我が名は!
「いや、一人でいけよ。さっき俺を越えたとか言ってただろ」
「そ、それは……ならばなぜ我が前に現れたのだ!」
「ラブコメぶっ壊しに来た」
「????」
頭の上にクエスチョンマークが四つくらい浮かんでそうな顔になる厨二少女。俺も適当な言い訳を考えるのが面倒だったからと言ってそのまま伝えたのは間違ったかもしれないと今更思う。
「……そ、それはまさか……概念を殺すというマスターの能力……」
……そんな能力があれば今俺の心はこんなにもダメージを受けていないはずだ。
しかしそうか……ラブコメをぶっ壊すというのは概念を壊すと言っているようなものなのか。なんて厨二心をくすぐる……って、んなわけねぇ。
「まぁ、そうだ。そしてそれは達成されたから、あとは勝手にしろ」
「えー、一緒に行ってあげようよ?」
気がついたら一織が近づいて来てそんなことを言い出した。
そんな一織に厨二少女はまた変なのがやって来たみたいな顔をしているけど、この場でお前が一番変なやつだからな?
多分、次に俺だろうけど。
「私は二年の神原一織。あなたは?」
「ふんっ、俗物に名乗る名など……」
「よし帰ろう千利君」
「あっ、あっ、待って……」
途端に慌てる。この時点ですでに格付けされたようなものだな。
もちろん一織が最強。
「と、特別に我が名を教えてやろう。そう、我が名は……!」
「名前とかいいから早く職員室に行こうぜ?」
「そうですね、そうしましょう。ってなんでやねん!」
いきなりノリツッコミされるとは思わなかった。
「コホン。我が名は……!」
「あ、千利君肩に糸くず」
「え? どこどこ?」
「なんでなん……そっちが名前聞いてきたんやん。酷ない?」
泣きそうになる厨二……いや、もはやただの少女。
厨二の代わりに関西弁少女になってしまった。
……なるほどなぁ。これは萩井のラブコメ要員の才能あるわ。
あの濃い連中に劣らず、それでいて新しい風を吹かせてくれそうな感じがする。
「ご、ごめんね! 別にそんなつもりはなかったんだけど……」
俺はあった。
多分こいつは遅かれ早かれラブコメに参戦する。その時に俺や一織とあまり関わりを持っていて欲しくないというのが本音だ。
「じゃあ言うで? もう邪魔せんといてな? ……ホンマに言うで!?」
フリか?
「早くしろ」
「コホンッ。この世の理より解放されたハプスブルク十二騎士が一人。我が名は……!」
「そういうのはいいから本名名乗って?」
「ほらぁ! また邪魔したやん! なんでなん!? うちの邪魔すんのが仕事なん? ええ加減にせぇや!」
「いい加減にすんのはお前だ。帰るわ」
こっちは長々と付き合うつもりはないのだ。一織が付き添うなんて言い出さなかったらさっさと帰ってる。
「あぁ、
「さっきはなんて名乗ろうとしたの?」
「アーホルン」
「アホ?」
「ちゃうわ! ドイツ語で楓とか
「やっぱりアホか」
ムキーと猿みたいにキレて、地団駄まで踏む始末。
正直に言って直球過ぎて面白味がない。
「それで……マスター先輩のお名前はなんです?」
「敬称に敬称を付けるな」
「だってマスターやし……」
それは成り行きであって、本当にお前の師匠になるつもりはない。あと、ドイツ関連で名付けてんのに、どうしてそこだけマイスターじゃなくてマスターなんだ?
厨二病あるある、設定が所々甘い。
「もう、意地悪しないの千利君」
「……塚本千利」
「今回は失敗しなかったね?」
「はいはい。言うと思ったよ」
絶対にこの流れになると思ったから嫌だったんだ。
「で、清水はそのチャリのチェーンを先生に外してもらうんだろ?」
「その通りだ。我の相棒、ファールラートが……このように拘束されてしまうなど……」
「そりゃ、こんなので学校に来んなよ」
「でもかっこいいやろ!?」
「「いや、クソダサい」」
「んなアホな!?」
アホはお前だ。
どこからどう見てもダサい。むしろ鉄十字に謝れ。
「じゃあ、この帽子は!」
「それは……」
「それ、凄いねぇ。制服に合ってるし」
「やろ!? ここの制服めっちゃかっこええねんもん。わざわざ大阪出て、一人暮らし始めた甲斐あったわー」
あぁ、コイツは救いようのない馬鹿だ。親御さんはきっと苦労してるんだろうなと容易に想像がつく。
「ちょっとお借りしてもいいかな?」
「むっ、仕方ないな。これは我が魂の一部であるが、今日は特別だ」
魂の一部軽いなぁ。
清水から軍帽を借りて頭に乗っける一織。
そして、こっちを向いて、ドヤる。
「どうかな? 千利君」
「エロそう」
「エロそう!? なにその感想!?」
「じゃあビッ〇そう」
「幼馴染みに対してそれは酷すぎないかい!?」
こうSっ気全開の笑顔で下士官を虐めるタイプの女上官みたいな……。
あと、まぁ、清水より様になっててカッコイイと思う。部外者の女子が離れたところでキャーキャー騒いでるし。
はい、カメラ厳禁でーす。
「とりあえず職員室に行かない?」
「そうだね。はい、ありがと」
「礼には及ばん。さぁ、早くファールラートの戒めを解いてやらねば」
「ところで、ファールラートって日本語でなんて言うの?」
「…………」
ファールラート……日本語では自転車。
清水が一織の問いに答えることはなかった。
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