二度目の敗北

 今なんて言った? 俺の幻聴でなければ二人一組をくじ引きで選ぶと言ったのか?


 おいおいおいおい、待ってくれよ。

 それはダメだ。考えられる限り最悪のシチュエーションだ。


「えー、くじ引きだって。千利君と別々になったらやだなぁ……」

「ならば我となるように運命を操作してやろう。この瞳に隠された力を解放せねばならんが……」

「うーん、かえでっちとかー、まぁ、知らない人よりいいかな?」

「な、なんやねん、かえでっちって!」


 それならそれでもいい。とにかく一織が萩井と組まなければ俺は構わないと思っている。


「くじの結果を変えるなどはなるべくしないで下さい。それでは回ります」


 一番いいのは生徒会長と萩井がペアになることだ。そうすれば二人で勝手にラブコメを始めるだろう。

 なんなら清水とでもいい。アレならラブコメ要員として事足りるはずだ。そう考えると、駐輪場で手を出したのは失敗だったかもしれない。

 ……いや、あの時はああしないと一織の心に萩井大和が住みつく可能性があった。


「どうぞ」


 気がついたら、生徒会長の持ったくじ引きが俺達の元へとやって来ていた。


「フハハハ! 我が運命操作の力を見よ!」

「神原一織、引きまーす」

「…………」


 割り箸で作られたくじを引き、書かれた数字は三。


「一織は?」

「六だぁ、かえでっちは〜?」

「九」


 見事にバラバラだった。そ、それでもまだ萩井と一織がペアと決まったわけじゃ……。


「萩井君は六ですね。一緒になれなくて残念です」

「せ、先輩。からかわないで下さいよ……」


 くそがぁ! なにがからかわないで下さいよだ!

 最悪だ。最悪のシナリオだ。

 しかもこれでハッキリした。ラブコメはやはり一織を狙っている。

 普通なら偶然と思われるこんなことも、あいつの周りでは必然だと思った方がいい。


「ま、マスター? なんか顔怖いで?」

「ほっとけ」

「なんだなんだ? 千利君は一織ちゃんと一緒になれなくてガッカリだったのかな?」

「まぁな」

「お、おおう……大丈夫大丈夫。千利君が呼んだら私はすぐに駆けつけるさ」


 そんなこと出来るわけない。いつもの軽口だろう。

 それよりどうする? くじを取り替えてもらうか?

 いや、しかしそれをあの生徒会長がなんの理由もなしに容認するとは思えない。


 ならば、一織と萩井のペアについて回るというのはどうだろう?

 となれば、俺のペアが誰なのかということになるが……。


「あの、三番ですよね? よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げて礼儀正しく挨拶をする少女。

 正直に言おう。誰だお前。


 って、よく見れば思い出した。確か副委員長になった……名前は覚えてないけど一年生の女子だ。

 生徒会長に負けず劣らずの真面目そうな雰囲気をしているし、気の強そうなところとか俺が苦手なタイプである。


「あ、あぁ……よろしく……」

「頑張って町を綺麗にしましょうね。普段お世話になっているのですから」


 お世話になっていたとてしても掃除はしたくない。それよりも、この子じゃ一織達について回るなんてできそうにないぞ……。


 そうだ……! 清水に引っ掻き回してもらうというのは……。


「ふっ、我の相棒は生徒会長か。この学園を牛耳る黒幕とも噂されるが、果たして我を従わせることができるかな?」

「山本先生から事情は伺ってます。今日の貢献具合を山本先生に伝えるのは私になっていますので、ちょうど良かったです」

「うち頑張りますんで、どうぞよろしくお願いします」


 ダメだ、使えん。

 バカとハサミは使いようと言うが、バカ過ぎて使いものにならない。

 まぁ、最初から当てになんかしてなかったのだが……そんな清水にも頼りたくなるくらいに追い詰められている。


「番号別に担当地区を割り振っていきますので、周辺マップを一組につき一枚、金貝委員長からもらってください」


 次々と俺にとって好ましくない状況へ変わっていく。それはつまり、ラブコメの舞台として整っていることと相違ない。


「よーし、宝の地図をゲットだぜ。ほら、萩井君、生徒会長と一緒じゃなかったからって落ち込まない。頑張るよ! レッツゴー!」

「別に落ち込んでないからね!? ちょっ、引っ張らないでって! 神原さんってなんかうちの犬みたい……」

「犬? 犬種は?」

「ゴールデンレトリバー」

「おっきいやつだ! わー、見てみたい」


 一織はコミュ力が高い。萩井がたとえラブコメに愛されていなかっとしてもああやって楽しく振舞っていたんだと思う。

 それでも、そんな姿を見たくないって思ってしまうのは……ただの自分勝手な気持ちだ。


「私達は川沿いですね。行きましょう先輩」

「……あぁ」


 一度舞台に上がれば降りられない。そういうふうに出来ているんだ。

 だからこそ舞台に上がらないように、一織を守ると決意をした矢先、わずか数日で二度目の敗北を味わうことになったのである。


 俺は無力な、ただのモブだった。

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