、リュゼにあたえられた研究室から外を見ると、子供のうちの一人──マリアがきようしんしんといった様子でこちらを見ていた。

 目が合うと、かのじよは少しバツの悪そうな顔をしながら近づいてくる。

「いいにおいがしましたので……気になって」

「ああ、これは石?の匂いなの。よかったら一緒に作ってみる?」

「え、でも」

「いつも一人で研究しているから……助手がいてくれたら、助かるわ」

 そう伝えると、マリアは腕まくりをしながら部屋の中に入ってきた。人手はいらないのだが、話し相手がいてくれた方が楽しく作業できる。

(やっぱり女の子だな、いい匂いに興味があるなんて)

 マリアは、部屋の中に並ぶ、たくさんのハーブや精油に見とれているようだ。

「石?の作り方はぎよう秘密。今は、私とリュゼお兄様と彼の部下くらいしか知らないの」

「わかりました! ここで見たことはだれにも言いません!」

 秘密といってもかいそうはすでにになった状態だし、あとはなべに投入するだけだから心配ない。

 マリアは、じゆんすいに石?作りを楽しんでいた。今作っている石?の中に、はちみつや彼女が好きだというカモミールの精油を入れ、出来上がったものを型に入れて保管する。

 風通しが良い場所に、リュゼが保管用のたなを用意してくれていた。従兄いとこの協力が得られてからは、格段に作業しやすくなっている……

(出来上がった石?は、マリアにもあげよう)

 こうして交流を深めて印象が良くなったのか、マリアは将来伯爵家で働きたいと言ってくれた。彼女はまだ十一さいだし、私付きとなると相応のメイド教育が必要だから、残念ながら、まだ先の話になるだろうが。

(味方が増えることは嬉しいけれど、今のメイドたちの中でマリアがりつしないか心配だしね……)

 彼女の母親はせんたく係のメイドだが、たぶんブリトニーのことをきらっている。メイドの大半がそうだろう。マリアの夢は、ぜん多難だった。

(私の専属メイドはいないし、一応お祖父様にマリアのことを伝えておこう)

 しかし、その行動があだとなった。

 祖父は「平民と仲良くなるよりも令嬢の友人を」と言ってきたのである。

 たのんでもいないのに、伯爵家で令嬢たちを集めたお茶会を開くなどと言い出した。

「ち、ちがうのです、お祖父様。私は、友人が欲しいわけではありません!」

 私は、あわてて彼の話をさえぎる。

(他の令嬢と仲良くなるのは、まだハードルが高すぎるよ)

 幼い頃の我儘がたたって、令嬢全員に敵視されているであろうことは簡単に想像できた。

(それに、みにくく太った姿を彼女たちの前にさらしたくない……)

 幼い頃に感じたべつの視線がのうかぶ。あの頃は、今よりは細かったにもかかわらず、出会った令嬢たちはポッチャリ気味のブリトニーをわらったのだ。

 彼女たちがいやったらしくおうぎで口元をかくし、クスクスと示し合わせるように視線をわす光景は今でもせんめいに思い出せる。

 直接何かを言われたわけではないが、にぶかった当時の私にもふんで十分伝わるほどだった。今思うと……ブリトニーの意地悪の根幹には、自分の容姿へのコンプレックスがあったのではないだろうか。

「ブリトニーの大好きなおも、たくさん用意しようね」

 祖父は空気を読まずに、まだお茶会にこだわっていた。彼のこういう鈍い部分が、ブリトニーに遺伝したのかもしれない。

「結構です、私はダイエット中と言ったではないですか。お菓子は食べませんよ!」

 思わず声をあららげてしまう。私は生きびるために必死なのに、よりによって一番の味方である祖父のあまさがじやをする。

「ブリトニーや、どうしてそこまでかたくなにお菓子を食べなくなったんだい? やはり、こんやくのせいなのかい?」

「いいえ、健康のためです。デブは病気になりやすいので。そして、私自身が自分の体型をいやだと思ったからです。私は、?せたい」

「そんなに無理をしなくてもいいじゃないか。しかし、困ったのう。もう招待状は出してしまったし……」

 彼の言葉を聞いて、思考が真っ白くりつぶされる。

(お祖父様、知らない間になんということを……)

 私は、頭をかかえてさけび出したいしようどうられた。

(大変なことになってしまった。ハークス伯爵家でのお茶会かいさいなんて、何年ぶりだろう)

 そもそも、招待に応じる令嬢なんているのだろうか。

(不安しかない)

 私は、頭を抱えてその場にうずくまった。お茶会に関する心配事が、とうのようにせてくる。

なやんでいても仕方がない。いまさらてつかいはできないのだから)

 気分をサッパリさせるため、とりあえず温泉へ向かった。昼間は誰も利用していないその場所は、四方をかべに囲まれており、外から見えない構造になっている。

 水を引いてもらった際、がいへきの工事もお願いしたのだ。周りにもスペースを作り、体を洗う場所やだつ用の場所も用意していた。

 温泉の中で石?を使われたら大変なので、使用人向けに入浴方法の絵も書き、壁にっている。彼らの中には文字が読めない者もいるため、この方がわかりやすいだろう。

 体を洗ってから温泉に入ると、ザアザア音を立てて湯が外にあふれていった。

 ブリトニーの体積は、まだ減らない。

(どうしたものか……)

 少し?せたあたりから、私の体重は増えたり減ったりをかえしている。

(食事管理も運動もがんっているのに、どうして減らないんだろう?)

 温泉から上がって、えをしていると不意に入り口のドアが開いた。

 おどろいて見ると、青い目を見開いたリュゼが固まっている。私もドレスを抱えたまま固まった。

「ご、ごめん。ブリトニーが、中にいるとは思わなかった」

 彼は慌ててとびらを閉めたが、私のこうちよくは解けない。

 した穿きはいているし、はだも身につけている状態だったが、そんな状態の自分の体を異性に見られたくなかった。

ずかしい……!)

 はだかに近い姿を見られたこともそうだが、この醜くたるんだ体を晒してしまったことが何よりも恥ずかしい。

(なんという事故!)

 普通の温泉ドッキリには多少のときめきがあるだろうが、そんなものはじんもなかった!

(……どちらかというと、リュゼお兄様の方ががいしやだよね。見たくもない醜い私の体を見せられて)

 ドレスを着終えて外に出ると、待っていたリュゼに再びあやまられた。

「ごめん、きちんとかくにんすべきだったよ」

「こちらこそ、すみません。大変お見苦しいものを……」

 リュゼは、ノーコメントをつらぬいた。

 今度からは入り口の扉に、「入浴中」の札をかけておこうと心に決める。

 使用人たちは、時間帯で男女に分かれて入っているらしく、今のところ問題は起きていない。

「ところで、ブリトニー。君の作った、レモンを使った『コンディショナー』とやらはてきだね。うちも大々的にレモンを植えてみるよ。領地の収入に?がるかもしれない」

 私はに石?や自作のレモン水を置いている。それらは、誰でも使っていいことにしていた。リュゼもそれを使用したらしく、以前にも増して髪がサラサラツヤツヤになっている。

「レモンは割と強い木みたいなので、うちの領地でも問題なく育つかもしれませんね」

となりの領地ではレモンのさいばいさかんみたいだけど、すぐに実のなりそうな木を買うと高いのかなぁ」

「……うーん、安くゆうずうしてもらえるといいのですが」

 私は、隣の領地を治める伯爵子息、元婚約者のリカルドを思い浮かべた。

(彼は協力してくれるかな?)

 リカルドには、「何かあれば他にもらいしたい」と言ったが、婚約破棄できた今となっては、温泉工事だけで片付けられてしまう可能性も高い。

 もとで、私は彼にれんらくを取ってみることにした。




 リカルドとのこうしようは成功した。私がきちんと祖父に話して婚約破棄をとりつけたことを評価してくれたらしい。

 レモンのコンディショナーにきてきたので、今度はライムや梅を使ってコンディショナーを作り始めた。

 とりあえず酸性──クエン酸の多い食べ物を使っている。ライムなどはちゆうぼうにあるものを少しもらった。最近では、厨房で働く使用人たちも、私の奇行に慣れたようだ。

「ブリトニー。隣の領地から、レモンの木が届いたみたいだよ」

 作業部屋でコンディショナーを作っていると、従兄のリュゼがやって来た。

 大量のレモンの木は、かくてき海に近い場所に植えられることになったらしい。ついでに、オリーブの木も少し分けてもらったという。

 リカルドは、思ったよりも太っ腹だった。

らいしゆうあたりに、南部にあるレモン畑を視察に行くのだけれど。ブリトニーも来るかい?」

「行きたいのは山々なのですが、お祖父様が急にお茶会の予定を入れてしまって……ちょうどかぶってしまうのです」

「そうなんだ、残念だね。ブリトニーは、そっちの方が大事だものね」

 どうやら、「お茶会好き」だと誤解されているようだ。不本意なので、言い訳をしておく。

「……お祖父様が、私が使用人の子供たちとばかり仲良くするのを気にしていて。令嬢の友人も作った方がいいと言われたのです。他のご令嬢と仲良くできる自信なんて、ないんですけどね」

 それに、たくさんの菓子が並ぶお茶会なんてデブのもとだ。本当は、とても断りたい……

(でも、すでに招待状を出してしまったお祖父様の顔をつぶすわけにもいかないよね。せめて、ヘルシーな菓子も用意してもらえるよう頼んでおこう)

 気まずくなった私は、話題を変えてみた。

「そうだ、お兄様。私、シャンプーを作ってみたのですが」

「なんだい、それは?」

とうはつを洗う、石?のようなものです」

「なるほど。実は君の作った石?で頭を洗ってみたんだが、髪がきしんでうまく洗えなかったんだ。今度使ってみたいから、温泉に置いてくれるかい?」

りようかいです」

 空き時間に作ったシャンプーは、オイルと精油、蜂蜜を使ったものだ。

 この世界の食べ物は、ほぼ前世と共通である。ただし、うちの領地で採れるものは限られている。

小豆あずきや黒糖、塩などでも代用できるし、採算のとれるものを使えばいいかもしれない)

 リュゼと別れた後、私は自室に戻り、お茶会の日に着るドレスを決めることにした。

 しかし、クローゼットの中をのぞき大変なことを思い出す。

「しまった! ブリトニーの服のしゆは最悪なんだった!」

 クローゼットの中では、おぞましい造形のドレスがひしめき合っていた。

 真っ赤なそでに、むらさきと青のリボン……

 ショッキングピンクのスカートに、緑色のレース……

 ど派手な黄色のコートに、だいだいいろと白の造花……

(終わっている……)

 今まで、よくこんなものを着て人前に出られたものだ。過去の自分を思い出した私は、ベッドにダイブして転がりながらもだえた。

 この自分の黒歴史をしようちようするドレスたちを、なんとかせねばなるまい。

(とはいえ、今から他のドレスを作ってもらうひまはないし)

 言わずもがな、ブリトニーのドレスは特注品だ。一応伯爵令嬢であるし、この体型に合うはんのドレスなんてない。

 私は、目の前が真っ暗になった。

(こうなったら、自分でリメイクするしかないかも)

 幸い、家庭教師に?しゆうなどを習っているので、最低限だが手芸の腕はある。

(どうにもならない部分は、家庭教師の助けを借りるしかないな)

 比較的マシな布地のドレスを選んだ私は、さっそくリメイクを開始した。不要なそうしよくをハサミで切断して取り除いていく。

(急がないと、時間がない)

 選んだドレスの色は、秋の季節に合うモスグリーンだ。しかし、各所に真っ赤なリボンや派手な金色のレースがつけられており、ブリトニーが着ると、まるで異常に幹が太いクリスマスツリーのようになる。

ばつな装飾を取って、地味目のかざりに替えなければ。レースは、黒系にしよう)

 チクチクとさいほうしていると、しようがかりのメイドたちがやって来た。

「お嬢様、お茶会のドレスはどれを……ええと、何をしておられるのですか?」

「ドレスのリメイクです。お茶会で着られそうなものがなかったので」

「そうですか。ちなみに、どのように作り直すおつもりで?」

「リボンを全部外して、レースの色を落ち着いたものに替えるつもりなのですが」

 幸い、そこまで複雑なリメイクではない。手伝ってくれるかなあとあわい期待をいだきつつメイドたちを見たのだが、彼女たちの反応はひどかった。

「あらまあ、そんなめんどうなことをなさらなくても。こちらのドレスでいいじゃありませんか。同じ緑色ですし」

 メイドが手に取ったのは、明るい黄緑色に水色と赤色のバラがちりばめられた、どこの仮装大会だと言いたくなるようなドレスだった。

「……それ、本気で言っています?」

「素敵じゃないですか。お嬢様にお似合いですよ」

 私は、それを嫌味だと判断した。

(腹が立つなぁ。私のような白豚には、変てこなドレスがお似合いだとでも?)

 かつてのブリトニーなら、彼女の言葉をそのまま受け取って喜んでいただろう。今までの私の行いは酷かったが、メイドの態度も酷い。

「わかりました。私は自分のセンスに自信がありませんので、リュゼお兄様にも相談してみましょう。あなたがこのドレスがいいと言っていたけれど、お兄様から見てどうかと」

 とらを借るきつねならぬ、リュゼの威を借る白豚。従兄の名前を持ち出したたん、メイドの顔色が変わった。

(相手によって態度が変わりすぎでしょ!)

 意地悪ブリトニーは、やっていることの割に権威はないのだ。うすうすわかっていたけどね。

「もういいです、衣装係は別の人に頼みますから」

 私は、メイドたちを部屋から追い出そうとして扉を開く。

 すると、扉を開けた先にニコニコと微笑ほほえみながら立っている従兄がいた。

「お、お兄様……?」

「ブリトニー、君にお客様が来ているのだけれど……お取り込み中だったかな?」

 メイドの顔色がさらに悪化している。

 絶対に聞かれていた……! リュゼの威を借る白豚発言も聞かれていたに違いない。最悪だ!

「い、いいえ、特には」

「ふぅん? このドレスの趣味は、ぼくもどうかと思うなあ。君たちはセンスがないみたいだし、ブリトニーの衣装係は他の人間をやとうことにするよ。今まで、ありがとう」

 リュゼは天使のみを浮かべながら、おそろしい決断を下す。

(これは……退職かんこく?)

 メイドに交じって、私もブルブルふるえた。

「君たちは、祖母の持っていた装飾品をいくつかくすねて売っていたみたいだし、もともと暇を出そうかと思っていたんだ」

 なんと、メイドたちは祖母の遺品をどろぼうしていたらしい。

「売った先から足がついたんだよ。他にも数人のメイドが関わっていたみたいだから、彼女たちもかいする。お祖父様も異存はないそうだ」

 さわやかに言いたいことを言いきった従兄は、私の手を取って部屋を出た。

「あ、あの、お兄様……」

「彼女たちの言動は、目に余るよね」

「一度に何人もクビにして、代わりの使用人は集まるでしょうか?」

だいじようだよ。すでに面接も終えてある」

「さすが、仕事が速いデスネ……」

 リュゼを頼ってるような話を聞かれたものの、私にはおとがめなしのようだ……よかった。


 連れて行かれた客室には、げんな表情のオレンジ頭がいた。隣の領主の息子むすこで、元婚約者のリカルドだ。

「お待たせいたしました。ええと、本日はなんのご用でしょうか? リカルド様」

「ああ。今日は、お前に言いたいことがあって来た。お前との取引はそろそろ終わりだ。うちはハークス伯爵家に多額のしやりようはらい、その他のえんじよなどもおこなってきた。お前の趣味に手を貸し、農業にもこうけんした……これ以上の援助はじようだと思うのだが?」

「……ご、ごもっとも」

 とはいえ、お隣さんに助けてもらいたいことは、まだまだある。関係は切りたくない。

 でも、「ここで、取引を打ち切りたい」と言うリカルドの気持ちもわかる。

「では、今後はぶつぶつこうかんするというのはどうでしょう?」

 私は、恐る恐る話を切り出した。

「具体的に、何と何との交換だ? そもそも、お前は領主の間で交換できるような物を持っているのか?」

「ええと、あはは……」

 あるにはある。けれど、リカルドがそれをほつしてくれるかわからない。

 悩んでいると、とうとつに元婚約者が口を開いた。

「今日のお前はくさくないな。それどころか花のようないい匂いがする」

「……温泉で、しっかり体を洗った後だからかと」

 なんだか上から目線だが、評価されたのは嬉しい。それに、温泉の話題が出たので、この後の話を?つなげやすい。

「あの、私のあくしゆうを取り去った画期的な発明品があるのですが。それを差し上げますので、今後も協力していただけませんか?」

「協力内容によるが、その発明品には興味があるな」

「石?というものなのですが……」

 そう答えると、リカルドが目の色を変えた。

「それは、今、王都でっているものではないのか?」

「えっ……?」

 石?が王都で流行しているなんて初耳だ。

(いつの間にか、素人しろうと作品が一人歩きして大変なことになっている……!?)

 こんわくする私に構うことなく、リカルドは続ける。

「そういえば……お前、少し?せたか? 前に会った時よりも、少し顔が小さくなったようだが」

「……そ、そうですか? 体重は少し落ちました」

「何かあったのか?」

「ダイエットをしています。食事内容を変えたり、運動をしたり……」

 リカルドは、「そうか」とつぶやいただけで、特に何かを言ってくる様子はない。

(一体なんだ?)

 しばらくすると、彼は話を打ち切り、「リュゼと話がある」と言って部屋を出て行った。二人で遠乗りに出かけるようだ。

(……うん、やっぱり私も乗馬ができるようになりたいな)

 後で体重をはかると、約七十キロになっていた。

 ここにきて、再びダイエットの効果が現れ始めた。元の体重から、十キロ減。

(まだ、デブの域を出ないけれど。あと三十キロ、頑張ろう!)

 私は気合いを入れ直し、再びダイエットにはげむのだった。


ブリトニーの体重、七十キロ

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