第31話 選択は難しい

 先程に続き、今も女月の部屋で次の動画の投稿用の曲について話し合っていた。


「次は曲に関してなんだけど、どんな感じの曲にしようかな?」


 私は次の投稿用の曲について、どんな感じの曲がいいか、意見を聞いてみる事にした。


「そうねぇ…… 夏だったら、やっぱり夏っぽい曲が良いわね~」


「確かに、それは良いですね。その方が今の季節にピッタリですし」


「夏と言えば…… 海・山と言ったところかな?」


「そうそう。やっぱり夏と言えば、海や山よね」


「海や山と言えば…… つい先日に、合宿という形で訪れましたわね」


「あぁ、そっ、そう言えば、行きましたよね。皆さんで」


「じゃあさ、次の歌は、海や山をイメージしたような歌にしたらいいんじゃないかな?」


 私は皆の意見を聞いた後、次の投稿用の曲は、今の季節の夏にピッタリな場所である、山か海をテーマにした歌を作ろうかと考えた。


「まぁ、私はそれでいいと思うわよ」


「わたくしも、それが良いと思いますわ」


「わっ、わたしも、それでいいと思います……」


「じゃあ、決定だね。次の投稿用の曲は、夏をイメージした山か海かで」


 今回はあっさりと次の投稿用の歌のジャンルが決まった。しかし、決まったからと言って、ここで今回の話は終わりではない。なぜなら、歌うジャンルが山か海かのどちらかしか決めていないからである。


 その為、ここからは、山か海のどちらをメインに行くかを決める話が始まる……


「それよりさぁ、次の歌のジャンルは、海か山のどちらにする?」


 私は次の話を始める為、再び皆に意見を聞いてみた。


「そうねぇ…… 私は山が良いかな?」


「わたくしは、海が良いですわ」


 やっぱり、意見が分かれた。この様な話って言うのは、某お菓子のどちらが好き? と聞かれて、意見が迷うのと同様、絶対に意見が分かれるんだよ。その証拠に、今、こうして海派と山派の意見が分かれた。現時点では、お互い一人しかいないけど…… それに関しては、詩鈴の意見次第かな。とりあえず、今回は私はリーダーとして、意見の多い方に付こうと思う。


 そんな感じで、私はこの話を見届ける事にした。


「わっ、わたしは…… 特にどちらでも、だっ、大丈夫です」


 あれっ? 詩鈴は、まさかのどちらでも良いという意見!? 海派の紗美と山派の女月のどちらかを選べと言われると、確かに迷うよね。元々、人見知りな詩鈴の性格からすれば、こういうのって、絶対に迷うよね。とりあえず、様子を見ておこう……


「どちらでもって、何言ってるの!? 歌詞を書いているのは朝芽さんでしょ!!」


「その朝芽さんが決めない事には、次の歌は出来ないですわ!!」


 詩鈴がどちらかを決めれない事に関し、女月と紗美は詩鈴にどちらかを決める様、強く言い出した。確かに、歌詞を書く身であるのなら、こう言った事は決めておかないといけないよね。


「でっ、ですから…… わっ、わたしは、どっ、どちらでも、いっ、良いんですよ……」


 詩鈴は女月と紗美に圧倒され、少しおびえる様子でいた。


「だから、それがダメなのよ!!」


「そうよ、こういう事は、ハッキリと決めないといけない事よ!!」


 同時に女月と紗美は、詩鈴に近づきながら、どちらかを選ぶ様に迫っていた。その様子は、まるで1人の少女がイジメられているかの様な光景にも見えた。


 だが、詩鈴よ…… 仕方がない。厳しい事を思うが、世の中には、物事を瞬時に決めなければならない事はたくさんある。今のこの時こそ、瞬時に物事を決める習慣を付けたら良いではないか…… 私はそう思いながら、詩鈴の様子を見守っていた。


「朝芽さん!! 迷うのであれば、私の方を選ぶのよ」


「何を言いますか!! わたくしの方を選ぶのですわ!!」


「何を!? 山をテーマにした歌の方が、絶対に良いに決まってるわよ」


「いえ、夏と言えば海。その証拠に、海をテーマにした歌が多いのも間違いないでしょ!!」


 女月と紗美は自分の案を選んで欲しいが為に、詩鈴に先程よりも迫っていた。


「さぁ、早く私を選ぶのよ!!」


「迷う事はありません。わたくしの方を選ぶのですわ!!」


「ちっ…… ちょっと待って、ほっ、欲しいです……」


 更に女月と紗美に早くどちらかを決める様に迫られた詩鈴は、本当に困っているという感じであった。


 確かに、詩鈴の迷う気持ちは分かるよ。私だって、こう緊迫する様に迫られると、テンパって、なかなか1つの答えを出す事が出来なくなるのだもの。でも、詩鈴、何度も思うが、これもまた試練の1つよ。試練であるからには、決めなければいけない事なのよ。


 そんな感じで、私は聞かれてはならない事を思いながら、詩鈴の様子を見ていると、突然、詩鈴が私の方を見始めた。


 まっ、まさか…… さっきまで心の中で思っていた事が、全部まる聞こえ!? もし、そうだったら、ヤバい…… 今度は私がヤバい気持ちになっちゃうよ~


「どっ、どうしたの? 詩鈴」


「さっ、阪畑さんは、どっちですか?」


「えっ、何が?」


「海派か山派」


 詩鈴が私の方を見てきたのは、私の心の声が聞こえていたからではなく、海派か山派かどちらかを聞こうとしていたのね。


 なるほど…… って、感心している場合か!! いきなり、こういう選択系の質問をされると、私だって迷ってしまうよ!!


「そう言えば、麻子の意見を聞いていなかったわね」


「確かにそうね。阪畑さんはどちらを選ぶのでしょうね?」


 そして、女月と紗美も詩鈴に続く様に、私の方を見始めた。


「麻子はどっちなの?」


「阪畑さんは、海派ですよね?」


「この間の山探検も楽しんでやっていたし、やっぱり麻子は山派よね?」


「何を言いますか!? 阪畑さんは、この間の合宿の時は海水浴を楽しんでいらっしゃいましたよ。だからこそ、阪畑さんは海派よ」


 その後、女月と紗美は、私が海派か山派かどちらなのかで言い合いになった。


「さぁ、早く山派だと言いなさい!!」


「いいえ、海派と言うのですわ!!」


「ちっ、ちょっと待ってよ……」


 そして女月と紗美は、私に迫る様にしながら、強く言いに来た。それはまるで、先程の詩鈴の時と同じような光景となってしまった。


 確かに詩鈴と同様、すぐに判断を下すと言うのは、凄く難しい。この打開策は、海派か山派の2択のどちらかを選ばなければダメなのか? もしも仮に、その2択以外の選択肢があるのなら…… って、選択肢は2択しかない!! だったら……


「そうだ!! 毎年、夏の終わりに夏祭りがあるじゃないの!?」


 強引にでも、違う話題ににすり替えるしかない!!


「確かにあるけど、いきなり何言ってるのよ?」


「いやぁ…… 突然思い出しちゃってね。夏祭りも良いかなって……」


 ハハハ…… 強引に話題はすり替えたのは良いが、この後の話題が思いつかない。なにしろ、強引なだけに。


「夏祭りですか?」


 しかし、偶然にも運よく、紗美が夏祭りと言う言葉に食いついてくれた。


「そっ、そうだよ、夏祭りだよ!! 今年の夏祭りは、みんなで行こうかなっと思って……」


 運よく紗美が夏祭りの話に食いついて来たので、この夏祭りの話題で何とか持たす事にしてみよう。


「なるほど…… みんなで行ってみるのも良いわね?」


「わっ、わたしも、皆といっ、行ってみたいです」


「わたくしも、夏祭りという場所には、友達と行った事がないので、一度は行ってみたいですわ」


 強引に持ち出した話題であったが、紗美だけでなく、女月と詩鈴もその話題に食いついてくれた。


「そっ、そうでしょ…… じゃあさぁ、今年はみんなで行こうよ!!」


「そうね。それが良いですわ」


「わっ、わたしも、賛成です」


 なんとか、海派か山派の2択の選択から、一時的に逃れられたけど…… どうも、女月だけは、素直に賛成という顔ではなかった。まだまだ、完全に逃れられた訳ではなかった。


 そして、女月は私の顔を見てこう言って来た。


「確かに、夏祭りも面白そうだけど、そんな事よりも、次の歌のテーマである海派か山派はどっちなの?」


 結局、一時的に逃れられても、完全には逃れられる事は出来なかった。その為、私は重要な決断を下した。


「そんな事よりも、あの夏祭りには毎年、カラオケ大会があるのはご存じだよね?」


「知ってるけど? それが何か」


「そのカラオケ大会に、私達【D-$】のオリジナルソングで出ようではないか!!」


 その私の重要な決断と言うのは、夏祭りで開催されるカラオケ大会に出るという事である。それもオリジナルソングで。今までは、UTubeに投稿するというだけの活躍であったのが、生での活躍と言う時点で、私にとっては、とても重要な決断であった。


「オリジナルソングで!? それは面白そうね」


「確かに、面白そうですわ」


「たっ、たくさんの人が見ている中で、うっ、歌うのも、特訓になると思うのです」


 以外にも、皆はあっさりとOKをした。


「そうでしょ。良いと思うでしょ。せっかくだしさ、カラオケ大会で歌う様子を、UTubeにも投稿しようよ」


「それは良いですね!! わたくしは賛成よ」


 そして、私はその勢いで、次の投稿用の話も作り上げてしまった。


「じゃあ、決定だね!! 夏祭りのカラオケ大会にエントリーするという事に!!」


 そして、私はどさくさに紛れる様に、勢いのまま夏祭りのカラオケ大会に出る事を決めてしまった。


 しかし、まだまだ話は終わらなかった。


「夏祭りのカラオケ大会に出るのは良いとして…… 麻子、早く海派か山派のどちらかを決めなさい!!」


「結局決めるの!?」


「そうよ。これから作る歌のテーマにも繋がるのだから」


 結局、選択からは逃げる事が出来ませんでした。

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