もはや呪いのようなもの
週末の土曜日。希志北高校の生徒のほとんどは休みを満喫している。
例外としてクラブ活動に励んだり、アルバイトに励んだりしている学生は除く。
そして、去年までの俺ならば前者と同じく、休みをゲームなどで満喫していたであろう。
だと言うのに今年はなぜか体操服を着て、学校の校門前に突っ立っていた。さらに説明すると、俺の現在の装備は長袖体操服上下、大きめのゴミ袋、掃除用トングである。
お察しの通り、文化委員の地域清掃ボランティアに参加しているわけだ。
俺が自発的にこんなつまらない上になんの報酬も出ないイベントに参加するようなやつに見えるか? 答えは否だ。
だと言うのに俺はここにいる。
「帰りたい……」
「うわぁ、やる気のなさが滲み出てる。やる気ないない星人だね」
「その星、どの辺にあんの?」
「M78星雲の隣かな?」
ウルトラなヒーローも隣の星にそんなやつらが住んでいて災難だな。きっといつもヒーローに助けられてるから自分でどうにかするってことをやめてしまったんだろう。
「……帰りたい」
「ほら、もうここまで来たんだから覚悟決める」
パンパンと軽快に背中を叩かれた。
そもそもこうなってしまったことにはちゃんと経緯がある。
アホな厨二病と出会ってしまった日、俺と一織はそのアホに連れ添って職員室に向かった。そのアホである清水は自転車の改造と帽子について説教され、自転車は元に戻すこと、そして、帽子も登下校のみ、それもまともな帽子にするように言われてしまう。
至極真っ当な話なのだが、ここでアホは最大級の罪を犯す。
せめて授業外では軍帽を被ることを許可をするようにとベルクこと山本先生へ食い下がったのである。
そして、あまりの熱量に押された山本先生はこんな提案をしたのだ。
『じゃあ、週末の清掃ボランティアに参加してしっかり働いたら私の方から他の先生にも口添えして上げるよ』
と言い、清水は喜びのガッツポーズをした。
『じゃあ、文化委員の委員長には僕から言っておくよ。三人参加でって』
俺は呆然と立ち尽くした。
もちろんすぐに拒否したのだが、学校内でも相当な権力をお持ちと噂の山本先生は聞く耳を持ってくれず、俺と一織はどうせ文化委員だろうという理不尽な理由でボランティア参加が決定されてしまった。
そのうちあだ名をベルクで学内中に浸透させてやろう思う。
という経緯で俺はここにいる。
「同胞よ。諸君らの奮戦、期待しているぞ?」
「あぁ、早速ゴミが。捨てなきゃ……」
「ちょっ、怖い怖い怖い! 助けて一織先輩!」
「どーどー、落ち着いて千利君」
一織の背に隠れる清水。
どういうわけかこのアホは一織に懐いてしまっていた。おそらく一織の溢れんばかりの包容力にやられてしまったのだろう。
今度、かほちんにチクってやる。
というわけで俺は最悪な休日を過ごすことが決まっていて、地域清掃ボランティアってだけでも嫌なのに、いつの日も不幸というものは立て続けにやって来るものなのだ。
「はい注目して下さい。今日は急な予定にも関わらず集まって頂きありがとうございます」
それだけで烏合の衆のようにまとまりのない生徒らが口を閉じ、生徒会長へ視線を向けた。
「正直あまり人手はありませんが、生徒会役員と文化委員の皆さんが力を合わせれば問題ありません」
大ありだわ。文化委員なんて俺達を含めて十人足らず。全員合わせても二十人もいない。対して今日の活動範囲は校区全域だ。
圧倒的に数が足りてない。
「それと、有志として今日は二年生の萩井大和君と一年生の清水楓さんが参加してくれています。お二人共ありがとうございます」
……そう、これがもう一つの不幸。
この場に萩井大和がいる。
失念していた。地域清掃ボランティアというイベント。そこにはラブコメ要員の生徒会長、鷺ノ宮麗が参加するのだ。
ラブコメ的にそんなシチュエーションを逃すはずがない。
これはもはや呪いのようなものだ。
イベント、美少女、
俺は今日、真っ向からラブコメと戦わなくてはならないかもしれない。
一織をラブコメから守るために。
「掃除は二人一組でやってもらいます。くじを作って来ましたので引いてください」
……は?
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