第37話 ファン登場!?

 新学期早々から、担任の先生にUTubeに動画を投稿をしている件がバレてしまい、【D-$】の活躍が出来なくなってしまい、私達【D-$】は現在、解散の危機に立たされていた。


 そんな新学期早々の出来事から数日……


 あの新学期の日以来、女月は同じクラスにも関わらず、私とは全く話をしようとはしない日々が続いていた。それどころか、女月は私から避けようとしている様にも感じる。また、女月だけでなく、新学期の出来事以来、私は紗美と詩鈴ともまともに話をしていない。その為、もちろん、【D-$】の動画撮影の打ち合わせなんて行ってすらいない。ホント、【D-$】はこのまま解散の道を辿るだけなのかしら? なんか、今までの苦労が一瞬にして消えて行きそうな気がしてきた。


 それは、【D-$】というUTubeに動画を投稿するグループだけでなく、今まで一緒に活動をしてきた友達まで、私の前から消えて行きそうな気がしてならない。新学期に言われた、沢谷先生によるたった一言により、本当にあっけなく終わりを迎えてしまうのか? 私は1人寂しく歩く登校中の道のりで、そう考えていた。





 そして、ここ最近は休憩時間も【D-$】のメンバーである、女月や紗美や詩鈴と一緒に過ごす事はなく、1人で過ごしている事が多くなった。女月は私の事を避けているから別として、紗美と詩鈴に関してはクラスも違い、自分から話しかけに行っていないだけである。話しかければ、今までの様に普通に話が出来るかも知れないけど……


 どうも、今の私にとっては、その勇気がなかった。なぜなら、【D-$】のUTube活動が出来なくなった以上、私との関係もなくなってしまい、私は既に友達でもなんでもなく、無関係な人でしかない様な気がしてしまったからだ。


 最も私がUTubeを使ってアイドル活動を始めなかったら、出会う事がなかったかも知れないからだ。そう思うと、なぜか無性に自分から話しかける事が出来なくなってしまった。


 私はそう考えながら、アイドル活動を始める以前の様に、自分の席に座りながら、ボ~と窓の向こう側を眺めていた。


 そんな感じで、この日の休憩時間をなんとなく過ごしていた時、どこからか、私に話しかけている様な声が聞こえた。


 始めはボ~としていたせいで、うっかり聞き逃したが、その声は完全に私のすぐ近くから聞こえて来ていた。


「ねぇ、坂畑さん」


「えっ、何?」


 私は少し驚いた様子でその声がする方を振り向くと、そこには3人の女の子がいた。1人目は茶髪のボブ、2人目は少し暗めの茶髪のポニーテール、3人目は黒のショートヘアーであり、3人とも身長は、私や女月とそんなに変わらない身長であった。そして、その3人はいずれも、私とは別のクラスの人達である。


 別のクラスの人達が、私に一体何の用?


「この動画の人って、坂畑さんだよね!?」


 その話しかけに来た茶髪ボブの女の子は、スマホの画面を私に見せつけに来た。そこに映し出されていたのは、私が出ている【D-$】の動画であった。


「あぁ、確かに私だけど」


「やっぱり、そうだったのね!!」


「凄いじゃないの、坂畑さん」


「そんなに凄いかな?」


「そりゃあ、凄いに決まってるよ。まるで本当のアイドルの様に歌って踊っている動画を出しているんだから」


「そう。それはありがとう」


 その女の子達は、私が出ている【D-$】の動画を見て、本物の私に会いに来た様である。本来ならば、ここは大喜びをするところなのだが、どうも今の私にはそんな気分が出なかった。


 その理由に関しては、担任の先生にUTubeに動画を投稿していた件がバレてしまい、もう今までの様にUTubeでのアイドル活動が出来ないと思っていたからである。

ホント、私に会いに来るのが遅かったよ…… もう少し早ければ、私は喜んで歓迎をしたのに……


 そう考えている内に、次は少し暗めの茶髪ポニーテールの女の子が、私に話しかけに来た。


「それにしても、朝芽さんって、意外と歌が上手いよね」


「そうね。私達は朝芽さんと同じクラスだけど、メガネを外し髪を解いた姿は、ホント、別人のように美人になるわね」


「あぁ、詩鈴がそのスタイルで動画撮影をしているのは、私の案なんだ。実は」


「そうだったんだ」


「坂畑さんって、意外と人を見る目があるね」


「えへへ…… そうかな?」


 私は少々照れ隠しをしながら笑った。


 私が笑っていた時、今度は黒のショットヘアーの女の子が、私に話しかけに来た。


「そう言えば、このダンスも凄いわよね」


「あぁ、このダンスはね。女月ちゃんが考えているんだよ」


「そうなんだ。女月って、あの尾神さんだよね?」


「そうだよ」


「へ~ 尾神さんって意外とダンスとか得意なんだね」


「そうなんだよ。女月ちゃんはああ見えて、体を動かすのが好きなんだよ」


 私は先程よりも元気な気分で話を始めた。


 なぜだろう? 【D-$】の話を始めた途端、無性に元気が出てきた。そんな感じで、私は私の動画を見に来て会いに来てくれた女の子3人組と一緒に話を続けた。


「あとね、この動画の撮影に使っているカメラは、紗美さんのカメラなんだ」


「そうなの!? なんかいいカメラだね」


「そうでしょ。確か、紗美さんは、このカメラの値段が、50万円とか言っていたよ」


「ごっ、五十万!!」


「凄い高いカメラだね」


「そうでしょ。なんせ、紗美さんの言えは、凄く金持ちみたいで、高価なカメラをたくさん持っているみたいなんだよ」


「なるほど、だから映像も綺麗なんだね」


 そして、私が紗美のカメラで動画投稿を行っている事を伝えると、3人組の女の子達は、一斉にスマホの動画を再確認し始めた。


 その後も、3人組の女の子達は、私の席の前で私を含む【D-$】の動画を見ては楽しんでいた。


「ねぇねぇ、この歌って、坂畑さん達が作ったの?」


「あぁ、この時の歌ね。これは私達のオリジナルソングだよ」


「やっぱり、オリジナルだったんだ!! 凄い! 自分達で歌とかも作っているんだ!!」


「まぁ、一応ね」


 そんな中、3人組の女の子の1人、茶髪ボブの子が夏休み中に【D-$】初のオリジナルソングを歌った時の動画を見始め、聞きなれないこの歌に関し、オリジナルソングかどうかを聞いてきた。


 その動画と言うのが、私を含む【D-$】のメンバーが、露出度のあるレオタード衣装で踊っていた時の動画である。動画を撮っていた時も恥ずかしかったヤツだっただけに、今、改めてこうして他人に見られていると思うと、無性に恥ずかしくなる。そんなレオタードの衣装も、女月だけは気に入っていたな……


「そう言えば、この動画は、歌を歌うヤツではなくて、どこかの山を探検しているヤツだね」


「これは、夏休みの時に、みんなで合宿に行った時に撮ったヤツだ」


「へ~ 合宿とかしていたんだ。なんだか楽しそうね」


「うん、意外と楽しかったよ」


 その次に少し暗めの茶髪ポニーテールの女の子が、今度は夏休みの時の合宿の時の動画を見て、私に話しかけに来た。


「それよりも、この時の動画だけ、歌を歌っていないね」


「あぁ、それに関しては、先程のオリジナルソングを作る時の為に、穴埋めで入れたヤツだからね」


「なるほど、だから歌を歌っていない動画もあるのね」


 そう言えば、夏休みにみんなで山へ合宿に行ったけっな~ あの時は、紗美がレポーターを気取っていたりとかしてたな~


「あっ、これって、この間の夏祭りの時のヤツだよね」


「うん、そうだよ」


「そう言えば、この夏祭りのカラオケ大会、私達も見ていたんだよ」


「そうなんだ」


 その後、黒髪ショートヘアーの女の子が、今度は先日の夏祭りのカラオケ大会の時の動画を見て、話しかけに来た。


「にしても凄いよね。たくさんの人が見ている中で、こうして緊張をする様子もなく歌を歌ったりするんだから」


「そんな事ないよ。この時は凄く緊張をしたんだよ」


「やっぱり、緊張はするんだね」


「そりゃあ、するよ」


 そう言えば、あの日は逃げ出したくなるぐらいの緊張がしたっけな…… 最も、私以上に、詩鈴の方が緊張をしていたけど……


 そんな感じで、私に会いに来てくれた女の子3人組と一緒に話をしている間に、【D-$】として活動をしていた短い期間の思い出が、次々と蘇ってきた。


 せっかく、ファンらしき人達も出て来たし、これからが活躍時だと言うのに…… 沢谷先生の一言で活動が出来ずになってしまい、事実上の【D-$】は解散の危機となった。本当に、このまま【D-$】は、消えてなくなるの?


「ねぇ、坂畑さん?」


「はっ、はい!?」


「こんな事は聞くのは失礼かも知れないけど、次の動画はいつ始まるの?」


 そんな中、私は再びボ~と今までの【D-$】の思い出を振り返っていた時、3人組の女の子の1人、茶髪ボブの子が、次の動画の公開日について聞いてきた。 


 楽しみにしている中、悪いけど…… 次の動画は、もう、ないんだよ…… うん、ないんだよ……


 ないっ!? 本当にそれでいいの? 私の本当の気持ちは、いや!! 絶対に、【D-$】はここで終わりにはさせたくない!! なぜなら、今、目の前には3人しかいないけど、間違いなくファンの人達がいる。そして、何よりも、短い期間ながらともに苦労をしてきた【D-$】とのメンバーとの友達関係を、こんな形で終わらせたくない!! 私は、そう強く思い込んだ。


「こらっ、それを聞くのは失礼でしょ。ファンなら楽しみに待ちましょ!!」


「えへへ、そうだったね」


 私が【D-$】を終わらせたくないと思っていた時、3人の女の子の黒髪ショートヘアーの女の子が公開日を聞くのは失礼と、茶髪ボブの女の子に注意をしていた。





 そして、チャイムが鳴り、休憩時間が終わると共に、ファンらしき3人の女の子達が、自分達の教室に戻ろうとして、私の元から離れて行こうとした。


「じゃあ、またね」


「今度も、【D-$】の話を色々と聞かせてね」


「これからも頑張ってね!!」


 3人の女の子達は、私に手を振りながら、教室を出て行こうとした。その時、私は3人の女の子に向かって、一言叫んだ。


「絶対、次の動画を近い内に作るから、楽しみに待っていてね!!」


「うん、分かった。楽しみ待っているよ」


 そして、3人の女の子達は、ニコッとした表情で、教室を後にした。


 この日の休憩時間、ファンらしき3人の女の子達と話をして、私はある事を思った。もう、【D-$】は、私達だけのものではない!! 【D-$】を応援してくれるファンがいるじゃないの!!


 そう、私は【D-$】を止める事なく、続けるぞ!! という気持ちに切り替わり、再び以前の様に前向きな性格が戻ってきた。

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