第39話 陽和の記憶障害
武蔵野病院に、慶一道の車が
滑るように、入って来た。
第一駐車場に車を止めて
陽和が出て来るのを
ストーカーの如く待った。
ストーカーも時間をやりくりして
待つのか、何度かストーカーに
付け狙われた事があるが、
今自分が全く同じ事をしているとは、情けないやら、悲しいやら・・・
フゥ~っと背もたれに持たれ
陽和にはこんなに疲れさせられるのに、それでも頑張る自分が痛々しい。
惚れた弱みとは言え健気な俺。
1時間くらい待ったが陽和は来ない。
会社からバンバン電話がかかる、
タイムリミットかと
エンジンをかけると陽和が
ノコノコと白いモフモフのコートを来て出てきた。
〃陽和〃 〃陽和〃〃
声をかけると、パッとこっちを見たが避けるように早足になる。
暫く後を着いて行くと
ピタッと止まり
「えっと?何か御用ですか?」
慶一道は駆け寄り陽和に向かって、
頭を下げた。
「ごめん陽和、ひどい事をした、ちゃ んと 謝りたかった。ごめん。」
「えっと、本当に初めて会うんですけど、どなたでしたっけ?」
以前と変わらない可愛らしい目を
ギョロっとさせ、
怪しい者を見るようにじーっと見た。
「え、」
陽和は、驚いた慶一道にまたまた
不信感を募らせて・・・
「え・・・?って‼」
と呟いた。
「慶一道だよ。何で!忘れたの?」
「慶一道・・・貴方が・・・慶一道?」
意味不明な呪文のように陽和が呟く。
思い出したかのように
彼女は付け足した。
「あ、名前は知ってますよ。
だけど、貴方と面識がないんです。
慶一道さんの存在は分かります。
あなたが、慶一道と仰るんです
か?」
「し、失礼します。」
陽和は首を傾げながら、
チャリ置き場に走っていった。
カフェで再開した陽和を思い出した。
然しあの時とは事情が違う。
陽和の態度は、本当に不思議な顔を
見せていた。
「だれ?誰、恐いんだけど・・・。」
〃穂花﹏慶一道って名乗る男が出没
まだ病院いるなら見に来てー
今チャリ置き場。〃
蒼太と約束があった穂花は
まだ病院にいた。
急いで外に出た病院の門の入口近くの駐車場に慶一道の姿を見つけた。
穂花は慶一道に駆け寄り
「今陽和と会いましたか?」
「うん・・・会った。
誰って言われたよ。嫌われたもん
だ。」
彼は笑顔をひきつつて、
蒼白になり答えた。
「陽和は、本当に慶一道さんの顔
忘れてるみたいです。」
「え、・・・・・・・・・・・・」
それから彼を連れていき、
チャリ置き場でビビりながら
立ち尽くす陽和に、彼が慶一道で
あることを確認させたが
陽和は知らないって言う。
それは嫌がらせでも無く
本心からのようだった。
免許証を見せ、名刺も見せても
首をひねる。
陽和に免許証を見せたのは2回目。
最初に出会った時なのに
彼が、雅楽代慶一道であると穂花の
証明があってやっと信用した。
急いで、脳神経内科の先生に
相談したら軽い
心因性記憶障害では無いかといわれた。
心因性記憶障害は
極度のストレスにより
特定の人物や過去をわすれてしまうが、全てわすれてしまう事はなく、
生活に支障はない。
しかし陽和は自分に起きた事全てを
忘れていない。
しっかり覚えている。然し慶一道の
顔、姿形それを全部思い出せない。
一緒に診察室に入った、
慶一道は全て陽和に話、
許しをこうのだが陽和は、
全て忘れておらずしっかり覚えている、と慶一道にもしっかり話した。
でも、何故か慶一道の顔を忘れてしまっている。
思い出そうとしても顔だけ出てこない。
白いモヤがかかり見えそうで見えない彼の顔
「だから、貴方が彼か分からないの。すみません。」
そんな他人行儀な態度をとられたら、あの日の事が後悔されて仕方がない。
慶一道はそれだけ
ひどい事をしたのだと
後悔した。
全てをかけて、
一生かけて償うと言うが
「あなたを忘れたのはラッキーとしか思えません。
あなたも、良かったと言って下さ
い。
これ以上の意味は無いと
おもいませんか?
貴方は貴方の生き方を存分にされて、良いとおもいます。」
冷たい言い方でも無く、
普通の初対面の相手との会話、
親しみもなく淡々と話かける姿は
少し寂しさを感じさせる。
陽和は最初抱いた不快感は無く、
笑顔が戻った。
大丈夫と答える陽和を、
無理やり家まで送る途中、
母親がオーキッドの部長であることを慶一道に告げるが、
慶一道は誕生日の流れで、
偶然知ってしまったと話した。
「隠しててごめんなさい。」
「いや、気にしなくていい。
部長に合って謝るよ。君をこんなふ
うに傷つけてしまった事、
あやまらな きゃ な‼」
「あ‼待って‼ 話さないで‼
母には心配かけたくないの!貴方の
事私がこんなふうになったと言って
も、貴方の顔が一致しないだけなん
だ から、なんでも無いわ。
貴方の顔以外は全て覚えてるの、
大丈夫。
辛い気持ちが薄まっただけよ。
だから、貴方とは初対面感しか無い
し正直、感情が、なんて言ったらいいのか、 分からない。
今日会った人に好きとか愛してるとか
分からない。」
ウルウルとした目を見ると慶一道は
何も言えなかった。
純粋で、こんなに可愛らしい陽和を
自分は簡単に裏切ってしまった。
一時の感情で・・・
「でも‼ 良かった。」
陽和は、アッケラカンとニッコリ
俺を見ながらそう言った。
「良かった・・・って?」
不思議そうに慶一道は陽和を見ながら呟いた。
陽和はニコッと笑うと
「だって、ジオンさんと貴方のお付き 合い本当に、応援出来るもの。
遠恋でしょうけど、頑張って下さ
い。」
「あ、いや、ちが違う、彼女とは
そんな関係じゃない?」
「ん?違うった。だって、そういう事 したん でしょ。」
「あ、ああ、あの、ちが、いや、違わ
ないけど、彼女も、遊びだし、俺
も・・・」
イライラしてきた陽和は、
モゴモゴ言う慶一道に向かって
「違わない?違う?どっちなんで
す?」
と問い詰めた。
好きの感情があった時は
こんな事出来なかった、
ウジウジ悩んでいたのだろう。
しかし今の陽和は違う。
ズバリ聞ける。「どっち?」
「う、うん、違う、したけど違う。」
「したんだーいゃらしー
恋人ならそうだけど・・あそび?
あ、
ここでいいです。母親に話した
らもう二度と会いませんから。
本気ですから・・・。」
ギロリと睨み付ける顔は部長が
不機嫌な時の顔そっくりだ
部長がこんな顔した時は小さくなる俺‼
「分かりました。」
としか、言えなくなった。
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