夏の終わりの締めくくり

第30話 恥ずかしい衣装はやめよう……

 【D-$】のオリジナル曲の投稿から数日、この日もまた女月の家で、次の投稿に関する話を行っていた。


「ねぇ、次の投稿はどうする?」


「そうねぇ? やっぱり次も【D-$】のオリジナル曲で行こうよ」


「やっぱり、こう来ないとですね。他人の曲でやるよりも、自分達で作る曲の方が、やりがいがありますしね」


「たっ、確かに、自分達で作る曲の方が、やっ、やりがいがあると思いますわ」


「じゃあ、次もまた【D-$】のオリジナル曲で行きましょっか?」


「そうね」


「わたくしは賛成ですわ」


「わっ、わたしも賛成です」


「そう? じゃあ、決定だね。次もオリジナル曲で行く事が!!」


 その結果、皆一致で、次の投稿時に使う曲も【D-$】のオリジナル曲で行く事が決まった。


「そうね。その方が、ダンスの振り付けのやりがいもあるし」


「わたくしも、その方が衣装の作り甲斐もありますし……」


 そう言えば、前回の投稿時に使ったハイレグの様にキワドいレオタード衣装は、紗美が用意したんだった。もしかしたら、次もまたいやらしい衣装にされてしまうかも知れない!?


「ねぇ、紗美さん…… 次の衣装は、可愛い方向性で行かない?」


「可愛い? そうねぇ、どの様な感じでしょうか?」


「やっぱり、アイドルらしく、もっとフリフリスカートを付けてみるとか……」


 とりあえず私は、前回の様にいやらしいレオタード衣装にされない様にする為、アイドルがよく着ている定番的なスカートの事を言った。


「なるほど…… そんなフリフリスカート衣装が良いのですね?」


「そっ、そうだよ…… やっぱり可愛い衣装の方が、観ている人も喜ぶと思うんだよ……」


「確かに、麻子さんの言う通りかも知れないですね。次は可愛い路線の衣装で行ってみましょうかしら?」


「そっ、そうだよ!!」


 とりあえず、次の投稿時に使われる衣装は、前回の様にいやらしいレオタードではなくなるようである…… これで一安心。


 しかし、そう思っていたのもつかの間。その話を聞いていた女月が、またしても余計な事を言ってきた。


「えぇ、そんな可愛いのは、私は恥ずかしくて嫌よ。次もあのレオタードの方が良いわ」


「そう言う女月ちゃんは、前回のレオタードは恥かしくなかったというの?」


「あれは、動きやすかったし、恥かしいのなんてすぐになれるじゃないの」


 確かに、女月のいう通り、激しいダンスをやる分には、今まで投稿用に着てきたどの衣装よりも動きやすいのは確かである。


 でも…… 今までの投稿用に着てきたどの衣装よりも恥かしい衣装じゃないの!! 慣れれば、特に大したことがないと思っていたけど…… 結局、ハイレグなんて、食い込んで恥かしい思いをするだけじゃないの!!


「でも、動きやすいと言っても、アレは恥かしいじゃないの!!」


「だから、慣れれば大丈夫じゃないの?」


「慣れるわけがないじゃいの!!」


「どうしてよ?」


「だって、あんなハイレグを着て激しいダンスをしていたら、ハイレグ部分が食い込んでくるじゃないの!!」


「食い込む事の何が恥かしいのよ」


「いや、普通に恥かしいでしょ」


「だから、どういう風に恥かしいのよ?」


「食い込めば、毛とかハミ出るしさ……」


「ハミ出るなら、剃ればいいのよ!!」


「んな恥かしい事が出来るか!!」


 ダメだ…… 女月はやっぱり恥かしいというよりも実用性があれば完全にそっちを優先してしまっている。これでは、完全に話にならない。となると、かくなる上は……


 そう思い、私は詩鈴の方を見て、詩鈴に話しかけた。


「ねぇ、詩鈴は前回のレオタードの様なハイレグ衣装は、恥かしいと思ったでしょ?」


「はっ、はい…… 確かに、露出し過ぎな衣装だと、変な目線を感じてしまい、凄く恥ずかしいです……」


「そうでしょ」


 私は詩鈴に前回の投稿時に着たハイレグの様にキワドいレオタードは恥かしいかと聞いてみた。その理由は、詩鈴なら絶対に私と同様、あのレオタードは恥かしいと答えてくれると思ったからである。その結果、見事に詩鈴は恥かしかったと答えてくれた。私の予想通りであった。


 私と同意見の人の意見を得る事により、女月が恥かしくないと思っているイメージを打ち砕こうという策である。


「はいっ…… 前回は凄く恥ずかしいのを、我慢していました。これも投稿の為だと思って……」


「やっぱり、ヤダよね。あんな恥かしいのを着て踊るのは」


「言われてみますと…… 確かに嫌ですね。いくら、動画の撮影と言われても、結局はどこどの知らない人が見ているのですから……」


 すると、その後も詩鈴は、前回のレオタードの様な衣装を着ていた事が、凄く恥ずかしというのを語っていた。


 そして、私は詩鈴の話を聞いた後、再度、女月の方を見た。


「ほらっ、詩鈴だって、前回の衣装は恥かしいと言っているんだから、あの衣装はなしね」


「なんで、私の方を見て言うの?」


「だって、あの凄く恥ずかしいハイレグの様に鋭くキワドいレオタード衣装なんて、好んでいるのは女月ちゃんだけだもん」


「そんな事はないわよ、桜森さんだって……」


 そう言って、女月は同意見を得る為に、紗美の方を振り向いた。


 全く…… 女月よ、いい加減にしつこいんだよ。皆が恥かしいと思っているんだから、素直に諦めればいいものを…… それを、動きやすいとの理由で、こだわって。最も、私が思うには、あのハイレグの様に鋭くキワドいレオタード衣装は、アイドル歌手には似合わないと思うのよね。


「ねぇ? 桜森さんは、あの前回に着たレオタードの方がよかったと思うでしょ?」


「確かに良かったけれども、また同じようなのにするの?」


「同じのではダメなの?」


「同じのだと、観ている人が飽きませんか?」


「飽きるというのは?」


「なんというか、毎回毎回同じ衣装だと、マンネリ化すると言いますか」


「確かにそうね。桜森さんの言う通りね」


「そうでしょ。動画投稿の歌だって、毎回毎回、同じ歌を投稿しないのと同じ。衣装だって同じのばかりだとリスナーを飽きさせてしまうだけよ。少しでも人気を出そうと思うのなら、毎回同じ事をやっていてはダメ。毎回毎回違う事をしないとダメなのよ」


「そうね…… やっぱりワンパターンはダメね。次は違う事をしないと……」


 紗美は説得力のある言葉で、女月を諦めさせる事に成功した。さすがは、紗美さん!!


「それに、あの衣装は、麻子さんと朝芽さんは気に入らなかったようですしね」


「さっきの言葉は、それの意味もあるの?」


「そうですわね。私達【D-$】は、プロデューサーはいないものの、メンバー1人1人がプロデューサーみたいなものですし、何よりもグループでやっているのですから、多数決は大事よ」


「そうね、グループである以上は、多数決は大事よね」


「そうでしょ。多数決は大事よ」


「うん、麻子や詩鈴が嫌がる恥かしい衣装はやめよう……」


「じゃあ、次はアイドルの様に可愛らしい衣装で行きましょう?」


「はい……」


 こうして、紗美の説得の元、女月は恥かしいハイレグの様に鋭くキワドいレオタードの様な衣装を、次の動画でも着ようという事を諦めてくれた。


 本来なら、これで一件落着なのだが…… 私としては、女月の件以上に、どうしても気に食わない事があった。それは…… 先程、紗美が言った『プロデューサー』の事である。


 紗美は『プロデューサーはいないものの、メンバー1人1人がプロデューサーみたいなものですし、何よりもグループでやっているのですから……』と言っていたけど、【D-$】のリーダーである私から言わせてみれば、私が【D-$】のプロデューサーみたいなポディションだよ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る