「月掴む」

 彼女が縁側で晩酌をしていた。小さな徳利からお猪口に酒を注ぎ、それを中身が溢れないように傾けたり腕を伸ばして体から遠ざけたりして見ていた。

 何やってるんだろうと思ったが、ふと空を見上げれば。柔らかくほのかに霞んで見える朧月。

 その真意に気付いて小さく笑うと、私に気付いた彼女が手招きする。

 頷いて近寄れば、お猪口の傾きをそのままに彼女が、にぃっと笑って。


「月を掴んだぞ!」


 と八重歯を見せながら悪戯気に言った。

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