第3話 悪臭対策について本気出して考えてみた
翌日、ハークス
リカルドとの婚約破棄については、約束通り祖父に伝えた。ブリトニーが望むならと、祖父はあっさりと婚約破棄を
リカルド・アスタールは、祖父の友人であるアスタール伯爵の次男で、将来は
ただ、長男が病弱らしく、場合によっては領地を
周囲の話によると、後者の可能性の方が高いらしいが、実際はどう転ぶかわからないとのこと。今になって、婚約者の名前諸々を改めて知るなんて……ブリトニーは、全く
(まあ、ブリトニーは、リュゼお兄様一筋だったしな……)
今となっては、
幼いブリトニーは、両親からの愛情に
日常的に使用人いびりをしている
(今が
数日後、リカルドから温泉のための人員が
三日で源泉
人口池の周りに小屋も建ててもらい、中で
私は、さっそく完成した温泉に入った。デブの体積で大量のお湯が外に
「はぁ~、
しかし、ここで私は気がついた。
(タオルは持ってきたけれど、
そう、この世界には石?というものが存在しないのだ。
お湯だけでブリトニーの
私は、前世の
石?の材料は油と水と
理系寄りの知識だが、
(油と水は手に入るだろうけれど、苛性ソーダって、この世界にあるの!?)
化学的にそれらを生み出す方法なんて、私は知らない。過去に調べた趣味の知識を総動員させる。
(昔々の地中海沿岸部で、
私は、工事に来てくれた人々に海藻を手に入れる方法をそれとなく聞いてみた。
すると、そのうちの一人の青年が、海辺から
彼の実家は海藻も
工事
いつか、この領地の水路が整備されたら、温泉の良さを人々に広めたいと思う。
半月後、無事に石?の材料が
(リュゼお兄様に注意されるかもしれないけれど、今は仕事中だから見つからないはず)
油は厨房で使っているオリーブオイル、海藻はうちの領地のものだ。
厨房の
その間も、私は今まで以上にダイエットに
最初は
婚約破棄はしたものの、リカルドたちとの
それに、最近思い出したのだが……例の少女漫画に、リカルドが
(生存率を上げるためにも、彼とは仲良くしておいた方がよさそう……向こうは
ブリトニーの体重は、一向に落ちない。努力の末、八十キロから七十五キロまで減量に成功したのだが、そこから減ってくれないのである。
あまり激しい運動をすると、デブのブリトニーはすぐに体調を
勉強と運動と入浴を
自分なりに努力をしているが、リカルド以来、
(リュゼお兄様との約束の期限は三年間。まだ時間はあるけれど……不安だな)
こうして、モヤモヤした気持ちだけが積もっていくのだった。
さっそく運動後に、完成した石?を温泉で使用してみる。少し
この石?にはバラの精油を使っているので、温泉全体にフローラルな
前世で「温泉水で
温泉を出て屋敷に戻る
「あれ、ブリトニー。なんだかいい匂いがするね、またマッサージしてもらったの?」
「リュゼお兄様、これは温泉で使った石?の匂いです」
「石??」
「ええと、体の汚れを落とすもので……」
私が石?について説明すると、リュゼが興味を持ったようなので、完成品をいくつかあげた。これが、自分の運命を変えるとも知らずに。
石?を使い始め、ブリトニーの
私は、
温泉を使う使用人はいるものの、その感想を聞けるような仲ではない。温泉内に置いている石?も減っているようだが、使い
散々いじめてきたので、
(ああ、ブリトニーの
私は、過去の記憶を思い起こした。そもそもの
その光景を見て、ブリトニーは思ったのだ。「私は強い……権力で使用人をどうとでもできる」と。
そうして、白豚伯爵令嬢の使用人いじめが始まる。
悪口を言う相手をいちいちクビにしていてはキリがないので、ブリトニーは「使用人とは陰口を言ってくる相手」だと脳内で断定し、それを前提としていじめをするようになった。そのうち、使用人いじめが
今更「ごめんなさい」と
意気
しかし、庭に一歩
「グフゥッ!」
思わず悲鳴をあげて、その場にしゃがみ込む。
すると、庭の向こうからワラワラとたくさんの
「
「うわー、すっげーデブ!」
「痛いの痛いの、飛んでけー!」
口々に私に話しかけるのは、十人ほどの使用人の子供たちだった。
(おい、今デブって言った
ハークス伯爵家の規則は他と比べると
しかし、たまに手伝いをするものの、子供たちは基本的に放置されていた。
私は地面に転がった丸い物体を拾い上げて彼らに
この世界にはボールも存在しないので、代わりに牛や豚の膀胱を取り出して
はしゃぐ子供を見て、私はあることを思いついた。
(使用人は無理でも、その子供たちとなら仲良くなれるかも……)
現在、どう見たって彼らは
(将来の役に立つし、気も
こうして、私の間接的すぎる仲直り作戦が始まった。
私自身の授業まで、一時間ほど
ついてきた子供は、男の子と女の子だ。いずれも、運動が苦手そうな
小さな
彼らは、
「来てくれてありがとう。これから、あなたたちに勉強を教えるブリトニーです。よろしくね」
彼らは文字の読み書きができないし、もちろん簡単な計算もできない。マナーもなっていない。
まずはペンの持ち方と数字や文字の書き方から教えていくことにする。この世界の数字は前世の日本と同じだが、識字率が低いので読めない人間が多い。
どうなるか心配だったが、進んで「勉強を教える」という提案に乗ってきただけあって、彼らは
その日のうちに、二人は簡単な足し算と引き算ができるようになった。
「じゃあ、明日は数字以外の文字の勉強をします。今日覚えたことを忘れないようにね」
先生らしく授業を
歴史と
刺?の授業も、なんとか作品らしいものが出来上がり始めたところである。
ダンスと詩と音楽だけは、
(
こればかりは、才能の問題もあるので仕方がないと思っている。
授業の後、時間があるので自分のニキビ顔について考えてみた。
デブはニキビができやすく、
だが、この大量の脂質と糖質というのが
さらに、脂質や糖質をとりすぎると、体内にも良くない
過去のブリトニーの食事はバランスが悪く、
(
食事の改善以外にも、ニキビ対策などが必要だ。
とはいえ、ニキビ用の
(そういえば、前世のアルバイト先で、レモン水がニキビにいいと聞いたことがあったかも。仕方ない……毎日レモン水を飲んでみよう)
レモンは少し割高だが、
それから、同じ材料でコンディショナーも作ってみた。お湯を張ったたらいの中にレモン
今までブリトニーの髪は、無理やりブラッシングをした後で油を
この世界では髪を洗う
(シャンプーも作りたいな……)
私は、前世の趣味を思い出しながら夕食の席へと向かうのだった。
ダイニングの
この従兄は基本的にいつもいい匂いがするのだが、
私がクンクンと匂いを
「ブリトニーの作った石?を使ってみたんだよ。これはいいね」
手放しに
この従兄は、何を考えているのかわからないので少し
けれど、自分のしたことが評価されるのは
「せっかくだから、王都にいる友人にも送ってみたよ」
「ブフィーッ! ゲホゲホッ!」
続いた言葉に、思わず口に
リュゼの言う王都の友人とは、たぶん以前言っていた王太子のことだ。王都にある王族・貴族用の学園で知り合った彼らは、結構仲のいい
「な、なんで、そんな人に私の手作り石?なんぞを渡しているんですかー!」
声を
「驚くほど汚れが落ちるし、いい匂いがする
「えっ……?」
「ブリトニー、あれはすごい発明なんだよ? 入浴で使うだけでなく、衛生面が重要視される
「そ、そうですね……馬に乗って出かけた際に、そんなお話をしましたね。病気の予防にも手洗いは大事だと思います」
自分の悪臭対策のために作った石?だが、ものすごく大ごとになってきたような。
(正直言って、
「ところで、石?はもうないの?」
「あと少しです。もともと自分用に作っただけなので。材料にも限りがありますし」
「何を使っているの?」
「うちの領地で採れる海藻の灰汁と、お隣の領地で取れるオリーブオイルと、やはりお隣の領地で取れるバラの精油ですね」
「隣の特産品が要るのか。君とリカルドの婚約破棄が
「も、申し訳ないです。私が
リュゼの言いたいことはなんとなくわかる。
私と彼との婚約が成立していれば、材料を格安で購入できるなど、
「ですが、オリーブオイルは、この領地で取れるグレープシードオイルに変えても大丈夫ですよ」
グレープシードオイルは、その名の通りぶどうの種から採れる油だ。
「では……材料は極力、うちの領地のものを使うように。量産できるといいのだけれど」
なんだか、大変なことになってしまった。
「では、レシピを書いておきますね。グレープシードオイルの石?は、明日にでも作ってみます」
「ああ、ありがとう。ぜひ
かくして、ハークス伯爵領では、大々的に石?が生産されるようになったのだった。
それからの私は、空き時間に石?の生産に精を出すことになった。生産というよりは、研究といった方がしっくりくるかもしれない。成功したものはレシピに残してリュゼに渡し、さらに新しいレシピを
石?を作りながら、子供たちに勉強を教えるのが日課になり、その残りの空き時間をダイエットに当ててランニングなどしている。自身の勉強もあるので時間が足りず、毎日クタクタだ。
でも、リュゼに期待されているので下手なことはできない。適当なことをして彼を
そんなことを考えていると、従兄がやって来る。
「ブリトニー、新しい石?の出来はどうかな?」
「
「うん、そのあたりは
不意にリュゼの手が私の方に
「最近の君の髪は、
「……!」
驚きで体を
(イケメンは得だな。不覚にも、ちょっと、ドキドキしてしまったし)
以前のブリトニーなら、喜びのあまり白目をむいて失神していただろう。
気を取り直して、私は自作コンディショナーの説明をした。コンディショナーと言っていいのか
「この髪は、コンディショナー──レモンの汁を使っているんです。温泉へ行って髪を洗う際に使用しています」
「そうだったの。庭に作った温泉は使用人たちにも好評みたいだね。僕も使わせてもらっていいかな?」
「もちろんです。夜は使用人が利用するので、私はそれ以外の時間に使っていますよ」
「では、僕もそうしよう。レモンも荒れ地で育つから、うちの領地にたくさん植えられるかもしれないね。寒さには強くないみたいだから、領地の南側に植えるのが適しているかもしれない」
「そうですね……」
リュゼはハークス伯爵領に水路を作りたいと言っていたが、資金が足りなくて実行に移せずにいる。
なんとかして、この領地を豊かにしたいという思いは、私も一緒だ。
ブリトニーの体重、七十五キロ
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