第2話 灯火



「静まりなさい! 我が国民達!!」

その声が地の底に響いたのは半年ほど前のこと。愛らしい、だが耳を傾けざるを得ない声は広場に集められた人々の目をステージに向けさせた。

「わたしはスキアー。スキアー・オートマイン。この国の女王であり支配者であるバルドル・オートマインの片割れであり、今日この時からあなた達の仲間です!!!」

仲間という宣言に広場はざわめいた。自身たちを蔑み、この地下に追いやった人々の王であるバルドルの片割れという言葉は、人々を簡単に怒らせることが出来た。

ここは偶像の国の地下。偶像の国に必要でないと判断されたものたちが送られる地下の国、ロータウン。ここでは全てのことが許された。犯罪、裏切り、強奪、強姦、殺し、人攫い、その全てが許された。何故ならそれらを縛る法律がないからだ。何故ならそれらを罰する統率者がいないからだ。ロータウンに王はいない。ただ、捨てられた国民たちがひしめき合い恨み妬みを吐き続ける地獄であった。

「てめぇらのせいで俺は家族も、恋人も失ったんだ!!」

「わたしの未来は!?わたしの将来をうばっておいて、よくも」

「死んじまえ!!ころしてやる!!!」

「殺してやる!!!殺してやる!!!!!」

広場に集まった人々は自身たちが受けてきた屈辱を怒りに変えて幼いスキアーに投げつける。普通の少女なら涙を零し逃げてしまうだろう怒りを、言葉を叫んだ。


「静かになさい!!!!!!」


だが、スキアーはそんなことでめげやしない。泣きもしないし逃げたりもしない。彼女はマイクに向かって怒った。音割れした高い音が辺りに響き渡る。

「分かっていますとも!!!ええ、だってわたしはバルドルの隣にいましたから。全て見てきたわよ、でもね、あの子にはここは救えない」

スキアーは少し下を向き呼吸を整え静かにしかし勇ましく人々に語りかける。

「バルドルではこの暗い地下の世界を照らすことはできないわ。どれだけあの子が輝こうとも、あなた達に光を分け与えることが出来ないのなら意味が無いのだから、あなた達が光を持たなくてはこの地下を照らすことは出来ないよの。でもわたしにならできる。わたしなら、あなた達に光を分け与える灯火になれる」

スキアーは広場のステージで輝いていた。それはまるで、夜の空に光り輝く星のように

「改めて、わたしはスキアー。ロータウンの灯火になるべく、玉座の1番傍から飛び降りた者」

わっ!と、広場から熱気が溢れた。それは先程の怒りとは違い今まで見たことのなかった未来への叫びだった。国から捨てられ、友から、親から、恋人から捨てられた人々はここに来て初めて未来を夢みた。明るく幸せな未来を夢見たのだ。

「よろしく、お願いね」

ステージの星は年相応の少女の笑顔を見せた。ふわりと揺れる夜色の髪に星のような金の瞳。まだ10程の年頃の少女は地下に咲いた星光のようだった。

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