第12話 トカゲドラゴン
「ふぁ………」
朝、私は寝ぼけた眼をこすりながら入り口へと向かう。扉を開けると朝食が下にあった。
私が研究所に雇われてから一ヶ月が経過した。
いちいち食堂で食べるのは面倒くさい、ということで運んできてもらうことにしたのだ。
あれからベアドンと共に、三匹のドラゴンを撃退し殺した。全部おんなじ……オーソドックス・タイプのドラゴンだった。
朝食は野菜メインのサンドウィッチ。パッケージを破り、それを頬張りながらぼんやりと考える。
ベアドンやドラゴンのことについてだ。
幾度となくリアに聞いてみたが「そのうち理解できるからわかんなくても大丈夫だよぉ」というニュアンスの言葉を言われてばかり。
お話にならない。
だから自分なりに考えることにした。
ドラゴンは別の次元から来ていて、この研究所の地下にたくさんあるらしい『マナ』を狙っている。
ちなみに私……その『マナ』というものを実際に見たことがない。リアに言っても連れていってもらえなかった。
「……横暴じゃね?」
口にせずにはいられなかった。だから独り言。
あぁどうでもいい……思考を正しい線路に戻す。
そのドラゴンは有限だが『マナ』を体内で作ることができ、その『マナ』を全身に纏い身を守るための障壁としている。
その障壁は通常火器では破ることができない。
一度、ドラゴンが来た時にデカいミサイルを三発撃ち込んでもらったが、ドラゴンはピンピンしてた。
その強力な『マナ』の障壁を簡単に打ち破れるのは、現状ではベアドンのみ。
ベアドンは地下の『マナ』によって誕生し成長したヒグマ。(ベアドン本人から直接聞いた)
『マナ』のパワーを受け続けたため、体内に『マナ』を貯蔵できるようになったそうだ。
それゆえにベアドンも『マナ』の障壁を持っている、それもドラゴンのより頑丈なのをだ。
ドラゴンに対して攻撃が有効なのは、障壁同士ぶつけて強引にぶち破っているから……らしい。
なんとも力技なことだ。
「……ふぅ」
軽めの朝食終了。ごちそうさまなんて一人の時に言っても仕方ない。
この一ヶ月、私はベアドンの戦いに付き合わされる時以外は暇している。
平常時、見事なまでになにもすることがない。
リアから支給されたスマホでゲームをしたりネットサーフィンしたり、とにかく時間潰しに明け暮れていた。
ベアドンがぬいぐるみの姿で部屋までやって来たことがあった。
招き入れた途端に特撮映画の話が鉄砲水のごとく噴出。登場する怪獣の話をじっくりこってり五時間ほど聞かされた。
それ以来、この部屋の中に他者を入れることを控えるようにした。
さらに部屋の外にも、可能な限り出ないようにもした。関わると面倒くさい連中が、この研究所には揃っているからだ。マトモなのは私だけだ。
私は片付けを後回しにして、もう一度寝ようと思った。二度寝の快楽は一度味わった時点で癖になった。
ベッドに向かおうとしたその瞬間。
忌まわしき警報が鳴り響きやがった。
耳を塞ごうと思ったら、コンコンとノック音。
扉を開けるとリアがいた。迅速な行動お疲れさん。
「ベアドンはぬいぐるみで外に待機してる。やりたい登場の仕方があるんだって」
「そんなことより警報止めろ、やかましくてたまらないよ」
普通に静かに呼びに来てくれれば行く。わざわざ大音量で呼び出すことなどしてくれなくていい。鬱陶しいから。
「一応、規則だからさぁ。我慢しておくれぇ。そんなことより、外に行こぉ。服もバッチリなようだから、すぐに行けるねぇ?」
「……行ける、だからムカつく言い方しないでよ」
リアの物言いが本当に嫌いだ。
喋り方も腹立たしい。口を開くことなくこれから慎ましく惨めに生活をしてほしい。
そんなことを思いつつも、私は立派な人間。たまにいる、うっかり心の内を全て口にしてしまうようなポンコツ人間とは違う。
私はちゃんと胸のうちに秘めておける。宝物を仕舞う時は鍵をかけるように、警戒万全ガッチリと。
良好な人間関係を築き、維持するには必須の技術だ。アホにはできない。
私は気分を落ち着かせ、リアと共に例のバルコニーへと向かった。
「……いつものと形状が違うんじゃない?」
今まで見てきたドラゴンはファンタジーな映画やアニメで見るようなドラゴンだった。
だからオーソドックス・タイプなんて呼ばれてた、ドラゴンらしいドラゴンだ。
「そだねぇ。ありゃ明らかにオーソドックスじゃないヤツだねぇ、あんなのはトカゲだぁ……前にスオウちゃんを襲ってたヤツの大きいバージョンみたい」
四つ足で這い動く全長四十メートルは優に越える巨大トカゲ。
だがここまで大きいとドラゴンとそんなに変わりがない。顔だってどっちかというとドラゴンよりの顔をしているし。
「背中に羽も付いてるし、こりゃ間違いなくスオウちゃんを襲ったアレの巨大化したタイプだねぇ。単純だけどリザード・タイプとでも呼称しよっかぁ」
リアがそんなフウに呑気にしている間に、トカゲのドラゴンはこちらを睨みながらこっちへ進んできている。
このまま突進されれば、頑強であろう研究所もただで済むはずはない。
「おぉ、こっち来てるねぇ」
「ベアドンはどうしたんだよッ、来いやッ!」
私が叫んだ瞬間、地面が揺れる。
地震じゃないのはわかっている。
これはベアドンの足音だ。
何故わかったのか、理由は簡単。
突如として私たちの目の前に出現したからだ。
地面からニョキニョキって、長めの雑草みたいに生えてきたのかと思った。
「ぬいぐるみ状態からのグゥングゥンとした巨大化……うん、悪くない。怪獣感は薄れるが、そのぶんヒーローな感じが際立っている気がする」
「……くっそ心臓に悪い登場の仕方、もう二度としないでね」
ベアドンは満足したようだが、ドラゴンがこっちに這ってくるのに変わりはない。
満足するなら終わってからにしてほしいものだ。
「……乗せるならさっさとしなよ」
「素晴らしい! ノリ気で結構なことだ、スオウ!」
私のことを無遠慮に掴んで頭に乗せる。
もう慣れてしまった。高さへの恐怖はもうさっぱり消えた。
「BEARRRRRRRRRRRR!!」
追っ払うためのではなく宣戦布告を意味する威嚇。
「VIAAAAAAAAAAAA!!」
リザード・タイプのアイツもやる気は充分な様子。
しかし地面を這う動きならば、ベアドンは踏みつけられる。頭を潰すことができれば一発で仕留められるだろう。
もしかしたら、オーソドックス・タイプのヤツよりも倒すのは余裕なのではないか?
私は心のなかでそう思った。
「よぉし、さっさと終わらせてね」
「油断しているな? この馬鹿者め」
「喧嘩売ってんのか、クマコラ?」
「予習しておけよ……こういった実践の前には特にな、捕まっていろ来るぞ」
何の予習だよって突っ込む前に、事は起きた。
リザード・タイプがこちらに向かって吠えながら突進してくる。
四つ足でのっしのっし、とオーソドックス・タイプに比べたら迫力がない。今は私の目線が高いからこういうことが言えるんだろうが、それでもやっぱり強そうなのはオーソドックスが勝る。
「踏んじゃえ!」
「BEARRR!」
リザード・タイプの頭がベアドンの間合いに入った瞬間には終わる。
そう思ってた。
ヤツの頭を狙った踏みつけは、スルリと回避されてしまった。
「頭は素早いのかよ、なんだよ!?」
首を振る最小限の動きを高速でやりやがったリザード・タイプは、顔の半分を占める大顎でベアドンの右足に噛みついた。
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