第36話 解散の危機!?

 職員室を出た私達は、話をやる為、とりあえず外のベンチのある場所と向かった。


 しかし、さっきの沢谷先生のあの発言には、ホント頭に来てしまう……確かに、UTubeを利用している人の中には、少しでも多くの再生回数を稼ごうとしている人の中には、法に触れる犯罪動画をアップしている人達がいるけど、何も、私達【D-$】を、あんな不法者と一緒にしないでほしいわ。


 そして、日陰のベンチへと座った私達は、先程の怒りが収まりきらない中、とりあえず話をすることにした。


「にしても、新学期早々、あんな事になるとは思ってもいなかったね」


「そうですわね。まさか、先生もUTubeを見ていた事が、驚きですわ」


「やっぱり、先生はあんなところまで、生徒達の行動を監視しているのかな?」


「どうでしょうね? もしかしたら、誰かが、告げ口をしたのかも知れないわよ」


 女月の発言から、私は告げ口をやりそうなヤツがこの学校内にいた事を思い出し、久々にアイツの顔が脳裏に浮かんだ。


「告げ口!! という事は、やっぱり、あの山田か!?」


「やっ、山田さんなら…… たっ、確かに告げ口をやりそうですけれども……」


 詩鈴も言っている事だし、どうやらビンゴの様だ。


「そうでしょ。やっぱり、先生に告げ口をした犯人は、山田だよ!!」


 更に女月までもが、山田が犯人ではないかと思っていた様である。


「ちょっと待って!! UTubeにアップされている動画なんて、全世界の人がいつでも見る事が出来るのですわよ!!」


「今更、どうしたんだよ!? 紗美さん」


「ですから、先生に告げ口をした犯人が山田さんとは限らないという事ですわ」


 そんな中、紗美だけは私と女月と詩鈴とは異なり、一端に山田を沢谷先生に告げ口をした犯人とは決めようとはしなかった。これは、まさか…… 紗美は、私達【D-$】よりも、山田を選ぶつもりなの?


「紗美さんは、あの山田の事をかばう気!!」


「そんなつもりではないですけれども、わたくしが言いたいのは、誰も告げ口をしていないという可能性もあるという事ですわ」


「誰も告げ口をしていない……」


 紗美が山田を犯人とは決めつけなかった理由は、私達【D-$】よりも山田を選んだわけではなく、告げ口をした人間がいないという推理をしたからである。とりあえず、紗美が裏切り者でなくて一安心。


「確かに、その可能性も充分にありそうね……」


「UTubeの、どっ、動画は、せっ、世界中の人が自由に見ることが、出来ますし……」


「そうでしょ。だから、今回の件に関しましても、山田さんを始めとする誰かが、先生に告げ口をしたとは、一旦には言えないのよ」


「なるほど…… 確かに、紗美さんの言う事には一理があるわね」


「ですから、今回の件に関しては、犯人探しをやる事は無駄な行為でしかないのよ」


 確かに紗見の言う事が本当であるのなら、犯人探しをやる事自体が無謀な行為でしかない。最も、Utubeの動画なんて全世界に配信されているワケだし、山田が沢谷先生に告げ口をした犯人だなんて保証は100%ではない。という事は、私達のアップしてきた動画を沢谷先生が知る事が出来たのって……


「そうかも知れないね…… 今まで私達がUTubeを利用してきたにも関わらず、全く気が付かなかった事だけれども、少しずつ動画の再生回数が上がれば、その数だけ有名になる」


「そして、有名になればなるほど、今まで以上に知名度は上がる」


「そっ、そうすれば、まっ、間違いなく…… UTubeに動画をアップする前よりも有名になるのは、ほぼ必須」


「その結果、わたくし達【D-$】の動画は、始めよりも検索ワードの上位に上がりやすくなるわ」


「つまり…… 先生が私達【D-$】の動画を知ったのは、誰かの告げ口を聞いたからではなく、先生がたまたまUTubeを見ていた時に、私達【D-$】の動画を見てしまったという事も考えられるわ」


 そして私は、沢谷先生が私達【D-$】の動画を知った最も確率のある理由を言った。


「まっ、まさか…… 私達が投稿する動画なんて、UTubeの中にある、星の数ほどの動画に比べたら、まだまだ目立たない方だよ……」


「確かに、【D-$】の動画はまだまだ目立っていない方ですけれども、わたくし達の活躍を大きく目立たせることの出来る動画の投稿があったじゃない!!」


 私は沢谷先生が【D-$】の動画を知った理由を言った後、詩鈴は驚いた様子でいたが、紗美はすぐに先生にバレたと思えるきっかけの動画があった事に気づいた。


「そんな動画って、何かあったかしら?」


「わっ、わたしも、検討が付きませんわ」


「あの動画って、夏祭りのカラオケ大会!!」


「そう、その時の動画よ。この街の夏祭りで行われるカラオケ大会での動画を検索すれば、【D-$】の動画なんて、すぐに出てきますわ。おそらく、先生は先日の夏祭りの動画を見ている時に、わたくし達【D-$】の動画を見つけたのでしょう」


「なるほど、それなら充分に誰もが告げ口をせずに、先生は私達がUTubeに動画をアップしていたという事が分かるね」


 やはり私の予想と同じく、紗美もまた先日の夏祭りの件の動画の事を言った。


 沢谷先生が、私達【D-$】の動画を知った理由は分かったのだが、もう一つ気になる事があった。それは……


「だからと言って、なんで、先生は私達がUTubeに動画をアップしただけで、学校に対する迷惑とか言ったんだろね? 私達が有名になればなるほど、この学校の知名度も上がって、新入生も今までよりも増えると思うのに」


「たっ、確かに、それは言えているかも知れません。わっ、わたし達がUTubeで有名になればなるほど、わたし達の学校も有名になりますし、がっ、学校にとっても、わたし達にとっても、良い面だけだと思うのですけどね」


「やっぱり、詩鈴もそう思うでしょ」


「はっ、はい」


「でも、有名になる事は、良い事ばかりではないのよ。先程先生が言っていたけど、有名になればなるほど、たくさんのファンが出来るけど、その逆に見知らぬ人に狙われる可能性もあるのよ」


「それって、私達の問題じゃない。そういう事は、私達が気を付けていればいい事じゃないの?」


「なにも、そうとは限らないみたいよ」


「どういう事?」


「私達が何かで事件に巻き込まれたとしたら、皮肉にも先生達は、学校のイメージそのものが悪くなると思っているところがあるみたいなのよ」


「全く、身勝手な先生だな!!」


 部活動じゃないだけで、この扱いは、なんて不幸なの!! くぅ~ 沢谷先生には頭に来る!!


 そんな中、女月が何かを思い秘めた事があるかの様な表情で、喋り始めた。


「そう考えると、初めの頃の様に、ずっとマスクを着けてやっていた方がよかったかも知れないね」


 女月はアイドル活動を始めた頃にやっていたスタイルである、マスクを装着しての動画投稿の方がよかったと、今になって言い出し始めた。


「何を言っているんだよ、女月ちゃん!! それだとアイドルではなく、他の歌い手達と一緒じゃないの!!」


「元々、マスクを外して動画を投稿しようって言い出したのは、麻子でしょ」


「そりゃあ言うさ。いつか有名になるのなら、顔を隠したままでは絶対に駄目だから」


 確かに、マスクを外しての投稿に切り替えたのは、私である。でも、マスクを外す様にと案を出したのは、紗美なんだけどね。だったら原因は紗美なのか!?


 これに関しては、最終的にマスクを外す様にと決めた私が、最大の原因だろな……どのみち、少しでも有名になろうと思うのであるのなら、いつまでもマスクを着けていてはダメだと思ったからだ。それ以上に、素顔すら見せれないというのでは、アイドルどころかプロ失格と思ってしまったからである。


「麻子のそんな考えの結果が、今回のような事態を招いたのでしょ!!」


「なにを言うか。先生にバレたのは確かに私の計算外ではあるけどさ……」


 まぁ、女月の言うとおり、ずっとマスクを装着した状態なら、今回も先生にはバレる事はなかったかも知れない。最も、いつまでもマスクを着けたままだと、どこにでもいる歌い手と一緒であって、全然アイドルらしくないのが、どうも気に入らないのだけど……


 そう思っていた矢先、突然、女月は怒り出した様子となった。


「確かに、麻子はいっつもいっつも後先を考えずに、計算外ばかりをやっているわね。最も、先がどうなるかって計算すらしていないんじゃないの?」


「失礼な!! 私は、いつも後先を考えて行動しているよ!!」


「じゃあ、なんで、先生に正直に言ったりしたのよ!?」


「そんなのは、今言わなくても、いつかは、絶対にバレるじゃないの!!」


「だからって、あの時言う事はなかったじゃないの!!」


「だって、正直に言ったら、先生も許してくれると思ったし、何よりも…… UTubeでのアイドル活動がもっと有利になると思って……」


「バカッ!!」


 すると怒っていた様子の女月は、突然、私の頬に強烈なビンタをしてきた。


「イダッ!!」


 女月に強烈なビンタをされ、頬を両手で押さえている私の様子を、詩鈴と紗美は、突然の出来事の為に、驚きながら呆然と立ちすくんでいた。


 その後、女月は怒りのあまり荒々しい感じの喋り口調で、私の方を見ながら喋り始めた。


「私達と相談をせずに、麻子が勝手に決めた判断で、私や桜森さんや朝芽さんまで、UTubeでのアイドル活動が出来なくなったじゃないの!! どうしてくれるのよ」


 今回の件に関しては、全て私のせいとでも言うの!? っと、いつもの私なら、女月に対してこう言い返していたと思う。


 しかし、女月に強烈なビンタをされた直後であった為、私はこれ以上喋ろうとすると、なぜか涙が出てくる為、あまり強く言い返す事は出来なかった。それどころか、今回の件に関しては、全て自分が原因で招いてしまった不運であると、自分に罪を着せてしまった。


「そっ、それに関しては、ゴメン……」


「ゴメンで、済まないわよ!! 麻子の身勝手な判断が、【D-$】を壊滅させたのよ!!」


 私は女月にビンタをされた頬を抑えながら、目に涙を浮かべそうな表情で言ったが、女月は許してはくれなかった。それどころか、女月は怒った様子で、私達の前から姿を消すように、走り去って行った。まるで、【D-$】から逃げ出すかのように……

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